186 / 205
第186話 ウリムとトンミムの行方
しおりを挟む
フランスとイギリスの目の前で、大きな机の上に、大量の書物が積み上げられていった。
フランスは、うずたかく積み上げられた書物の間から、賢者たちの様子を見た。彼らは、小さい声で早口に議論したりしながら、猛然と書物をひらいては読み、ひらいては読みしていく。
すんごい速さでめくっているけれど、読めているのかしら。
なんだか、しばらく声はかけないほうが良さそうね。
フランスは、ひかえめに賢者たちに声をかけた。
「あの、わたしたちも、書物を取ってきますね」
賢者たちは「わしのおすすめは、政治経済の本棚だ」「ぼくのおすすめは、生活の知恵系の本棚だよ」「わたしのおすすめは、詩の本棚だ。わたしの詩もおいてある」なんて口にしながらも、書物から目を離さなかった。
フランスは、イギリスの腕をちょんちょんやって言った。
「わたしたちも本をさがしに行きましょ」
「ふむ」
フランスのうしろにイギリスがついてくる。
それにしても、ここまで広いと、どこに何があるのやら、ね。
フランスは、図書館の入り口を入ってすぐのところにいた、管理をしていそうな人たちのところに向かった。手の空いていそうな者をつかまえて声をかける。
「すみません。目的の本がどのあたりにあるか、教えていただきたいのですが」
人の良さそうな男が、にっこりと微笑んで答えた。
「どんな本をお探しですか?」
「魔術書みたいな、教国では異端扱いになっていそうな本を探しています」
「ああ、それなら……」
フランスは、わくわくしながら教えてもらった本棚に近づいた。
うしろからイギリスが言う。
「禁書を読みたかっただけか。とんでもない不良聖女だな」
「人が禁じた書物よ。神が禁じた書物じゃない」
「きみはたまに、教国の人間らしくないな」
「そうかもね。気にならない? 魔術書!」
「帝国でも、その類は読めるからな」
「読んだことあるんだ?」
「まあ、ある」
「ここに、読んだことのあるおすすめの本はある?」
イギリスが、本棚をしばらく眺めて一冊手に取った。
古びた、いかめつらしい一冊だ。
イギリスが、フランスにそれを手渡す。
「これは?」
「悪魔の召喚方法が書いてある」
フランスは、思わずにんまりと笑顔で、イギリスを見返した。
イギリスが、フランスの表情を見て笑う。
「そういうのが好きだと思った。召喚するなよ」
フランスはその一冊を持って、賢者たちのもとに戻った。
彼らは、まださっきと同じように、猛然と書物をめくりつつ議論している。邪魔をしないよう、すこし離れた場所にイギリスと並んで座る。
「あっちの調べ物を手伝おうかとも思うけれど、なんだか口出ししないほうが良いような気がするのよね。どう思う?」
「彼らなりの方法で議論しているんだろうが、話が飛びすぎて、聞いていてもまったく分からなかった。しばらく、まかせておこう」
そうよね。
じゃあ、やっぱり、魔術書を読んでおこう。
フランスは、わくわくした気持ちでページをめくった。
「ふうん、悪魔の召喚だけじゃなくて、いろんな精霊の呼び出しかたとか、おびき寄せ方、みたいなものまで書いてあるのね。ほんとかしら」
「大体が、でたらめだろ」
「やっぱり、そうよね」
竜を呼び寄せる方法とか、書いてないかな。
フランスはどんどん本をめくっていった。
最後のページにさしかかり、首をかしげる。
「あら?」
「どうした?」
「全部、悪魔とか精霊とか妖精に関することばっかり書いてあったけれど、最後だけ天使だわ」
フランスは、最後のページを指さしてつづけた。
「しかも、大天使ミカエルの召喚方法が書いてある」
「ほんとに、天使が召喚されるか、見ものだな」
「召喚するために必要なのは、処女の乙女の祈り……」
「ユニコーンみたいだな」
「ほんとね。あとは……」
そこまで言った時に、ソロンが声をかけてきた。
「フランスちゃん、ウリムとトンミムについて、探すべき場所をしぼったぞ」
えっ、もう?
