狂戦士は可憐な花嫁を溺愛する

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 アイスの前にルイを連れてきてすぐ、忍者兎も消えていた。

ルイはアイスに抱き上げられたまま、アイスがその優れた脚力で敵をかわし、空いた方の手を振り上げ敵を倒してゆく。ルイは見ないように顔を手で覆い、戦いが終わるのをまった。

 豹の獣人とアイスが、ユイフの兵を倒す頃には、馬の獣人二人はその場から消えていた。

「アイス王子、獣人の皆さんがいませんよ?」
「彼らは今頃ユイフの弓矢部隊を倒している頃だ。」

 すると、アイスの指差す方角から白煙が空へとまっすぐのびていた。

「白煙が…兎さんが案内したんでしょうか?」
「兎さん?」
「ええ、ちっさくて不思議な服を着た茶色の兎さんです。」

「ああ、彼は密兵。調査し、いち早くそれを知らせるのが役目だ。獣人達を案内したら、次はバリージャ国の近隣の領主のもとに知らせにいったはず…ほら、バリージャの兵士が大勢来た。」

 アイスの腕の中、アイスが示す先には、バリージャの兵士、騎士達が猛スピードでこちらに向かってくるところだった。

「姫様ご無事で!」

 先頭には馬にまたがる屈強な初老の領主がいた。

 国王の3人いる弟の1人末の弟で、ルイの叔父にあたる。

「パルグおじさま、お父様は馬車です。」
「では、後程。」

 一部の兵士はアイスの周りに負傷してうずくまる兵士達を捉えて行き、領主パルグはアイスに深々と一礼すると残りの兵を引き連れ馬車の方角へと向かった。

 馬車の周囲は獣人達との戦いから逃れてきた兵士とバリージャの護衛騎士が対峙し、バリージャが優勢だったが、パルグの到着でユイフの兵達はあっと言う間にとらわれていった。アイスはルイを抱えたまま駆けつけ、ルイは腕の中で落ちないようにアイスにしがみついた状態でパルグを呼んだ。

 「おじさま、あちらの白煙があがってる方角に弓矢部隊がいたようです。獣人兵士のお二人が制圧したそうです。」

ルイは恐る恐るアイスを見上げた。

「白煙は制圧の合図でよいのですよね?」
「ああ。」

 ルイの返事に、パルグは残りの兵に指示をだし、白煙があがる方角にむかわせた。

 馬車から顔を出したバリージャ国王は、パルグと挨拶をし、パルグは目線を合わすため馬の上から謝罪した。

「お迎えが遅れてすみません。実は…領地で騒ぎがありました。」
「どうしたんだ?」

「山火事です。人手が足りず、消化に手間取りまして…申し訳ございませんでした!」
「火事の原因はなんと?」
「見慣れない鎧を着た兵士風の人間達による放火だと。」
「ユイフか、」
「そのようでございます。獣人殿が知らせに来てくださり、その足で駆けつけた次第です!」

 ルイはアイスの腕の中で、周りの光景にキョロキョロと見回すなか、戦闘モードでなくなったアイスが、急に腕の中のルイに意識だし、馬車内のバリージャ王に声をかけた。

「姫を…そちらにお戻ししてもよろしいですか?」
「えっ、もう終わりですか?」

 ルイは名残惜しそうに開かれた馬車の入り口に押し込まれ、王の隣に下ろされアイスは向かい側に乗り込み、パルグの率いる兵士達に守られるように馬車はゆっくりと進み始めた。 

 アイスは先ほどまでのルイの感触がまだ腕や胸に残っていた。

 (ダメだ、まだ婚約もしていないんだ、変なことは考えるな!)

 アイスは今までにない感情に戸惑い、気を散らそうと首を左右に振り、その光景はルイや王の目にも可愛らしく見えたのだった。
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