元悪徳魔導士は白猫魔女の愛妻を持つ

元・悪徳魔導士の贖罪の話

6 地下牢

 他国の文化を取り入れたシリジア国は、多民族が暮らし、100年戦争もない平和な国。しかし、医療技術や魔法は他の国よりも劣っている。国内で効果の高い薬は王族が管理し、国民には手が届きにくいため、盗みだし高値で売りさばく者も現れた。

 その１人がジン・スハンだった。高位の魔導士として国に使えていた彼は罰せられその位を剥奪され、流浪の魔導士となり、闇業者のつてを使い、用心棒をしたり、遺跡泥棒の手伝いをしながら、手に入れた金で高価な薬を買い妹の治療に試したりもした。

 妹は治らず悪名が広がった自分は村にも帰れなくなり、ついに は最後に加わった盗みで報酬をもらえず殺されかけて逃げてきた。

 ジンの前に現れた白い猫は体に似合わず人間のように話始め、ジンを保護した。

 彼女がジンを救い、妹も救って…何故だか夫婦に。婚姻はしていないが、即興で結婚式をしたのだ。内縁の妻と言ってもいいだろう。だが、その妻は、多分結婚の意味を理解していないだろう。夫婦の意味も…。

 30を過ぎ、若くて綺麗な娘が妻になるなら、やりたいことは沢山あるが…ジンとグリアの間にはまだ見えない壁がある。ジンはこのままでよいのかわからずにいるが、罪を償うために、何をして来たのか全て白状することにした。

 グリアが話すように…もう、悪徳魔導士ではないのだと自分に言い聞かせて。

 しばらく地下牢と、尋問室を往き来する日々を送り始め、毎日短い時間だが、白猫の姿のグリアが様子を見に来た。

「森の巡回があるから、長居はできないが、また会いに来るよ。辛いだろうが、贖罪のためだ、解放されたら、あんたの新しい役目が待ってる。逃げ出すなよ？」
「ああ、全て毒を出してきてやる。」
「ふふふ。」

  白猫は牢の鉄格子の隙間から入り込み、ジンにすりより手枷がついて身動きできないその大きくごつごつした手をざらついた舌でペロペロと何度も舐めた。

「どういうつもりだ。」
「家族のスキンシップだ。じゃあ、私は帰るよ。」

 そうして猫は鉄格子をすり抜け、地上へと伸びる階段を駆けていった。

「今の俺は不潔なのに…なに考えてるんだか。うちの奥さんは。」

 ジンは舐められたその手を眺め、苦笑いした。