「すごいです!」
フランスは、魔術書を閉じて、賢者たちのもとに行った。
ソロンが、ひとつの古い書物を手にして言う。
「ここに、ヒントが書かれてある」
「それは?」
クレオブロスが横から言った。
「これも、聖書のうちの一つだよ。エレデ書と呼ばれている」
フランスは首をかしげて聞いた。
「聞いたことがありません」
「ははあ。フランスちゃんは今、どちらの国にお住まいかな?」
「教国です」
ビアスがため息をつきながら、やれやれと言った。
「教国では、エレデ書を聖書とは認めていない。あの国は、自分たちが異端と決めたものは徹底的に排除しているからな。存在ごと知らなくても不思議じゃない」
フランスは、ソロンの手元にある、古い書物に目をやって言った。
「エレデというと、アダムの系譜のエレデですか?」
ソロンが、古い書物の表紙をなでながら答える。
「そういう説もある。アダムの子孫であり、エノクの父であるエレデが書いたとされる説もあれば、まったく別のエレデか書いたという説もある。古い書物にはありがちだか、編纂時期や著者ははっきりとしない。ただ、古くからエレデ書と呼ばれている」
「そこに、ウリムとトンミムの在りかが書かれているんですか?」
「いいや。だが、ウリムとトンミムがどんな物なのかについて言及されている」
なぞの石、ウリムとトンミムについて書かれた書があるなんて。
フランスはドキドキした気持ちで待った。
クレオブロスが言う。
「ウリムとトンミムは、それを必要とするものに与えられる、特別な石だ。これを与える役割をもつ天使がいるらしい」
ビアスもうなずきながら続ける。
「管理しているのは、力のある座天使だとか」
なんだか、すごいわくわくする話になってきたわね!
座天使に、与えてもらう必要があるのかしら。
すると、ソロンが、笑顔で言った。
「というわけで、アロンの墓をあばけ」
……。
え?
フランスは、うずたかく積み上げられた書物の間から、賢者たちの様子を見た。彼らは、小さい声で早口に議論したりしながら、猛然と書物をひらいては読み、ひらいては読みしていく。
すんごい速さでめくっているけれど、読めているのかしら。
なんだか、しばらく声はかけないほうが良さそうね。
フランスは、ひかえめに賢者たちに声をかけた。
「あの、わたしたちも、書物を取ってきますね」
賢者たちは「わしのおすすめは、政治経済の本棚だ」「ぼくのおすすめは、生活の知恵系の本棚だよ」「わたしのおすすめは、詩の本棚だ。わたしの詩もおいてある」なんて口にしながらも、書物から目を離さなかった。
フランスは、イギリスの腕をちょんちょんやって言った。
「わたしたちも本をさがしに行きましょ」
「ふむ」
フランスのうしろにイギリスがついてくる。
それにしても、ここまで広いと、どこに何があるのやら、ね。
フランスは、図書館の入り口を入ってすぐのところにいた、管理をしていそうな人たちのところに向かった。手の空いていそうな者をつかまえて声をかける。
「すみません。目的の本がどのあたりにあるか、教えていただきたいのですが」
人の良さそうな男が、にっこりと微笑んで答えた。
「どんな本をお探しですか?」
「魔術書みたいな、教国では異端扱いになっていそうな本を探しています」
「ああ、それなら……」
フランスは、わくわくしながら教えてもらった本棚に近づいた。
うしろからイギリスが言う。
「禁書を読みたかっただけか。とんでもない不良聖女だな」
「人が禁じた書物よ。神が禁じた書物じゃない」
「きみはたまに、教国の人間らしくないな」
「そうかもね。気にならない? 魔術書!」
「帝国でも、その類は読めるからな」
「読んだことあるんだ?」
「まあ、ある」
「ここに、読んだことのあるおすすめの本はある?」
イギリスが、本棚をしばらく眺めて一冊手に取った。
古びた、いかめつらしい一冊だ。
イギリスが、フランスにそれを手渡す。
「これは?」
「悪魔の召喚方法が書いてある」
フランスは、思わずにんまりと笑顔で、イギリスを見返した。
イギリスが、フランスの表情を見て笑う。
「そういうのが好きだと思った。召喚するなよ」
フランスはその一冊を持って、賢者たちのもとに戻った。
彼らは、まださっきと同じように、猛然と書物をめくりつつ議論している。邪魔をしないよう、すこし離れた場所にイギリスと並んで座る。
「あっちの調べ物を手伝おうかとも思うけれど、なんだか口出ししないほうが良いような気がするのよね。どう思う?」
「彼らなりの方法で議論しているんだろうが、話が飛びすぎて、聞いていてもまったく分からなかった。しばらく、まかせておこう」
そうよね。
じゃあ、やっぱり、魔術書を読んでおこう。
フランスは、わくわくした気持ちでページをめくった。
「ふうん、悪魔の召喚だけじゃなくて、いろんな精霊の呼び出しかたとか、おびき寄せ方、みたいなものまで書いてあるのね。ほんとかしら」
「大体が、でたらめだろ」
「やっぱり、そうよね」
竜を呼び寄せる方法とか、書いてないかな。
フランスはどんどん本をめくっていった。
最後のページにさしかかり、首をかしげる。
「あら?」
「どうした?」
「全部、悪魔とか精霊とか妖精に関することばっかり書いてあったけれど、最後だけ天使だわ」
フランスは、最後のページを指さしてつづけた。
「しかも、大天使ミカエルの召喚方法が書いてある」
「ほんとに、天使が召喚されるか、見ものだな」
「召喚するために必要なのは、処女の乙女の祈り……」
「ユニコーンみたいだな」
「ほんとね。あとは……」
そこまで言った時に、ソロンが声をかけてきた。
「フランスちゃん、ウリムとトンミムについて、探すべき場所をしぼったぞ」
えっ、もう?
