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第2章 騎士団の紅一点、クレナ
1,クレナの日常
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初夏、ある鬱蒼と生い茂る森で、一人の剣士が剣をふるっていた。
「はぁっっ!!! 貴様はこれで終わりだ!!!!」
そう剣士が声を上げ、銀色の剣を振るうとレッドラビットと呼ばれる凶暴なモンスターは倒れた。
「よしっ……今回はうまくいったか。中々腕を上げるのが早いんじゃないか? この調子なら班長はもうすぐだろう。あんたが班長だと、さぞかし班員の連中どもは嬉しいだろうなぁ~!」
「やめろ! アタシを女扱いするな!」
そう、いまモンスターを切り伏せた剣士は女性だった。
それも新米で、年齢は21歳。
「それにしてもなぁ……なんでお前ほどの美人が、一番むさっ苦しいここなんかに来るかねえ……」
この剣士、髪型はショートに切りそろえられていて、遠くからだと一瞬男にも見えるが、近くで見ればかなりの美人である。
ただ、本人は自分の見た目など全く気にする様子もない。
「アタシは強くなりたいんだ! でも魔法が使えないんだから、ここに来るしかないって何度言えばわかるんだ!?!?」
世間一般の常識だと、女性の方が男性より魔法の適性が高い場合が多く、彼女のように強くなりたい、という願望があっても大抵は騎士団ではなく魔法師団に入団する。
大抵、と言ったが例外はこの女だけだ。
「全く……あの入団試験を勝ち残った女がいたって聞いた時にはマジで驚いたんだぞ。しかもあの『魔物消滅騒動』のあった年だったろ? おまえ、本当に大した奴だよ。」
「ふん……アタシはまだまだこれから強くなるからな!! おっと、こんなところでしゃべっているわけにもいかんな。班長、次の魔物を探してきていいか??」
「おう、無理すんなよ! お前らもあいつの後に続け!」
班員がみんなで彼女の後を追う。
魔物消滅騒動、というのはその名の通り、2年ほど前に王都の周辺から魔物がほとんど消え去った事態の事だ。
魔物――またの名を、モンスターというが――は倒せば経験値を得られ、強くなることが出来るがその点を除けば単なる害悪でしかない。したがって別に消えること自体に問題は無いのだ。
ただ、王都は絶対にモンスターから市民を守ると宣言していて、多くの騎士団が常に周辺のモンスターを狩っていた。
ところがある日から徐々に徐々に魔物の数が減少し、やがて一匹たりとも見られなくなった。
原因がどこぞの勇者が密かに飼っているスライムだということは誰もしらない。
この現象に困ったのは騎士団だった。単純に、仕事が無くなってしまうのだ。
無論いつ何が起こるかわからないから団員が解雇される、ということは無かったが新規で採用される団員の数は大幅に縮小せざるを得ない状況になった。
そんな中でも厳しい入団試験に勝ち残ったのが彼女、クレナだったのだ。
クレナは小さいころから剣士に憧れ、一生懸命木の棒を振るっていた。
やがて騎士学校に入ると周囲はほとんど男子。
そこでイロイロな経験をするのだが、それについてはまたおいおい。
その後騎士学校を卒業し、無事に騎士団員になったわけだ。
騎士団は困った。これまで、少なくとも直近10年間は女性の団員などいなかったのだ。
トイレ、そして制服など女性用の物がなかった。
トイレや更衣室に関しては経営や戦略等を管轄する本部に女性用のものがあるため、なるべく本部の近くに拠点のある班に所属してもらうことになった。
制服に関しては一から設計されることになった。
クレナを見た上層部が何を思ったのか、新人騎士5人分の月給を予算を使って、デザイナーに騎士服を設計させたのだ。
近年、金属鎧は動きにくさもあり、王都周辺の警備などでは用いられない。
