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第5章 慈愛の聖女、クラリス
13,レベル
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タツシは秘密の控室に戻ってひとまず休むことにした。
タツシが必要とする水や食料はすべてスライムによって運ばれるため外に出られないことは全く問題ではない。
「うわっ。めっちゃ暇じゃん。あ~、どーしよ。あ、そうじゃん、今後どうやってクラリスを染め……幸せにしてあげるか考えないと。」
こんな男とくっつくことになる聖女も大変なものである。
一方その頃、神殿の平らで光を反射する大理石に囲まれたある部屋の中にて。
「はい、これでもう大丈夫です。もう二度とこんなけがをしないように頑張ってくださいね? あなたならきっと、将来の夢も叶えられるし、あきらめなければ先の光は自ずと見えてきますから。」
「はい! ありがとうございます。本当にありがとうございます。俺、今日のことは一生忘れません!」
「では、私はこれにて失礼します。」
「本当にありがとうございました!」
クラリスはいつも通り仕事をしていた。この日も大けがをした冒険者を治療していたのだ。
「ねえ、ラネル?」
「なんでしょうか、クラリス様。」
「なんか、今日いつもよりすれ違う人にじろじろ見られているような気がするのだけれど……」
「それはクラリス様がいつになく笑顔だからでしょう。全く、どこの誰と何があったんだか……」
「いやっ別に誰とも何もないわよ!?」
「まあどうせ今は会えませんもんね。」
「そうなのよ……え?」
ラネルはそっぽを向いてしまった。
その後もクラリスはいくつもの仕事をこなしていく。
最近の彼女の機嫌がいいのは誰が見ても明らかだった。
いつも疲れた顔で神殿内を歩き、人、特に患者に会う時には元気な風を取り繕っていた。
でも今は素でとっても元気そうだ。
ラネルが用事で部屋から出て、一度クラリスだけなるとそのたびに自分の大杖を緩く腕で抱きしめる。
(人を好きになるって、こういうことだったのね。ふふ♪)
普段の清楚な聖女からはこんな姿は想像もできない人がほとんどだろう。
今の彼女はまさに恋する乙女そのものの顔だ。
その後、クラリスは家に帰った。
「あ、そうそう、クラリス、タツシ様からお手紙が届いていますよ。」
すました顔でラネルはクラリスに手紙を渡した。
『今からそちらへ行ってもいいですか? よかったら同封してある水晶球に魔力を流してください。 タツシ』
「え? どういうこと??」
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、別に何も……。ところでラネル、これ届いたの6時間も前なのに何で今渡したの??」
「クラリス、タツシ様が来たら仕事にならなくなるでしょう?」
「え? いや、別にそんなことは……」
「タツシ様と何があったんですか? この際すべて話してください。その杖のことも。」
「え、ええと、その……」
結局、クラリスはラネルにことのあらましをすべて話した。
「ま、聖女としてしっかりやっていけるならそれでいいです。でもほどほどにしてくださいね? あなたはこれまでこういうこと経験がないんだから。」
「はい。」
「では。お勉強頑張ってください。おやすみなさい。」
ラネルは部屋から出ていった。
その直後、クラリスはタツシに渡された水晶球に魔力を流す。
「こんな感じでいいのかしら……?」
ビシッ
水晶球に大きなヒビが入る。
「え!? 嘘!? そんなっ」
魔力が多すぎてしまったのか、水晶球に大きなヒビが入る。
かなりまずいことをしてしまったのでは――
そう思いつつクラリスは部屋の中の一部の魔力が歪み始めたことに気づき、そこに行って腕を広げた。
「クラリス、ただい……」
「おかえりなさい! 会いたかったの、ずっと、ずっと待ってたの!」
「うお!? 待ってくれてありがと。」
クラリスが腕を広げた場所に転移したタツシは、一瞬でクラリスにギュゥッと抱き着かれた。
自然と唇を重ねる二人。
