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第152話 聖女、嫉妬する
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フランスの目の前で、アミアンとイギリスが、のほほんとお喋りしている。
「それで、昨日シトー助祭を無理矢理池に引きずり込むために、ご自分のマントまでびしょびしょの台無しにされたんです」
「ふうん。凶暴なうえに考えなしなところが、フランスらしいな」
なんですってえぇぇぇ。
皮肉もむかつくけど、直球もむかつくわ。
フランスと、アミアンとイギリスは、まだ午前の早い時間に、フランスの私室にいた。
アミアンは、聖女フランスの姿をしたイギリスの髪をとかしつけている。イギリスは鏡台の前に座って、昨日フランスが焼いた焼き菓子をもぐもぐしていた。
イギリスが自分で選んだベリージャムがたっぷり乗った焼き菓子だ。
イギリスの要望で、劇的に甘く仕上げてある。
よくあんな甘いもの食べられるわね。
歯茎がおかしくなりそうなほど、甘かったわよ。
イギリスは機嫌良さそうに焼き菓子をもぐもぐしていた。
フランスは、その様子を、見てから、荷造りする手をすすめた。
もう明日には、ブールジュのいる西方に向けて出発しなければならない。馬車で三日もかけて移動する旅だ。私物は少ないけれど、それなりの荷物の量になる。
今回は貸衣装屋を呼ばなくても、ダラム卿が用意してくれたあの数々のドレスのおかげで、出費がおさえられる。
ほんと、ありがたいわ。
あれ……、前まで使っていたストラ、どこに置いていたかしら……。
フランスは、イギリスの髪をとかしているアミアンに声をかけた。
「アミアン、ストラどこだっけ?」
アミアンが振り向いて答える。
「ああ、それなら……」
アミアンが動こうとすると、イギリスがすかさず言った。
「アミアン、肩がいたい」
「あらら」
アミアンがイギリスの肩をもみもみしながら「冷えちゃったかもしれませんね」と言う。
アミアンは、イギリスの肩をもみながら、フランスに向かって言った。
「たしか、執務室のほうに、祈祷で使う道具と一緒に置いていましたよ」
「そっか、じゃあ、もうこの部屋で詰め込むものは詰め込んだから、次は執務室ね」
アミアンが、肩をもみもみしながらイギリスに向かって言った。
「陛下も、執務室に行かれますか?」
「うん」
アミアンが、イギリスの顔をのぞきこんで言う。
「陛下、口の周りに焼き菓子がついちゃいましたね」
イギリスが、アミアンに顔を差し出すようにした。
アミアンが、ハンカチでそっとぬぐうようにする。
なによ、アミアンに甘えちゃって。
中身が入れかわっているからって、まるで自分の侍女みたいに!
アミアンにべったり……。
アミアンは——、わたしの侍女よ‼
三人で執務室に移動する。そこでも、フランスが荷造りに、あっちこっちから物をひっぱりだしつつ、アミアンに物の場所を聞いたりするが、そのたびにイギリスが邪魔をする。
こんな感じだ。
「アミアン、インクがなくなった」
「アミアン、足元がひえる」
「アミアン、背中がだるい」
「アミアン、ペン先がわるい」
「アミアン……」
フランスは思わず立ち上がって、言った。
「ちょっと」
イギリスが、なんだ、という顔でフランスを見た。
なんだ、みたいな顔がもうむかつくわ。
フランスは、刻むようにはっきりと言った。
「アミアンは、わたしの、侍女よ」
イギリスが、聖女フランスの姿で、あごをつんとあげ、鼻で笑ってから言う。
「今は、わたしの侍女だ」
自分の顔だけど、ほんとむかつく顔してるわ。
「ちがうわ、身体は入れかわっても、わたしの侍女でしょ! そうよね、アミアン!」
「あらら」
アミアンは、面白がっていそうな顔をした。
イギリスが、さらに腹の立つ煽り顔で言った。
「皇帝陛下は、ひとりで荷造りしてろ」
あっ、ほんとにむかつくわね。
フランスは、アミアンに向かっても言った。
「アミアンも、ひどいわ! わたしが、アミアンのたったひとりのお嬢様なのに、わたしがイギリスの身体の時は、くっついてくれないし、寂しいじゃない!」
「でも、お身体は陛下ですし」
「中身は、あなたのお嬢様でしょ!」
フランスがむくれているとアミアンは「たしかに、それはそうです」と言って笑った。
「かわいいって言って、ぎゅってして」
フランスが仁王立ちでそう言うと、イギリスが嫌そうな顔をして言った。
「わたしの身体で、とんでもないことを言うのはやめろ」
たしかに!