時々出現する凶悪な、そして強力な魔物に対してだけ出動する精鋭騎士団しか着ない。
したがってある程度防御力の高い布を用いた制服を着ることになるのだが……
設計されたものが、端的に言えばエロかった。
全身が黒、というのは男性の制服と同じなのだが、ズボンではなくスカートだった。
しかも短いタイトスカートだ。左右にスリットも入っている。
むき出しとなる足のために黒いニーハイのソックスを履かなければならない。
上半身も普通ではない。クレナは胸はほとんどないが胸元は大きく開き、体のラインが強調されるような比較的ぴっちりとした服。
そのうえに、長めの黒いコートを着るというのがクレナの制服となった。
ちなみに今もそうだが夏はコートは自由に脱いでいいことになっている。
クレナが当初、なぜこんな変な格好なのか、と問い詰めたところ
「女性用ってデザイナーに伝えたらこうなった。ワシ等は詳しいことは分からん。じゃがもう決まったことだしそれで頑張ってくれ」
としか返ってこなかった。上司にそれ以上文句を言うとまずいのはよくわかっていたクレナは諦めてそれを着ることにした。
変な制服でも慣れればどうということは無い。周りからじろじろ見られている気もしていたが、それは騎士学校に通っているときから変わらない。
そんなわけで、今日も元気にクレナは王都周辺の狩りを続けていた。
「よし! これでとどめだぁ!!!」
クレナが剣で突きの態勢に入り、モンスターに向かって駆けだす。
その時、
「ぐあぁぁ!?!? なんだ!?!?」
クレナが大声を上げる。
「代わりに倒しますよ!? うおりゃああああぁぁ!」
他の班員が魔物は簡単に倒した。
「おいおい、おまえ、石につまずくなんてミスしたの初めてじゃねえか?」
「くっ……ん? どこもけがはしていないみたいだ。だが足をひねってしまった。」
「まあ、今日はもう巡回の時間そろそろ終わるからいいけどよ、明日から数日は休まないといかんかもしれないな。」
騎士団は何気にホワイトな公務員だ。ケガで休める。しかも有給。
「アタシは大丈夫だ! こんなことくらいで…うっ……」
「ほら、無理して立つなって。ほら、誰か肩…いや、俺が肩貸してやる。お前ら、帰るぞ!!」
周囲から生暖かい目が向けられていたのを班長自身も気づきながらやっている。
もちろん、彼女専用の制服を作ろうと言い出した上層のおっさんも、それに賛同した上層のおっさんも、どんなデザインがいいか提案したデザイナーのおっさんも、下心が無いわけではない。
といっても下心は9割くらいだ。
それはさておき、クレナは問うた。
「なあ、足のひねりとかをすぐに直せる病院とか無いのか……?」
「うーん、聞いたことねえなぁ」
この時代、まだ整形外科など存在しない。
「もちろん神殿に行って治癒の術式を施してもらえば治るだろうが、そんな簡単に足をひねったくらいではやってもらえないだろうなぁ」
「くっ……どうして石なんかに躓いたんだ……」
「クレナ、お前やっぱりちょっと無理しすぎたんじゃないのか……? 最近休憩時間も剣振ってるだろ。やっぱり少し休まないと集中力や判断力、それに注意力も落ちる。」
「そんなこと言ったってなあ! アタシには目標が!」
「あの……すみません、」
班長とクレナで話していたところに突如MOBと化していた別の班員が言う。
「俺、先日ある店にマッサージしてもらったんですけど、そうしたら腕の痛みとか、いろんな箇所の痛みが消えたんスよ。しかも疲れも取れました。クレナさんもそこに行かれては……?」
手を班長の肩にかけているクレナは勢いよく首を後ろに向けると叫んだ。
「…!? どこだそれは!」
「『スライム・リフレ』っていうマッサージ店? です。なんか、モンスターのスライムを使ってマッサージするんですけど、しっかり店の人に使役されているみたいで全く怖くありませんでしたし、結構よかったっスよ?」