長い時間、彼らの舌は交じり合った。
許されるはずのない、聖女の恋。
この世界で、現役の聖女が人と口づけをしたのは初めてのことであるというのを彼らは知らない。
「ねえ、タツシ? あの、ごめん、これ壊しちゃった……」
「ああ、気にしなくて大丈夫だよ。ただ魔力信号を遠くに伝えるためだけの発信機だから。」
「よくわからないけど良かったわ。」
「でもさ、それを簡単に壊せるほどの魔力、普通は流せないと思うんだ。
クラリス、君のレベルって、いったいいくつなんだい?」
「私、今まで誰にも言ったことないの。」
「どうして?」
「お父様に言われたの。『お前がレベルをほかの人に言っても、それで誰かを幸せにすることは絶対にない。』って。」
「ふうん? じゃあ、秘密のままでも――」
クラリスはふるふると首を振った。
「言うわ。あなたなら、なんだって受け止めてくれるって、確信できるもの。」
一般人の平均は20、冒険者平均で60と言われるが果たして……
クラリスは口を開いて、そしてゆっくり大きく息を吸ってそして言葉を放った。
「私のレベルは、487よ」
「すごいね。驚いたよ。」
「あら、でも思っていたほどは驚かないのね。ってことは、やっぱり……」
「俺、ちょうど今日、魔王を倒してからレベルが上がってさ。500になったんだ。」
クラリスはすとっと肩の力を抜く。
「もうめちゃくちゃだわ。重症の人を回復させる行為はかなり経験値を大量に得てしまうみたいで、人からどんなことを言われるかわかったもんじゃないから、絶対に言うなって、お父様に言われたの。
お父様も結構レベルが高くて、昔それを言ってしまったら変な妬みだとかがあったみたいで。」
「なるほどな~。ま、ほかの人に言わなければ大丈夫だろう。ん? どうしたの? 顔が緩んでるけど」
「え? あっ……私、夢だったの。自分よりレベルの高い男の人に出会って、その人に守ってもらうのが……」
クラリスがタツシに体重を預けた。
タツシは依然しっかりとクラリスを抱えて立っている。
「嬉しい。本当に嬉しい。」
「俺もだよ、クラリス。」
そのまま幾分かの静寂が過ぎた後、タツシは言った。
「俺、今夜、ここに泊っていい??」
「ええ。いいわ。」
タツシが必要とする水や食料はすべてスライムによって運ばれるため外に出られないことは全く問題ではない。
「うわっ。めっちゃ暇じゃん。あ~、どーしよ。あ、そうじゃん、今後どうやってクラリスを染め……幸せにしてあげるか考えないと。」
こんな男とくっつくことになる聖女も大変なものである。
一方その頃、神殿の平らで光を反射する大理石に囲まれたある部屋の中にて。
「はい、これでもう大丈夫です。もう二度とこんなけがをしないように頑張ってくださいね? あなたならきっと、将来の夢も叶えられるし、あきらめなければ先の光は自ずと見えてきますから。」
「はい! ありがとうございます。本当にありがとうございます。俺、今日のことは一生忘れません!」
「では、私はこれにて失礼します。」
「本当にありがとうございました!」
クラリスはいつも通り仕事をしていた。この日も大けがをした冒険者を治療していたのだ。
「ねえ、ラネル?」
「なんでしょうか、クラリス様。」
「なんか、今日いつもよりすれ違う人にじろじろ見られているような気がするのだけれど……」
「それはクラリス様がいつになく笑顔だからでしょう。全く、どこの誰と何があったんだか……」
「いやっ別に誰とも何もないわよ!?」
「まあどうせ今は会えませんもんね。」
「そうなのよ……え?」
ラネルはそっぽを向いてしまった。
その後もクラリスはいくつもの仕事をこなしていく。
最近の彼女の機嫌がいいのは誰が見ても明らかだった。
いつも疲れた顔で神殿内を歩き、人、特に患者に会う時には元気な風を取り繕っていた。
でも今は素でとっても元気そうだ。
ラネルが用事で部屋から出て、一度クラリスだけなるとそのたびに自分の大杖を緩く腕で抱きしめる。
(人を好きになるって、こういうことだったのね。ふふ♪)
普段の清楚な聖女からはこんな姿は想像もできない人がほとんどだろう。
今の彼女はまさに恋する乙女そのものの顔だ。
その後、クラリスは家に帰った。