魔王イギリスの姿で、侍女に向かってこんなこと言うのは、とんでもない気がする。フランスは笑いそうになったが、ここはぐっと我慢して、アミアンに訴えた。
「アミアン、あなた、姿が変わったからって、わたしへの態度を変えちゃうの⁉」
「そう言われると、そうですね。陛下の姿だから、ちょっと、避けていたかもしれないです」
「そうでしょ! わたし、さみしい!」
イギリスが、いつもの無表情で言う。
「フランス、やめろ」
うるさいわ。
だまってなさい。
にせもの。
アミアンが、大きく息をすいこみ、胸をはって言った。
「では、アミアン、本気でいきます」
イギリスが、すこし焦ったような声で言う。
「おい、アミアン」
アミアンが、フランスの両頬をがしっとつかんだ。
いつもなら見上げるアミアンの顔が、ちょっと下の方にある。
新鮮。
アミアンが、大きな声で言った。
「お嬢様は~、かわいい! かわいい! かわいい! 大好き! 大好き! 大好き!」
アミアンが顔中にキスしてくれる。
フランスは満足して、そのままアミアンをぎゅっとやって、抱き上げた。
ひょいっとアミアンが持ち上がる。
わ~、楽しい~。アミアンのこと抱っこできる~!
普段なら絶対できないのに~!
フランスはそのままくるくるやった。
その時、ノックの音とともに、シトーが入って来た。
イギリスとフランスの、小さい声が同時にかさなる。
「あ」
「あ」
シトーはチラッとフランスのほうに冷たい視線をやって、イギリスの机の上にぽいっと書類を放って、無言のまま去って行った。
アミアンが、おかしそうに「あらら」という声が部屋に響いた。
***********************************
おまけ 他意はない豆知識
***********************************
【ストラ】
司教、司祭、助祭が礼拝の際に使用する、首から掛ける帯のこと。
「それで、昨日シトー助祭を無理矢理池に引きずり込むために、ご自分のマントまでびしょびしょの台無しにされたんです」
「ふうん。凶暴なうえに考えなしなところが、フランスらしいな」
なんですってえぇぇぇ。
皮肉もむかつくけど、直球もむかつくわ。
フランスと、アミアンとイギリスは、まだ午前の早い時間に、フランスの私室にいた。
アミアンは、聖女フランスの姿をしたイギリスの髪をとかしつけている。イギリスは鏡台の前に座って、昨日フランスが焼いた焼き菓子をもぐもぐしていた。
イギリスが自分で選んだベリージャムがたっぷり乗った焼き菓子だ。
イギリスの要望で、劇的に甘く仕上げてある。
よくあんな甘いもの食べられるわね。
歯茎がおかしくなりそうなほど、甘かったわよ。
イギリスは機嫌良さそうに焼き菓子をもぐもぐしていた。
フランスは、その様子を、見てから、荷造りする手をすすめた。
もう明日には、ブールジュのいる西方に向けて出発しなければならない。馬車で三日もかけて移動する旅だ。私物は少ないけれど、それなりの荷物の量になる。
今回は貸衣装屋を呼ばなくても、ダラム卿が用意してくれたあの数々のドレスのおかげで、出費がおさえられる。
ほんと、ありがたいわ。
あれ……、前まで使っていたストラ、どこに置いていたかしら……。
フランスは、イギリスの髪をとかしているアミアンに声をかけた。
「アミアン、ストラどこだっけ?」
アミアンが振り向いて答える。
「ああ、それなら……」
アミアンが動こうとすると、イギリスがすかさず言った。
「アミアン、肩がいたい」
「あらら」
アミアンがイギリスの肩をもみもみしながら「冷えちゃったかもしれませんね」と言う。
アミアンは、イギリスの肩をもみながら、フランスに向かって言った。
「たしか、執務室のほうに、祈祷で使う道具と一緒に置いていましたよ」
「そっか、じゃあ、もうこの部屋で詰め込むものは詰め込んだから、次は執務室ね」
アミアンが、肩をもみもみしながらイギリスに向かって言った。
「陛下も、執務室に行かれますか?」
「うん」
アミアンが、イギリスの顔をのぞきこんで言う。
「陛下、口の周りに焼き菓子がついちゃいましたね」
イギリスが、アミアンに顔を差し出すようにした。
アミアンが、ハンカチでそっとぬぐうようにする。
なによ、アミアンに甘えちゃって。
中身が入れかわっているからって、まるで自分の侍女みたいに!
