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1 < 悪魔と子羊の婚約>
しおりを挟む羊の獣人一族の国ミュリ国…王族の男達と眷族の男達には2本の黒い角があった。その多くは立派とまではいかないが、小さな角を生やしていた。
最近国王が50歳を迎え病に倒れ帰らぬ人に…後を継ぐことになった王太子ラーズ。羊の獣人の血筋を絶やさないよう、眷族から花嫁をと話が上がり側近達から推薦されたのは…宰相の娘だった。
眷族内で縁談話が持ち上がり年頃の宰相の娘の名が浮上、サリア・リアシア彼女は可憐で可愛らしい、恋にうといピュアな令嬢。17歳を迎え、王太子ラーズは25歳になったばかり。
国王に恋した令嬢は、恥ずかしがりやで、天然。王が好意を持ったなど気づかずに、『片想い』に燃えていた。興奮すると小さなモフモフ毛皮の白い子羊になるサリアの愉快な恋と冒険の物語。
※ ※ ※
ミュリ国、王都の貴族達が住む高級住宅街がある。
サリア・リアシアは、この住宅街の、ひときわ大きな屋敷に住んでいた。
リアシア邸…ミュリ国の王の妹はかつて宰相をしていたリアシア家に嫁ぐ。花嫁を迎えたリアシア家では、子供が生まれた。その子供も父の意志を継ぎ宰相となるに相応しい人間になれるよう勉学に励み、今もしっかりと宰相の役目を果たしていた。
<ミュリ国の羊の獣人の血をひく多くの者は灰色のの髪と瞳を持つ>リアシア家は血縁関係を結び、王家との絆を深めた現在…宰相の娘サリア・リアシアはこの国で今では珍しくなった<乳白色の髪と灰色の瞳をもつ、まだ幼さが残る少女>である。
若き国王となった、ラーズ・ミュリは素顔を隠し…ぐるりと円をかくように伸びた黒く太い2本の角を生やし、羊を模した立体間のある羊の仮面を被る。怖さ倍増した姿から、悪魔のようだと噂される。それは国民に自分の存在を強く印象をづけるためでもあった。
◆
<リアシア邸>
サリアはこの日父の書斎に呼ばれ国王の花嫁候補になったことを聞かされた。
「お父さま私が候補でよいのですか?学園でも成績は平均的、興奮すると子羊になってしまい、今までの許嫁様方も1ヶ月も経たないうちに断りが来たではないですか…困りましたね、国王様にお断りが来たらもう先はないですよ。私は修道院行きでしょうか…」
「まあ、そこまで悲観するではない。正式な話がまとまる前に一度会ってみなさい。国王の都合を聞いてお前を城に連れて行く事にしよう。」
「お父さまがおっしゃるなら…わかりました。そうします。」
興奮すると子羊になる彼女は今まで好きな人もなかった。目の前で、自分の習性のために駄目にした縁談を経験し悲観的になっていた。悪魔だと聞く国王が自分を気に入るわけがないと。
数日後、謁見を許されたサリアは父と共に城へとやって来た。
謁見の間で初めて間近にしたサリアはその立派な角に、精巧にできた仮面に、目を輝かせた。
「国王陛下、娘のサリアでございます。この度は謁見の機会をいただきまして、ありがとうございます。」
生真面目なサリアの父は若き王に深々と頭を下げた。
「サリア、私がこの国の王…ラーズ・ミュリだ。近くで顔を見せてくれるか?」
サリアは上品に着飾ったドレスの裾をつまみお辞儀した。
「すみません。国王陛下様に間近でお会いできるだけでも光栄なことです。これ以上は…」
サリアはラーズの悪魔の風格に興奮し少々ドキドキが増しており、宰相に助けを求めるのだが…
「私の命令でもこちらに来ないのか?」
サリアは更に興奮し、宰相は意図してサリアの背を押した。
「あ~!お父様押さないでください!国王陛下に嫌われてしまいます!」
「いいから行きなさい。国王陛下にお前のそのままをお見せしなさい。」
「ひゃあっ!」
更に押されたサリアは目の前の段差につまずき、国王を前に倒れ込み、椅子に座る王の膝にポスンと、白い子羊が収まった。
そう、サリアは興奮して…もう1つの姿である羊になってしまった。
過去…縁談のあった相手に会う初めての日は緊張から気持ちが高ぶり子羊になってきた。そんなサリアは初めて国王を間近で見て他の男達には抱かなかった気持ちが芽生え…ラーズの存在が『素敵』だと、顔が見えないにも関わらず…その声と印象に惚れしてしまったのだ。
「サリア!陛下の膝から降りなさい!」
慌てる宰相は、ラーズの膝に収まるサリアに訴えるが彼女の耳には届かず、ラーズを見上げ見とれていた。
「よい。サリアといったな、リュシャ、サリアは以前からなのか?」
ラーズは羊のサリアの背中を撫でながらサリアの父、宰相のリュシャに問うと、宰相はしぶしぶ答えた。
「いえ、変化があったのは2年ほど前から。年頃の娘ですから縁談もいくつかありまして…興奮する度にこうなりまして、先々を考え、縁談はうまく行かず、いまだに婚約者も…」
「そうか、興奮が解ければもどるのか。」
「はい…」
「では、皆席をはずしてくれ。」
ラーズは威圧感のあるこえで告げれば、部屋にいた従者と宰相は部屋から出た。
「サリア。君にだけ顔を見せるけど、見せたら花嫁候補ではなくなる。正式な花嫁に迎えるために婚約をしてもらう。いいね。」
「ラーズ様の素顔が?よいのですか!」
「ああ。君が悪魔のような僕にドキドキするならこちらの方が冷静になるかなって。」
「は…い。」
仮面をゆっくり外したラーズ。
仮面の下は…サリアと同じ乳白色の髪に青色の瞳をした目鼻だちの整った少し強面な青年の笑顔が現れた。
サリアは膝の上で人の姿に戻り体を隠すように丸くなった。ラーズは視線をそらし、右手を空へ掲げると、銀色の指揮棒を出現させクルクルと回して魔法を使った。
指揮棒から現れた光の渦は落ちていたサリアのドレスを引き寄せ、あっとゆうまに裸のサリアに服を着せていった。
「陛下。」
「今日からラーズと呼んで。」
「はい…ラーズ様。どうして…私と同じ髪色をしているのに、隠しているのですか?」
「この国は弱さを見せれば命を狙われかねない。少しでも怖い人に見せたくて、母と画策して悪魔の王様を演じることにしたんだ。サリア。同じ髪色の僕なら見慣れているから少しは熱が覚めたでしょ?」
「ふふふ。ありがとうございます。ラーズ様。」
「さて、仮面をつけるよ。ちゃんと今の僕を目に焼き付けて。」
「ふふふっ…はい!」
こうして二人に秘密ができ、サリアは彼の素顔を目に焼き付け『興奮』を解いた。
ラーズは初めて一目惚れと言うものをした。
自分を恐れず同じ髪色をした可憐で可愛らしい宰相の娘サリアに。その子羊の姿に。一瞬だけ目にしてしまった小さく丸くなる裸の少女に。
だが、年頃になってからのサリアの経緯を耳にしただけに、サリアはきっと周りに勧められて形だけの婚約をしたにすぎないとラーズは思った。
それだけに少し悲しく感じ、彼女の気持ちを振り向かせたいと強くおもった。
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