「あ、そうそう、クラリス、タツシ様からお手紙が届いていますよ。」
すました顔でラネルはクラリスに手紙を渡した。
『今からそちらへ行ってもいいですか? よかったら同封してある水晶球に魔力を流してください。 タツシ』
「え? どういうこと??」
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、別に何も……。ところでラネル、これ届いたの6時間も前なのに何で今渡したの??」
「クラリス、タツシ様が来たら仕事にならなくなるでしょう?」
「え? いや、別にそんなことは……」
「タツシ様と何があったんですか? この際すべて話してください。その杖のことも。」
「え、ええと、その……」
結局、クラリスはラネルにことのあらましをすべて話した。
「ま、聖女としてしっかりやっていけるならそれでいいです。でもほどほどにしてくださいね? あなたはこれまでこういうこと経験がないんだから。」
「はい。」
「では。お勉強頑張ってください。おやすみなさい。」
ラネルは部屋から出ていった。
その直後、クラリスはタツシに渡された水晶球に魔力を流す。
「こんな感じでいいのかしら……?」
ビシッ
水晶球に大きなヒビが入る。
「え!? 嘘!? そんなっ」
魔力が多すぎてしまったのか、水晶球に大きなヒビが入る。
かなりまずいことをしてしまったのでは――
そう思いつつクラリスは部屋の中の一部の魔力が歪み始めたことに気づき、そこに行って腕を広げた。
「クラリス、ただい……」
「おかえりなさい! 会いたかったの、ずっと、ずっと待ってたの!」
「うお!? 待ってくれてありがと。」
クラリスが腕を広げた場所に転移したタツシは、一瞬でクラリスにギュゥッと抱き着かれた。
自然と唇を重ねる二人。
長い時間、彼らの舌は交じり合った。
許されるはずのない、聖女の恋。
この世界で、現役の聖女が人と口づけをしたのは初めてのことであるというのを彼らは知らない。
「ねえ、タツシ? あの、ごめん、これ壊しちゃった……」
「ああ、気にしなくて大丈夫だよ。ただ魔力信号を遠くに伝えるためだけの発信機だから。」
「よくわからないけど良かったわ。」
「でもさ、それを簡単に壊せるほどの魔力、普通は流せないと思うんだ。
クラリス、君のレベルって、いったいいくつなんだい?」
「私、今まで誰にも言ったことないの。」
「どうして?」
「お父様に言われたの。『お前がレベルをほかの人に言っても、それで誰かを幸せにすることは絶対にない。』って。」
「ふうん? じゃあ、秘密のままでも――」
クラリスはふるふると首を振った。
「言うわ。あなたなら、なんだって受け止めてくれるって、確信できるもの。」
一般人の平均は20、冒険者平均で60と言われるが果たして……
クラリスは口を開いて、そしてゆっくり大きく息を吸ってそして言葉を放った。
「私のレベルは、487よ」
「すごいね。驚いたよ。」
「あら、でも思っていたほどは驚かないのね。ってことは、やっぱり……」
「俺、ちょうど今日、魔王を倒してからレベルが上がってさ。500になったんだ。」
クラリスはすとっと肩の力を抜く。
「もうめちゃくちゃだわ。重症の人を回復させる行為はかなり経験値を大量に得てしまうみたいで、人からどんなことを言われるかわかったもんじゃないから、絶対に言うなって、お父様に言われたの。
お父様も結構レベルが高くて、昔それを言ってしまったら変な妬みだとかがあったみたいで。」
「なるほどな~。ま、ほかの人に言わなければ大丈夫だろう。ん? どうしたの? 顔が緩んでるけど」
「え? あっ……私、夢だったの。自分よりレベルの高い男の人に出会って、その人に守ってもらうのが……」
クラリスがタツシに体重を預けた。
タツシは依然しっかりとクラリスを抱えて立っている。
「嬉しい。本当に嬉しい。」
「俺もだよ、クラリス。」
そのまま幾分かの静寂が過ぎた後、タツシは言った。
「俺、今夜、ここに泊っていい??」
「ええ。いいわ。」
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