アミアンにべったり……。
アミアンは——、わたしの侍女よ‼
三人で執務室に移動する。そこでも、フランスが荷造りに、あっちこっちから物をひっぱりだしつつ、アミアンに物の場所を聞いたりするが、そのたびにイギリスが邪魔をする。
こんな感じだ。
「アミアン、インクがなくなった」
「アミアン、足元がひえる」
「アミアン、背中がだるい」
「アミアン、ペン先がわるい」
「アミアン……」
フランスは思わず立ち上がって、言った。
「ちょっと」
イギリスが、なんだ、という顔でフランスを見た。
なんだ、みたいな顔がもうむかつくわ。
フランスは、刻むようにはっきりと言った。
「アミアンは、わたしの、侍女よ」
イギリスが、聖女フランスの姿で、あごをつんとあげ、鼻で笑ってから言う。
「今は、わたしの侍女だ」
自分の顔だけど、ほんとむかつく顔してるわ。
「ちがうわ、身体は入れかわっても、わたしの侍女でしょ! そうよね、アミアン!」
「あらら」
アミアンは、面白がっていそうな顔をした。
イギリスが、さらに腹の立つ煽り顔で言った。
「皇帝陛下は、ひとりで荷造りしてろ」
あっ、ほんとにむかつくわね。
フランスは、アミアンに向かっても言った。
「アミアンも、ひどいわ! わたしが、アミアンのたったひとりのお嬢様なのに、わたしがイギリスの身体の時は、くっついてくれないし、寂しいじゃない!」
「でも、お身体は陛下ですし」
「中身は、あなたのお嬢様でしょ!」
フランスがむくれているとアミアンは「たしかに、それはそうです」と言って笑った。
「かわいいって言って、ぎゅってして」
フランスが仁王立ちでそう言うと、イギリスが嫌そうな顔をして言った。
「わたしの身体で、とんでもないことを言うのはやめろ」
たしかに!
魔王イギリスの姿で、侍女に向かってこんなこと言うのは、とんでもない気がする。フランスは笑いそうになったが、ここはぐっと我慢して、アミアンに訴えた。
「アミアン、あなた、姿が変わったからって、わたしへの態度を変えちゃうの⁉」
「そう言われると、そうですね。陛下の姿だから、ちょっと、避けていたかもしれないです」
「そうでしょ! わたし、さみしい!」
イギリスが、いつもの無表情で言う。
「フランス、やめろ」
うるさいわ。
だまってなさい。
にせもの。
アミアンが、大きく息をすいこみ、胸をはって言った。
「では、アミアン、本気でいきます」
イギリスが、すこし焦ったような声で言う。
「おい、アミアン」
アミアンが、フランスの両頬をがしっとつかんだ。
いつもなら見上げるアミアンの顔が、ちょっと下の方にある。
新鮮。
アミアンが、大きな声で言った。
「お嬢様は~、かわいい! かわいい! かわいい! 大好き! 大好き! 大好き!」
アミアンが顔中にキスしてくれる。
フランスは満足して、そのままアミアンをぎゅっとやって、抱き上げた。
ひょいっとアミアンが持ち上がる。
わ~、楽しい~。アミアンのこと抱っこできる~!
普段なら絶対できないのに~!
フランスはそのままくるくるやった。
その時、ノックの音とともに、シトーが入って来た。
イギリスとフランスの、小さい声が同時にかさなる。
「あ」
「あ」
シトーはチラッとフランスのほうに冷たい視線をやって、イギリスの机の上にぽいっと書類を放って、無言のまま去って行った。
アミアンが、おかしそうに「あらら」という声が部屋に響いた。
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おまけ 他意はない豆知識
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【ストラ】
司教、司祭、助祭が礼拝の際に使用する、首から掛ける帯のこと。
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