元悪徳魔導士は白猫魔女の愛妻を持つ

yu-kie

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元・悪徳魔導士の贖罪の話

7 新しい任務

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 (妹の病のためとはいえ、間違った道へと進み自分の築いてきたものを無くしてしまった。もう戻れはしないが、罪は償おう。全うな道へ戻るために、恨まれても、もう戻るものか。)

 ジンは尋問室で聞かれたことは素直に全て話した。何故だか、ピアスにグリアの存在を感じ、自分は1人ではないのだと思えた。

 半年間休みなく行われた地下牢と尋問室往復の生活は自由はなかったが、毎日短い時間に訪問する白猫のグリアに息苦しく感じる生活に少しだけ癒しを感じた。

 地下牢を出たジンは魔法省の長のいる部屋へと通された。

 部屋には白猫のグリアが長のデスクにちょこんと座り、ジンと視線が合うと声を発した。

「お帰りジン。」
「ああ。」

 ジンは短く答え、連れてきた兵士に手枷を外された。

「久しぶりですね、ジン・スハン。」

 ローブを身に付けた長の席に座る男は表情を曇らせジンを見るとゆっくりと話始めた。

「私の名はレイ・フラス。あなたの不正で責任を取り辞任したグランド・フラスの息子だ。グリアの家で会っているから2度めですね。今は私が魔法省の長の任についている。まさかあなたを迎えることになるなんて。あなたには新しい役目を与えます。不正を取り締まる任務についてもらいます。主に潜入捜査をして、不正の証拠を抑えてアジトを我々に報告する、とても危険な仕事です。」
「それって…」
「悪友を裏切る仕事だな。」

 レイは皮肉めいた笑みを向け、グリアは毛繕いをはじめていた。

「はは…俺に向いてるのかもな。」

グリアはちらりとジンを見るとお座りの状態でジンに声をかけた。

「ジン。やれるか?」
「やるさ。」

 グリアはデスクから飛び降り、ジンの足元へ近付くと、尻尾をピンっと伸ばし体をすりよせていた。

「いちゃつくな。」

 レイはイラつき、グリアは睨むようにレイを見上げた。

「いいだろう?」

 「はあ~。ジン・スハン、あなたには2日後から任務について指導して行きたいと思う。今日は帰って当日は万全な状態でくるよう。」

「よろしくお願いいたします。」

 ジンは一礼し、部屋をでると、グリアは後を追うように部屋を出た。

「グリア、何処に行くんだ?」
「迎えにきたんだよ。」
「え?」

 ジンは立ち止まり、めを丸くさせた。

「夫婦は一緒に暮らすものだろ?」

「 グリア、知らないかもしれないが、夫婦は家族だが、それ以上の関係なんだぞ?それに俺たちは婚姻の届けもしていない。事実上俺たちはまだ夫婦じゃない。」
「…そうなのか、なら、今から届けを出しに…」

 グリアは立ち止まるとジンの足元にへばりつき、ジンを見上げた。

「どうした?グリア。」
「あんたの肩にのる。その方が楽。」
「わかったよ。」

 ジンは白猫のグリアを抱き上げるとグリアは肩に登り首に巻き付くように体をすりよせ、ジンは歩き始めた。

「グリア、正直お互いまだわかりあっているとは言えない。いいのか?グリア、こう言うことはちゃんと理解してから決めた方がいいと俺は思う。」

「私は恩人のあんたに興味がある。他の誰でもなく、あんたにだけそう思ったんだ、だめなのか?」

 グリアはジンの耳元に優しく囁けば、ジンは人間の姿のグリアが脳内に浮かび、ドキリとした。

「わかった。今から行こう。」

 グリアは若くて綺麗で口は悪いがジンを慕っている。ジンも口の悪さと、少々常識を知らないかもしれない彼女に、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。

 「夫婦になってから、ゆっくりお互いを知るのも悪くないか。」

 ジンは自分に言い聞かせるように城下町にある、役場の窓口へやってきた。

「グリア、両者のサインがいるから人間に戻ってくれないか?」
「わかった。」

 グリアは地上へと着地する瞬間、白く発光し、光は人へと姿を替え、乳白色の長い髪を靡かせた黒いロングドレスの魔女のグリアが姿を現した。

 魅力的な女性で、乳白色の長い髪がその美しさを引き立たせ、周りの人間の視線が集まるなか、グリアは気にすることなく婚姻の申請書にサインをし、それに続いてジンもサインし、窓口に届けた。

「姓はどうしますか?」
「なんだ?」

 窓口で戸惑うジンは別姓にしようかと思い言葉を発しようとした瞬間、グリアがジンの肩からひょいっと顔をだし質問され、窓口の係員がグリアに顔を紅くしながら説明をした。

「えっとですね、別姓と、嫁ぎ先の姓と、両方の姓の3パターンがあります。」
「なら、両方の姓に。」

 グリアはジンに聞くこともなく決めてしまい、ジンはその手があったかと、少しほっとしたのだった。

「届けは受理いたしました。グリア・レペサ・スハン様、ジン・レペサ・スハン様ご結婚おめでとうございます。」

 こうして二人は正式な夫婦になったのだった。

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