「すごいです!」
フランスは、魔術書を閉じて、賢者たちのもとに行った。
ソロンが、ひとつの古い書物を手にして言う。
「ここに、ヒントが書かれてある」
「それは?」
クレオブロスが横から言った。
「これも、聖書のうちの一つだよ。エレデ書と呼ばれている」
フランスは首をかしげて聞いた。
「聞いたことがありません」
「ははあ。フランスちゃんは今、どちらの国にお住まいかな?」
「教国です」
ビアスがため息をつきながら、やれやれと言った。
「教国では、エレデ書を聖書とは認めていない。あの国は、自分たちが異端と決めたものは徹底的に排除しているからな。存在ごと知らなくても不思議じゃない」
フランスは、ソロンの手元にある、古い書物に目をやって言った。
「エレデというと、アダムの系譜のエレデですか?」
ソロンが、古い書物の表紙をなでながら答える。
「そういう説もある。アダムの子孫であり、エノクの父であるエレデが書いたとされる説もあれば、まったく別のエレデか書いたという説もある。古い書物にはありがちだか、編纂時期や著者ははっきりとしない。ただ、古くからエレデ書と呼ばれている」
「そこに、ウリムとトンミムの在りかが書かれているんですか?」
「いいや。だが、ウリムとトンミムがどんな物なのかについて言及されている」
なぞの石、ウリムとトンミムについて書かれた書があるなんて。
フランスはドキドキした気持ちで待った。
クレオブロスが言う。
「ウリムとトンミムは、それを必要とするものに与えられる、特別な石だ。これを与える役割をもつ天使がいるらしい」
ビアスもうなずきながら続ける。
「管理しているのは、力のある座天使だとか」
なんだか、すごいわくわくする話になってきたわね!
座天使に、与えてもらう必要があるのかしら。
すると、ソロンが、笑顔で言った。
「というわけで、アロンの墓をあばけ」
……。
え?
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
引きこもり聖女は祈らない
鷹 綾
恋愛
内容紹介
聖女ポーラ・スターは、引きこもっていた。
人と話すことができず、部屋から出ることもできず、
彼女の意思表示は、扉に貼られる小さなメモだけだった。
「西の街道でがけ崩れが起きます」
「今日は、クラムチャウダーが食べたいです」
祈らず、姿も見せず、奇跡を誇示することもない聖女。
その存在は次第に「役立たず」と見なされ、
王太子リチャードから一方的に婚約を破棄され、聖女の地位も解かれる。
──だが、その日を境に、王国は壊れ始めた。
天候不順、嵐、洪水、冷害。
新たに任命された聖女は奇跡を演じるが、世界は救われない。
誰もが気づかぬまま、
「何もしない聖女」が、実はすべてを支えていた事実だけが残されていた。
扉の向こうで静かに生きる少女と、
毎日声をかけ続ける精神科医フォージャー。
失われていく王国と、取り戻されていく一人の人生。
これは、
祈らない聖女が選んだ、
誰にも支配されない静かな結末の物語。
『引きこもり聖女は祈らない』
ざまぁは声高でなく、
救いは奇跡ではなく、
その扉の向こうに、確かにあった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる