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獅子騎士の小さな花嫁へ編(1)
25.
しおりを挟む馬車は何事もなく走り続け、それを守るように黒騎士と王族の護衛の騎士が馬に又借り並走する。
子供のように身をのりだし景色を見て瞳を輝かせていたクランは中から伸びた腕に捕らわれ中へと引き込まれた。
黒騎士のアルトはその様子を目にし窓が見える速度で馬を走らせちらりと様子を見れば、大きな…屈強な獅子騎士が体を丸め、小さな少女に抱き締められていた。
(あ…あの獅子騎士の威厳も…彼女の前ではこうも無力化するのか…)
アルトは、再び馬車から距離をとり辺りを警戒しながら馬を走らせ…兜の下では笑いが止まらなく、小さく笑い続けていたのであった。
しばらく走ると、畑の広がる地が現れ…小さな町を抜けるとその先に、山を背に…領主の屋敷が現れた。
低い塀に囲まれた領主の屋敷の門前に馬車は止まる。数分たち、門が開かれ馬車と護衛の騎士たちも続くように中へとはいった。
屋敷前に出迎えたのは子供たちと領主の妻。クランは駆け寄る子供たちに囲まれ…ラパスは奥から現れた領主と中へ消えた。
「クラン様初めまして領主ミナイの妻、ハリスです。ラパス様はミナイ様に呼ばれていますので私達と一緒にあちらへ行きましょう?」
振り向く先には庭園が広がり、子供たちは駆け回り…そこには屋根のあるベンチがあり、クランはハリスとベンチに座り、8歳~10歳くらいの四人の子供達の遊ぶ様子をみた。
ハリスは栗毛の髪を結いあげたラパスと変わらない年齢の女性。身につける服はシンプルで白いブラウスにベージュのロングスカート。清楚な美しい女性である。
「母様あ!虫がいました!」
「まあ、刺されませんでしたか?リリス、パルも、あまり遠くに行くんじゃありませんよ!」
「はあーい」
クランはその光景に憧れを抱いた。
(ハリス様~素敵です。お母様ってこんな風なのね。綺麗な方…子供たちも楽しそうに走り回って…いつか私もラパス様と家庭を持てるのかしら…私は歳よりも幼いし…ラパス様に釣り合うのかしら…私で…よいのかしら。ハリス様のように落ち着いた…清楚な方がいるんじゃないかしら。)
はじめて抱いた憧れと…自分にできるのかと言う不安に襲われたクランはハリスにポツリと呟いた。
「ハリス様…私、ラパス様に相応しいのか…心配です。」
うつむくクランにハリスは飛び込んできた一番下の子供をあやすように抱き抱え…クスリと笑った。
「完璧な方などどこにもいません。あなたらしく…ラパス様を包んであげるだけでよいのですよ?可愛い許嫁様。あなたのよさは誰にも真似できないのですから。」
クランは目を潤ませ顔をあげ…溢れた涙の粒をその手でぬぐい、満面の笑顔で答えた。
「はい!ありがとうございます!」
ハリスは一瞬暗い表情をしたが…次の瞬間…微笑みを返した。
「クラン、散歩に行こう。」
そこへ現れたラパスに気づいたハリスはほんのり頬を紅くし微笑んだ。
「ラパス様お久しぶりです。」
クランはハリスの表情に気づいたがその意味を知ることもなく立ち上がると、ラパスのもとに駆けよった。
クランを抱き締めるラパスはハリスにペコリとぎこちなく頭を下げた。
「ハリス殿、久しぶりです。クランと周辺の散策に出かけてきます。」
「ハリス様ありがとうございました。」
クランはスカートの裾をつまみ上品にお辞儀をしてラパスと共にその場から去っていった。
ハリスはふっと小さくため息をつくと…なにかを吹っ切るように、再び優しい母の笑顔に変わっていた。
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