「そ……そうか……。よし、明日アタシもそこに行ってみるぞ!」
こうして、騎士団の紅一点、クレナは翌日スライム・リフレを訪れることになる。
「はぁっっ!!! 貴様はこれで終わりだ!!!!」
そう剣士が声を上げ、銀色の剣を振るうとレッドラビットと呼ばれる凶暴なモンスターは倒れた。
「よしっ……今回はうまくいったか。中々腕を上げるのが早いんじゃないか? この調子なら班長はもうすぐだろう。あんたが班長だと、さぞかし班員の連中どもは嬉しいだろうなぁ~!」
「やめろ! アタシを女扱いするな!」
そう、いまモンスターを切り伏せた剣士は女性だった。
それも新米で、年齢は21歳。
「それにしてもなぁ……なんでお前ほどの美人が、一番むさっ苦しいここなんかに来るかねえ……」
この剣士、髪型はショートに切りそろえられていて、遠くからだと一瞬男にも見えるが、近くで見ればかなりの美人である。
ただ、本人は自分の見た目など全く気にする様子もない。
「アタシは強くなりたいんだ! でも魔法が使えないんだから、ここに来るしかないって何度言えばわかるんだ!?!?」
世間一般の常識だと、女性の方が男性より魔法の適性が高い場合が多く、彼女のように強くなりたい、という願望があっても大抵は騎士団ではなく魔法師団に入団する。
大抵、と言ったが例外はこの女だけだ。
「全く……あの入団試験を勝ち残った女がいたって聞いた時にはマジで驚いたんだぞ。しかもあの『魔物消滅騒動』のあった年だったろ? おまえ、本当に大した奴だよ。」
「ふん……アタシはまだまだこれから強くなるからな!! おっと、こんなところでしゃべっているわけにもいかんな。班長、次の魔物を探してきていいか??」
「おう、無理すんなよ! お前らもあいつの後に続け!」
班員がみんなで彼女の後を追う。
魔物消滅騒動、というのはその名の通り、2年ほど前に王都の周辺から魔物がほとんど消え去った事態の事だ。
魔物――またの名を、モンスターというが――は倒せば経験値を得られ、強くなることが出来るがその点を除けば単なる害悪でしかない。したがって別に消えること自体に問題は無いのだ。
ただ、王都は絶対にモンスターから市民を守ると宣言していて、多くの騎士団が常に周辺のモンスターを狩っていた。
ところがある日から徐々に徐々に魔物の数が減少し、やがて一匹たりとも見られなくなった。
原因がどこぞの勇者が密かに飼っているスライムだということは誰もしらない。
この現象に困ったのは騎士団だった。単純に、仕事が無くなってしまうのだ。
無論いつ何が起こるかわからないから団員が解雇される、ということは無かったが新規で採用される団員の数は大幅に縮小せざるを得ない状況になった。
そんな中でも厳しい入団試験に勝ち残ったのが彼女、クレナだったのだ。
クレナは小さいころから剣士に憧れ、一生懸命木の棒を振るっていた。
やがて騎士学校に入ると周囲はほとんど男子。
そこでイロイロな経験をするのだが、それについてはまたおいおい。
その後騎士学校を卒業し、無事に騎士団員になったわけだ。
騎士団は困った。これまで、少なくとも直近10年間は女性の団員などいなかったのだ。
トイレ、そして制服など女性用の物がなかった。
トイレや更衣室に関しては経営や戦略等を管轄する本部に女性用のものがあるため、なるべく本部の近くに拠点のある班に所属してもらうことになった。
制服に関しては一から設計されることになった。
クレナを見た上層部が何を思ったのか、新人騎士5人分の月給を予算を使って、デザイナーに騎士服を設計させたのだ。
近年、金属鎧は動きにくさもあり、王都周辺の警備などでは用いられない。
時々出現する凶悪な、そして強力な魔物に対してだけ出動する精鋭騎士団しか着ない。
したがってある程度防御力の高い布を用いた制服を着ることになるのだが……
設計されたものが、端的に言えばエロかった。
