ソッチドッチ ~魔王と聖女の入れかわり! 入れかわれば、本当の姿が見えてくる?~

櫻恭史郎

文字の大きさ
151 / 205

第151話 家族はここにいる

しおりを挟む
 フランスはシトーの首に手をまわして、ぎゅっと抱きしめながら、そのまま泣いた。

 ふがいない。

 こんなに側にいて、今までに、彼についてもっと知る機会はあっただろうに、何も知らなかった。シトーがよくしてくれるからって、それに甘えてばかりの己に腹が立つ。

 ずっと、彼はひとりで、おそれを抱えていたのに。

「シトー、ごめんね。もっと、あなたのこと、気にかけるべきだった。ずっと、そんなふうに思っていたなんて」

 シトーがフランスの腰に腕をまわして、支えるようにして岸に向かって動いた。

 池の底にフランスの足がついたところから、一緒に歩く。ふたりで支え合いながら、岸に向かって足を動かした。

 池の冷えた水が、足からすべての力を奪うようだった。
 感覚がなくて、まるで足首に力が入らない。

 シトーは、フランスの腕を服の上からつかんで支えていた。
 何度か、転びそうになりながら、ふたりで岸に上がる。

 岸に上がると、シトーはすぐに、フランスが着ているマントやスカートのすそを絞った。絞れるところは全部。

 フランスもシトーの服をそうしようかと思ったが、布地は水をすって分厚く、さすような冷たさで、すこしもひねったりできなかった。

 シトーはフランスの服を絞り終えると、自分の服も絞った。

 フランスは、ただじっと見ているしかできない。

 役立たず。

 泣いたって、なんにもならない。
 けれど、涙が止まらなかった。

 シトーのために、何をなげうっても、今できるすべてのことをしてあげたいし、与えられるものは、すべて、与えたい。

 でも——。

 何もないような気がした。

 フランスは、まるで子供が泣くみたいにして、手放しで泣いた。

 シトーが困った顔で正面に立ち、袖で手を覆って、直接は触れないように注意しながら、フランスの涙をぬぐう。

 それが、また悲しくてフランスは、泣いた。

 シトーがさらに困った顔をする。

 フランスは、両手でシトーの顔を引き寄せるようにした。彼は、されるがまま、フランスに顔を近づける。

 手で触れるのは、こわいけれど、それ以外を触れられるのは、こわくないのね。

 母親に、手で触れたからかしら。

 フランスは、泣きながら、シトーの顔中にキスした。額にも、瞼にも、頬にも、鼻筋にも、唇以外は、あますところなく全部にキスする。

 顔をはなすと、シトーが色素のうすい顔を真っ赤にしていた。

 耳まで、真っ赤だった。
 首も真っ赤だ。

 もうなんだったら、唇にまでキスして気持ちを伝えたいところだけれど、そこは我慢しておく。
 
 フランスは、シトーをぎゅっと抱きしめて、言った。

「シトー、いい子ね。わたしの愛しい子、何よりも大切な子、わたしの天使、わたしの光。この世に生まれた時から、すべての愛を受けるべき祝福の子」

 何か、あたたかな記憶を思い出した。

 やわらかな腕で、自分を抱きしめて、この世でもっとも優しそうな声でそう言った人がいた。

 誰だったかしら。
 ぼんやりとして、思い出せない。

 フランスは、シトーの額に、自分の額を重ねて、祈るようにして言った。

「おそれるな、わたしはあなたとともにいる。たじろぐな、わたしがあなたの神だから。わたしはあなたを強め、あなたを助け、わたしの義の右の手で、あなたを守る」

 すこし顔をはなし、シトーの瞳をしっかりと見つめる。

「あなたが、おそれに囚われて、誰とも触れ合わずに、ひとりで手を冷やすなら、わたしの手の温もりをぜんぶあげる」

 フランスは、ゆっくりとシトーの手に、自分の手を近づけた。
 こわければ、逃げられるように、ゆっくりと。

 シトーは逃げなかった。

 フランスは、そっと、シトーの指先にふれた。

 シトーの指は、一瞬おそれるようにフランスの指先から離れたけれど、それ以上は逃げなかった。

 フランスが、さらに触れて、握りしめると、それ以上は抵抗しない。

 フランスは、シトーの手を引き寄せて、自分の頬にあてた。シトーの手を上から包むように、フランスも手を重ねて、自分の頬に押し付けるようにする。

 彼の手は、ひどく震えていた。

 フランスはシトーの顔を見つめた。
 迷子の子供みたいな表情が目の前にあった。

 フランスの手も、シトーの手も、池につかったせいでひどく冷えている。

「すっかり冷えちゃったけど、こうして触れ合えば、お互いにすこしあたたかいわ。シトー、もっとあなたの望みもおそれも、言ってちょうだい。わたし、あなたのこと、もっと知りたいのよ。あなたにとって家族の思い出は、良くないものだったかもしれない。でも、今は、教会にいるみんながあなたの家族よ。わたしもね」

 シトーがうなずく。

 いつもの反応。

 シトーがすんなり話すようになるには、まだまだ時間が必要そうね。
 でも、ひとつ近づけたかもしれない。

 こうして、ひとつひとつ、近づいていこう。
 大切なものに。

 フランスは笑顔で言った。

「帰ろうか」


 シトーがうなずく。




 ***********************************
 おまけ 他意はない豆知識
 ***********************************
【聖句紹介】
旧約聖書 イザヤ書 41章10節
恐れるな。わたしはあなたとともにいる。
たじろぐな。わたしがあなたの神だから。
わたしはあなたを強め、あなたを助け、わたしの義の右手で、あなたを守る。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

引きこもり聖女は祈らない

鷹 綾
恋愛
内容紹介 聖女ポーラ・スターは、引きこもっていた。 人と話すことができず、部屋から出ることもできず、 彼女の意思表示は、扉に貼られる小さなメモだけだった。 「西の街道でがけ崩れが起きます」 「今日は、クラムチャウダーが食べたいです」 祈らず、姿も見せず、奇跡を誇示することもない聖女。 その存在は次第に「役立たず」と見なされ、 王太子リチャードから一方的に婚約を破棄され、聖女の地位も解かれる。 ──だが、その日を境に、王国は壊れ始めた。 天候不順、嵐、洪水、冷害。 新たに任命された聖女は奇跡を演じるが、世界は救われない。 誰もが気づかぬまま、 「何もしない聖女」が、実はすべてを支えていた事実だけが残されていた。 扉の向こうで静かに生きる少女と、 毎日声をかけ続ける精神科医フォージャー。 失われていく王国と、取り戻されていく一人の人生。 これは、 祈らない聖女が選んだ、 誰にも支配されない静かな結末の物語。 『引きこもり聖女は祈らない』 ざまぁは声高でなく、 救いは奇跡ではなく、 その扉の向こうに、確かにあった。

処理中です...