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第3章 タツシの夏休み
26,聖女の話
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この国のトップ二人との話を終え、人ごみの中に向かって歩いて行こうとすると色とりどりのドレスの中で最も地味な色合いながら誰よりも目立つ人物がいた。
「あ、クラリスさんじゃないですか、久ぶ……」
〈ちょっと! すみません! クラリスって名前、あまり人前で話さないでください……〉
〈あ、そうなんですか、すみません……〉
(ちょっ このパーティー、防音魔法を使える人多くね……? 俺、自分が直接使っているんじゃなくてスラ助に指示出して使ってもらっているからそんなにポンポン使えないんだよなぁ……)
「ごほん、聖女さん、お久しぶりです? なんだかお疲れのようですが大丈夫ですか?」
「え、ええ。全然問題ございませんわ。最近少しだけ仕事が忙しかったのでそれが顔に出てしまったのかもしれませんね。」
〈ところで勇者様、第一王女に何かようがありますの?〉
〈あ、あはは、いや、大した用じゃないんですけど、ちょっと会ってみたかったなって。〉
〈それはまたなぜ?〉
〈い、いやあ、あははは、なんか、ねえ、とてもお強くて、しかも優しい人だって聞いていたから会ってみたいなって。〉
〈そうだったんですか……。ふふっ。先ほど少し聞こえたところによるともう少し理由があったようですけどそれは良しとしましょう。〉
(ぐっ……さりげなく聞かれていたか……。聖女、食えない人だな……)
〈ところで勇者様、あなた確か空間魔法属性にしか適性がなかったと思うのですけど、どうやって防音魔法をお使いに?〉
〈そんなことを言ったらクラリスさんだってどうやって……〉
〈あら、私は火属性、水属性、土属性、風属性、聖属性、光属性に適応がありますの。主要な属性で適応がないのは空間と闇だけですわ。〉
〈いやいやいやいや、おかしいでしょクラリスさん。そんなに使えたらもう何も困らないじゃないですか。
ああ、それで聖女として選ばれてこんな大活躍をしているんですね。〉
〈まあ、そんな感じですわ。やはり人の命を救うとなるとどうしてもかなりの技術と多様な魔法が必要で……〉
〈そうですよねえ。聖女さんの素晴らしい功績は本当によく耳にしますよ。難病の方を治されたとか、軍のトップの方の骨折をたった一晩で治療されたとか……〉
〈悲しいことに、それでもまだ世の中で困っている人のほんの少ししか救えていませんのよ。私ももっと早く、そして多くの人を治せるようになるといいんですけどねぇ……〉
タツシはここで思った。聖女、もしかしてこの異世界で一番ブラックな仕事じゃね? と。
〈あの、聖女さん、あなたって、休みとかあるんですか?〉
〈え? ええ、もちろん。毎日4時間は寝てますわ〉
〈あ、いや、睡眠じゃなくて、自由な時間……〉
「???」
(まって、今の会話に首をかしげるところあったっけ?)
「あの、その、本を読んだりとか、公園で遊んだりとか、そういう自分のしたいことを自由にする時間ってあるんですか??」
「子供のころは少しありましたわ! 懐かしいですわぁ、あのころ、お父様に公園で初めて風魔法の使い方を教わって……」
「あ、いや、ええと……聖女さん、たまには休んだほうが効率上がりますよ、本当に。」
「あら、でも魔力を回復させられさえすれば問題ないのではなくて?」
「いやあ、でも、何だか3年前、俺が初めてあなたに会ったとき、もっと今よりずっと美しかったですよ? 最近忙しいんじゃないですか?」
「まあ、あの頃はまだ魔力が回復するのに時間がかかったのでその空き時間にああやって神殿を案内するなどの簡単な仕事をする余裕がありましたから……。
最近は魔力の回復速度が上がったおかげでずっと人々の治療に専念できるようになったんですの! 本当にうれしいわ!」
(あ、アカン、これ、完全にワーカーホリックだ。うーん、でも本人がいいのならそれでいいのかなぁ)
ちなみに二人はいつの間にか防音魔法を使わずに会話しているが当人たちは気づいていない。
その後もずっとクラリスとタツシは二人で話し続けた。
どうみても常識人ではない聖女と話すのはタツシにとってもとても楽しかった。めっちゃ美人だしね。
絢爛なフルプレートを着込んだ稀代の勇者と、奇跡の塊とも比喩される聖女が二人で話している間に割り込めるものなどもちろんいない。
結局二人はパーティーが終わるまでの三時間、ずっとしゃべり続けていた。
「あら、もうこんな時間ですわ。今まであんまり対等に話せる人がいなかったから、今日タ……勇者様と話せてとても楽しかったです! 本当にありがとうございました。」
「いやいやいや、こちらこそもう本当にいつもお世話に……はなっていない気がしますけど、今日はとても楽しかったです! あの、ところで」〈クラリスさん、うちのマッサージ店に来ませんか?〉