全身が黒、というのは男性の制服と同じなのだが、ズボンではなくスカートだった。
しかも短いタイトスカートだ。左右にスリットも入っている。
むき出しとなる足のために黒いニーハイのソックスを履かなければならない。
上半身も普通ではない。クレナは胸はほとんどないが胸元は大きく開き、体のラインが強調されるような比較的ぴっちりとした服。
そのうえに、長めの黒いコートを着るというのがクレナの制服となった。
ちなみに今もそうだが夏はコートは自由に脱いでいいことになっている。
クレナが当初、なぜこんな変な格好なのか、と問い詰めたところ
「女性用ってデザイナーに伝えたらこうなった。ワシ等は詳しいことは分からん。じゃがもう決まったことだしそれで頑張ってくれ」
としか返ってこなかった。上司にそれ以上文句を言うとまずいのはよくわかっていたクレナは諦めてそれを着ることにした。
変な制服でも慣れればどうということは無い。周りからじろじろ見られている気もしていたが、それは騎士学校に通っているときから変わらない。
そんなわけで、今日も元気にクレナは王都周辺の狩りを続けていた。
「よし! これでとどめだぁ!!!」
クレナが剣で突きの態勢に入り、モンスターに向かって駆けだす。
その時、
「ぐあぁぁ!?!? なんだ!?!?」
クレナが大声を上げる。
「代わりに倒しますよ!? うおりゃああああぁぁ!」
他の班員が魔物は簡単に倒した。
「おいおい、おまえ、石につまずくなんてミスしたの初めてじゃねえか?」
「くっ……ん? どこもけがはしていないみたいだ。だが足をひねってしまった。」
「まあ、今日はもう巡回の時間そろそろ終わるからいいけどよ、明日から数日は休まないといかんかもしれないな。」
騎士団は何気にホワイトな公務員だ。ケガで休める。しかも有給。
「アタシは大丈夫だ! こんなことくらいで…うっ……」
「ほら、無理して立つなって。ほら、誰か肩…いや、俺が肩貸してやる。お前ら、帰るぞ!!」
周囲から生暖かい目が向けられていたのを班長自身も気づきながらやっている。
もちろん、彼女専用の制服を作ろうと言い出した上層のおっさんも、それに賛同した上層のおっさんも、どんなデザインがいいか提案したデザイナーのおっさんも、下心が無いわけではない。
といっても下心は9割くらいだ。
それはさておき、クレナは問うた。
「なあ、足のひねりとかをすぐに直せる病院とか無いのか……?」
「うーん、聞いたことねえなぁ」
この時代、まだ整形外科など存在しない。
「もちろん神殿に行って治癒の術式を施してもらえば治るだろうが、そんな簡単に足をひねったくらいではやってもらえないだろうなぁ」
「くっ……どうして石なんかに躓いたんだ……」
「クレナ、お前やっぱりちょっと無理しすぎたんじゃないのか……? 最近休憩時間も剣振ってるだろ。やっぱり少し休まないと集中力や判断力、それに注意力も落ちる。」
「そんなこと言ったってなあ! アタシには目標が!」
「あの……すみません、」
班長とクレナで話していたところに突如MOBと化していた別の班員が言う。
「俺、先日ある店にマッサージしてもらったんですけど、そうしたら腕の痛みとか、いろんな箇所の痛みが消えたんスよ。しかも疲れも取れました。クレナさんもそこに行かれては……?」
手を班長の肩にかけているクレナは勢いよく首を後ろに向けると叫んだ。
「…!? どこだそれは!」
「『スライム・リフレ』っていうマッサージ店? です。なんか、モンスターのスライムを使ってマッサージするんですけど、しっかり店の人に使役されているみたいで全く怖くありませんでしたし、結構よかったっスよ?」
「そ……そうか……。よし、明日アタシもそこに行ってみるぞ!」
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