蜜を吸われて嬉しくなるツンデレな精霊の話

白木 白亜

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後編 青年と大精霊

21,風前の灯

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 フレイムトルネードは姿を消した。

 アーロルの魔法によって倒れたのだ。

 しかし彼自身もまた、ひどく弱っている。

 この世界での人間は、生命維持のために魔力を必要とする。

 それは心臓を常に動かし続けなければならないのと同様だ。

 必要な魔力が無くなれば人は死ぬ。

 本来魔術を行使するだけなら生命維持に必要な魔力まで消費することは無いし、しようと思っても簡単には出来ない。

 だが、彼は既にかなり上級の魔術師なのだ。

 もともとほとんど役に立たなかった彼の魔術。

 しかし実力を上げていくうちにいつしか彼は多くの農地を救うまでになっていった。

 しかも彼自身強くなるために毎月ライアの元を訪れたのだ。その甲斐があってかれは自分の生命維持に必要な魔力すら使い尽くすことが出来てしまったのだ。

 アーロルは体に力が入らなくなって地面に倒れた。

 視界には黒く焼け焦げた地面と、真っ黒に炭化した木々の数々。その至る所からブスブスと灰色の煙が立ち上っている。

 炭のにおいに煙のにおい。そして森の香り。いくつかのにおいが混じって彼の鼻をかすめている。

(最後の景色がこれってのはちと悲しいな……)

 だが彼は一切後悔していない。

 たかだか自分の身一つで愛する精霊を守れたのだ。

「ゴホッ」

 彼の口から血が飛び出る。

(ライア、今頃元気にしてるかな……?)

 こんな状況になっても自分の心配ではなくライアを心配するアーロル。




 そんなとき、ふと目線を上にあげてみれば虹がかかっていた。

(ああ、いい景色だ。よかった。俺があいつを倒せて本当に良かった……。)

 辺りからは雲が消え去り、日が差していた。

 それが虹色の大きな橋を形成している。

 虹のふもとが真っ黒なのは、もはやアーロルの視界に入っていない。

(あれ……?)

 虹を見ていたらなぜかアーロルの目から一滴の涙がこぼれ落ちてしまった。

(なにか後悔することあったっけ……?)

 やるべきことをすべて成し、安らかに眠ればすべて終わる――

 そう考えていたのにどうしてか、彼の目から涙が出てしまったのだ。

 しかも、続けて二滴、三滴と涙が出る。

 ほとんど力の残っていないからだが、必死に涙を絞り出しているような感覚。

(なんでだ!? なんでだ!? もうやるべきことは何も残っていないだろ!?!?)


 自分の心と体がうまく連動していない。

 謎の歪は彼を悩ませ、そして最後の時を先延ばしにした。

「うっ……うっ……」

 嗚咽まで出始める。

(あぁ、分かった……)






「おれ、この虹、ライアと一緒に見たかったんだな。ごめんよ。」


 その言葉を最後に、アーロルの瞼は閉じた。
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