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第1章・魔女の孫と黒鷲の騎士
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しおりを挟む――老いない魔女の終わり――
その昔、ルクシー国の山奥に魔女がひっそりと暮らしていた。その魔女は人と関わりを持たず、薬を作り噂を聞いて薬を求める者たちに売り、生計をたてていた。
その魔女は人ではない者。100年前にこの国の魔界と繋がると言われる古き大樹の花が実となりそこから産まれた。
産まれたのに既に成人していた魔女は、実は魔界に住む魔女。だが、魔界の者達とは考えが相反し、争いを嫌っていた事から魔界からこの地に放り出されたのだった。
魔女は自身の知識を活かし山奥に魔法で小屋を建て、そこで治療に役立つ人間向けの薬を作り売り始めた。
80年後、老いない魔女は戦争に巻き込まれた。ルクシー国を侵略に来た隣の国大国リシーアは進軍し、ルクシー国は窮地に立たされた。80年も人間の世界にいれば、今住んでいる国の事、隣の国の事など情報は得ていた。
争いを嫌うルクシー国は魔女の思いと似ており、隣の国リシーアはそれとは逆に争いを好み侵略を繰り返す野蛮な国だった。
魔女は1人ルクシー国を救うために立ち上がった。
桃色の髪と瞳を持つ美しい魔女の魔法はピンク色の花びらが2枚重なる無数の蝶の形となり敵を襲い、敵の撹乱をさせた。
負傷したルクシーの兵士達に魔女は再び魔法を使った。ピンク色の花びらが2枚重なる無数の蝶の形となる魔法は、負傷者たちの傷口に触れると消え、傷も知らぬ間に塞がり、ルクシーの兵士達の体力も戻り、形勢逆転した。
リシーアの軍勢は魔女の力を恐れ撤退。
ルクシー国の当時の王太子スペーシアも、本来王太子であった亡き兄の弔いにその戦いに加わっていた。
戦地で生死を彷徨うほどに負傷。魔女は、王太子に躊躇うことなく、救うために魔力を注ぎ傷を癒やしていった。
スペーシアは回復した。魔女は力を極限まで使ったためにその場に眠るように倒れて起きず…魔女は王太子の使いたちの手により保護された。
それが魔女と王太子スペーシアとの出逢いとなり、王太子の保護の中静養…元気を取り戻す頃には二人は心を通わし親密な関係に。
スペーシアは婚約者との結婚が決まり、魔女は何も言わず森に帰った。その身に子を宿し…
結婚を控えた王太子は魔女を忘れられず魔女の家を訪ねた。
魔女は身重で家から現れ驚いた。
「私のことは忘れてください。」
「だが…」
「あなたと心通わせた日のことは忘れません。」
「だが!」
「ならばこう言うのはどうでしょう。私はこれからもここで薬を作り売っています。子が産まれ…王都へゆくことになりましたら、働けるよう援助してくれますか?」
「ああ、約束する。」
「時々お手紙をいただけたら私はそれだけでじゅうぶんです。あなたのお役目を大事にしてください。そして立派な王に…」
魔女は訪ねた王太子をギュッと抱きしめた後、家の外へと促し背中を押した。
「待ってくれ、これを私だと思って身につけてくれないか?」
王太子は背中を押され、魔女から離れる直前、手にしていた物を魔女へと差し出すと、魔女は思わずそれを受け取った。
王太子を送り出した後、受け取った手を開けてみると…そこには王家の印である百合の紋章が描かれた青い石のペンダントが輝いていた。
そして魔女はこの国を守ることをペンダントに誓った。
しかし運命のいたずらか、スペーシアが国王になってから…あとを継ぐ子は産まれなかった。その後、戦争に巻き込まれ早くに亡くなった兄の二人の子を後継者として迎えた。
スペーシアは現在隠居し、兄の子が国王となり国を守っている。
×××
娘を出産後、急激に老化の始まった魔女が命を引き取る際、孫娘のサントは、形見としてペンダントを受け取った。王家の印である百合の紋章が描かれた青い石のペンダントを。
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