獅子騎士と小さな許嫁

yu-kie

文字の大きさ
25 / 58
獅子騎士の小さな花嫁へ編(1)

25.

しおりを挟む





 馬車は何事もなく走り続け、それを守るように黒騎士と王族の護衛の騎士が馬に又借り並走する。

 子供のように身をのりだし景色を見て瞳を輝かせていたクランは中から伸びた腕に捕らわれ中へと引き込まれた。

 黒騎士のアルトはその様子を目にし窓が見える速度で馬を走らせちらりと様子を見れば、大きな…屈強な獅子騎士が体を丸め、小さな少女に抱き締められていた。

(あ…あの獅子騎士の威厳も…彼女の前ではこうも無力化するのか…)

 アルトは、再び馬車から距離をとり辺りを警戒しながら馬を走らせ…兜の下では笑いが止まらなく、小さく笑い続けていたのであった。

  しばらく走ると、畑の広がる地が現れ…小さな町を抜けるとその先に、山を背に…領主の屋敷が現れた。

 低い塀に囲まれた領主の屋敷の門前に馬車は止まる。数分たち、門が開かれ馬車と護衛の騎士たちも続くように中へとはいった。

 屋敷前に出迎えたのは子供たちと領主の妻。クランは駆け寄る子供たちに囲まれ…ラパスは奥から現れた領主と中へ消えた。

「クラン様初めまして領主ミナイの妻、ハリスです。ラパス様はミナイ様に呼ばれていますので私達と一緒にあちらへ行きましょう?」

 振り向く先には庭園が広がり、子供たちは駆け回り…そこには屋根のあるベンチがあり、クランはハリスとベンチに座り、8歳~10歳くらいの四人の子供達の遊ぶ様子をみた。

 ハリスは栗毛の髪を結いあげたラパスと変わらない年齢の女性。身につける服はシンプルで白いブラウスにベージュのロングスカート。清楚な美しい女性である。

「母様あ!虫がいました!」

「まあ、刺されませんでしたか?リリス、パルも、あまり遠くに行くんじゃありませんよ!」

「はあーい」

 クランはその光景に憧れを抱いた。

(ハリス様~素敵です。お母様ってこんな風なのね。綺麗な方…子供たちも楽しそうに走り回って…いつか私もラパス様と家庭を持てるのかしら…私は歳よりも幼いし…ラパス様に釣り合うのかしら…私で…よいのかしら。ハリス様のように落ち着いた…清楚な方がいるんじゃないかしら。)

 はじめて抱いた憧れと…自分にできるのかと言う不安に襲われたクランはハリスにポツリと呟いた。

「ハリス様…私、ラパス様に相応しいのか…心配です。」

 うつむくクランにハリスは飛び込んできた一番下の子供をあやすように抱き抱え…クスリと笑った。

「完璧な方などどこにもいません。あなたらしく…ラパス様を包んであげるだけでよいのですよ?可愛い許嫁様。あなたのよさは誰にも真似できないのですから。」

 クランは目を潤ませ顔をあげ…溢れた涙の粒をその手でぬぐい、満面の笑顔で答えた。

「はい!ありがとうございます!」

 ハリスは一瞬暗い表情をしたが…次の瞬間…微笑みを返した。

「クラン、散歩に行こう。」

 そこへ現れたラパスに気づいたハリスはほんのり頬を紅くし微笑んだ。

「ラパス様お久しぶりです。」

クランはハリスの表情に気づいたがその意味を知ることもなく立ち上がると、ラパスのもとに駆けよった。

 クランを抱き締めるラパスはハリスにペコリとぎこちなく頭を下げた。

「ハリス殿、久しぶりです。クランと周辺の散策に出かけてきます。」

「ハリス様ありがとうございました。」

 クランはスカートの裾をつまみ上品にお辞儀をしてラパスと共にその場から去っていった。

 ハリスはふっと小さくため息をつくと…なにかを吹っ切るように、再び優しい母の笑顔に変わっていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました

藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】 ※ヒーロー目線で進んでいきます。 王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。 ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。 不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。 才能を開花させ成長していくカティア。 そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。 立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。 「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」 「これからも、私の隣には君がいる」 甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

処理中です...