〈ああ、そういえばタツシさんの始めたマッサージ店、とても繁盛しているのですよね!〉
〈ええ。そうなんです。クラリスさん、たぶんご自身が自覚なさっていないだけで相当肉体も精神も疲れていますから、ぜひ一度リラックスするために来ませんか?〉
〈いえ、私も時間がなくて……〉
〈あ、そうでしたね。では、あの、もし出張マッサージという形で、マッサージ師がそちらに行くという形でしたら受けられます? 最悪寝ながらでも構いませんが。〉
〈そうでしたら、そうですねぇ。たぶん大丈夫だと思います。2か月後くらいなら。〉
〈2……か……月? そんな先ですか……〉
〈すみません。ほら、夏ってどうしても魔物が活発に活動する影響かけが人が多くてなおさら忙しいんですよ。なので申し訳ないんですが……秋、ということで……〉
〈いえいえ、全然問題ないですよ! あ、もちろん聖女様からお代なんて頂きませんので、ぜひ2か月後を楽しみにしていてください!〉
〈ありがとうございます! 楽しみにしてますわ!〉
(ぐふっ! 聖女をマッサージ……いやぁ、これは楽しみだなぁ……)
タツシは一瞬頭の中であんなことやこんなことを妄想した。
〈あら、マッサージってタツシさんにとって楽しいことしますの? なんだか深層心理的に、タツシさんすごく喜んでいるような……〉
〈え!?!? いや、そんなことないですよ。あははははははは!!〉
〈あら、深層心理なんて嘘なのに、そんなに慌てて否定しなくても……〉
聖女はニヤリと笑う。
〈ま、楽しみにしておきますわ。〉
〈え、ええ……〉
やっぱり食えない人だ、と思いながらパーティーの終了の知らせが入った。
パーティーは身分が高いものから順々に退場する。
タツシは上皇、王、王子、王女に続いて出る。同時に聖女も出た。
(勇者と聖女って身分的に同じなのか。なるほどねえ)
そう思いつつ、王城の控室に歩いていく。
「それではまたいずれ!」
「はい!」
ひら、と聖女は上品に手を振りその場を離れていった。
タツシは王城に用意されている勇者用の小さな控室へ行く。実はこの部屋小さいながら出口が3つもあり、うちの一つは秘密の地下通路に繋がっているというなんとも隠れ勇者向きの部屋だ。
そこに行く途中、パーティーの警護をしている近衛騎士の人とタツシはすれ違い――
「勇者しゃま! あの、一言お話しさせてください!」
突然勇者の横に立ち頭を下げたのはクレナだった。噛んでしまって恥ずかしいのか、顔は真っ赤だが。
「あ、クラリスさんじゃないですか、久ぶ……」
〈ちょっと! すみません! クラリスって名前、あまり人前で話さないでください……〉
〈あ、そうなんですか、すみません……〉
(ちょっ このパーティー、防音魔法を使える人多くね……? 俺、自分が直接使っているんじゃなくてスラ助に指示出して使ってもらっているからそんなにポンポン使えないんだよなぁ……)
「ごほん、聖女さん、お久しぶりです? なんだかお疲れのようですが大丈夫ですか?」
「え、ええ。全然問題ございませんわ。最近少しだけ仕事が忙しかったのでそれが顔に出てしまったのかもしれませんね。」
〈ところで勇者様、第一王女に何かようがありますの?〉
〈あ、あはは、いや、大した用じゃないんですけど、ちょっと会ってみたかったなって。〉
〈それはまたなぜ?〉
〈い、いやあ、あははは、なんか、ねえ、とてもお強くて、しかも優しい人だって聞いていたから会ってみたいなって。〉
〈そうだったんですか……。ふふっ。先ほど少し聞こえたところによるともう少し理由があったようですけどそれは良しとしましょう。〉
(ぐっ……さりげなく聞かれていたか……。聖女、食えない人だな……)
〈ところで勇者様、あなた確か空間魔法属性にしか適性がなかったと思うのですけど、どうやって防音魔法をお使いに?〉
〈そんなことを言ったらクラリスさんだってどうやって……〉
〈あら、私は火属性、水属性、土属性、風属性、聖属性、光属性に適応がありますの。主要な属性で適応がないのは空間と闇だけですわ。〉
〈いやいやいやいや、おかしいでしょクラリスさん。そんなに使えたらもう何も困らないじゃないですか。
ああ、それで聖女として選ばれてこんな大活躍をしているんですね。〉
〈まあ、そんな感じですわ。やはり人の命を救うとなるとどうしてもかなりの技術と多様な魔法が必要で……〉
〈そうですよねえ。聖女さんの素晴らしい功績は本当によく耳にしますよ。難病の方を治されたとか、軍のトップの方の骨折をたった一晩で治療されたとか……〉
〈悲しいことに、それでもまだ世の中で困っている人のほんの少ししか救えていませんのよ。私ももっと早く、そして多くの人を治せるようになるといいんですけどねぇ……〉
タツシはここで思った。聖女、もしかしてこの異世界で一番ブラックな仕事じゃね? と。
〈あの、聖女さん、あなたって、休みとかあるんですか?〉
〈え? ええ、もちろん。毎日4時間は寝てますわ〉
〈あ、いや、睡眠じゃなくて、自由な時間……〉
「???」
(まって、今の会話に首をかしげるところあったっけ?)
「あの、その、本を読んだりとか、公園で遊んだりとか、そういう自分のしたいことを自由にする時間ってあるんですか??」
「子供のころは少しありましたわ! 懐かしいですわぁ、あのころ、お父様に公園で初めて風魔法の使い方を教わって……」
「あ、いや、ええと……聖女さん、たまには休んだほうが効率上がりますよ、本当に。」
「あら、でも魔力を回復させられさえすれば問題ないのではなくて?」
「いやあ、でも、何だか3年前、俺が初めてあなたに会ったとき、もっと今よりずっと美しかったですよ? 最近忙しいんじゃないですか?」
「まあ、あの頃はまだ魔力が回復するのに時間がかかったのでその空き時間にああやって神殿を案内するなどの簡単な仕事をする余裕がありましたから……。
最近は魔力の回復速度が上がったおかげでずっと人々の治療に専念できるようになったんですの! 本当にうれしいわ!」
(あ、アカン、これ、完全にワーカーホリックだ。うーん、でも本人がいいのならそれでいいのかなぁ)
ちなみに二人はいつの間にか防音魔法を使わずに会話しているが当人たちは気づいていない。
その後もずっとクラリスとタツシは二人で話し続けた。
どうみても常識人ではない聖女と話すのはタツシにとってもとても楽しかった。めっちゃ美人だしね。
絢爛なフルプレートを着込んだ稀代の勇者と、奇跡の塊とも比喩される聖女が二人で話している間に割り込めるものなどもちろんいない。
結局二人はパーティーが終わるまでの三時間、ずっとしゃべり続けていた。
「あら、もうこんな時間ですわ。今まであんまり対等に話せる人がいなかったから、今日タ……勇者様と話せてとても楽しかったです! 本当にありがとうございました。」
「いやいやいや、こちらこそもう本当にいつもお世話に……はなっていない気がしますけど、今日はとても楽しかったです! あの、ところで」〈クラリスさん、うちのマッサージ店に来ませんか?〉
〈ああ、そういえばタツシさんの始めたマッサージ店、とても繁盛しているのですよね!〉
〈ええ。そうなんです。クラリスさん、たぶんご自身が自覚なさっていないだけで相当肉体も精神も疲れていますから、ぜひ一度リラックスするために来ませんか?〉
〈いえ、私も時間がなくて……〉
〈あ、そうでしたね。では、あの、もし出張マッサージという形で、マッサージ師がそちらに行くという形でしたら受けられます? 最悪寝ながらでも構いませんが。〉
〈そうでしたら、そうですねぇ。たぶん大丈夫だと思います。2か月後くらいなら。〉
〈2……か……月? そんな先ですか……〉
〈すみません。ほら、夏ってどうしても魔物が活発に活動する影響かけが人が多くてなおさら忙しいんですよ。なので申し訳ないんですが……秋、ということで……〉
〈いえいえ、全然問題ないですよ! あ、もちろん聖女様からお代なんて頂きませんので、ぜひ2か月後を楽しみにしていてください!〉
〈ありがとうございます! 楽しみにしてますわ!〉
(ぐふっ! 聖女をマッサージ……いやぁ、これは楽しみだなぁ……)
タツシは一瞬頭の中であんなことやこんなことを妄想した。
〈あら、マッサージってタツシさんにとって楽しいことしますの? なんだか深層心理的に、タツシさんすごく喜んでいるような……〉
〈え!?!? いや、そんなことないですよ。あははははははは!!〉
〈あら、深層心理なんて嘘なのに、そんなに慌てて否定しなくても……〉
聖女はニヤリと笑う。
〈ま、楽しみにしておきますわ。〉
〈え、ええ……〉
やっぱり食えない人だ、と思いながらパーティーの終了の知らせが入った。
パーティーは身分が高いものから順々に退場する。
タツシは上皇、王、王子、王女に続いて出る。同時に聖女も出た。
(勇者と聖女って身分的に同じなのか。なるほどねえ)
そう思いつつ、王城の控室に歩いていく。
「それではまたいずれ!」
「はい!」
ひら、と聖女は上品に手を振りその場を離れていった。
タツシは王城に用意されている勇者用の小さな控室へ行く。実はこの部屋小さいながら出口が3つもあり、うちの一つは秘密の地下通路に繋がっているというなんとも隠れ勇者向きの部屋だ。
そこに行く途中、パーティーの警護をしている近衛騎士の人とタツシはすれ違い――
「勇者しゃま! あの、一言お話しさせてください!」
突然勇者の横に立ち頭を下げたのはクレナだった。噛んでしまって恥ずかしいのか、顔は真っ赤だが。
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