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2 <初めての慰問>
しおりを挟む婚約者の発表の日、サリアは目一杯お洒落をしてお城に現れた。
悪魔と噂される国王の婚約者に興味を向ける人々の目にさらされた少女サリアは、ラーズの側近の紹介を合図に、集まる貴族達を前に…特に動じることなく上品に、ドレスの裾をつまみお辞儀した。
サリアは様子を見るようにラーズをちらりと見て笑顔を向ければ、ラーズはこくりと頷く。
王座に君臨する悪魔、否羊の仮面をした黒く立派な角がその存在感を増すラーズは寡黙に、サリアを手招きした。
「サリアにはこれを。サリアをこちらに…」
「はい、陛下。」
サリアはラーズのもとへと向かい、ラーズの前に来ると、ラーズは侍従に預けていた、小さな宝石箱を開かせた。
箱から取り出されたのは青く輝く大粒の宝石の指輪。
「サリア、左手を。」
サリアは興奮してきたようで顔を赤くしていると、ラーズは白い手袋をつけた手からサリアの薬指にその指輪を嵌め込んだ。
「サリア、ドキドキして困った時役に立つように細工をしてあるんだよ。」
ラーズは指輪を嵌めた直後、耳もとに囁いたため、サリアの興奮はマックスになり、次の瞬間、子羊に変化し、ポスンとラーズの膝に収まった。
不思議な事に脱け殻のドレスはサリアの変化を隠すように覆い被さり、指輪に吸い込まれた。
変化の瞬間のサリアの痴態は誰にも見られることなく、膝に収まる子羊は、集まる貴族達の目には『悪魔の贄』に見えていた。
「ラーズ様…はっ。陛下、私の服はどうなりましたか?」
「指輪に収納されたよ、元に戻るときはさっきと同じようにサリアの体に装着される細工をしてある。僕からのプレゼント、喜んでもらえた?」
「はい!」
二人は誰にも聞こえないよう小さなこえで会話した。仲睦まじい会話は誰にも聞かれることなく、貴族達、特に令嬢達はサリアが羊の姿でラーズにすり寄る姿に胸をギュッとしめつけられるおもいをしていた。
なぜなら、彼女達の目にサリアの動作が『婚約者に選ばれた可憐な羊の少女の健気に王を慕う姿』にみえていたため。
ラーズは気にすることなく甘えてすり寄るサリアの頭や体を優しくなで、モフモフを堪能した。
(例え好きだと言う気持ちからでなくても、したってくれていることに変わりない。こんな風に甘えてくれるなんて、なんて可愛い人なんだ。)
ラーズはサリアを撫でながらそんなことを考えていた。
そんな二人のラブラブな光景は、歪んだ形で国中に広がることになるのであった。
◆
数日後、サリアは婚約者として慰問に呼ばれることになった。
お城に打ち合わせに来たサリアはラーズの執務室を訪ね、どこへ慰問に行くのか、どうすればよいのか…秘書も交えてサリアは真剣な表情で前のめりになり話に聞き入っていた。
打ち合わせも終わり、サリアと二人きりになるために秘書と侍従に席をはずさせ、短い時間だが二人きりの時間をつくった。
二人きりとなり、ラーズは執務の机から席をたつと、執務室の来客用の二人掛けのソファーに座るサリアの隣に腰掛け仮面をはめた。
「サリア、慰問先は孤児院だけど、院長は独身で僕と歳も近く綺麗な男性だと聞いてる。けっして二人きりにならないで。」「はい。ふふふ。心配してくださるなんてるなんて嬉しいです!ありがとうございます。」
仮面を外したラーズはその仮面をソファー前の小さなテーブルに置き、サリアをギュッと抱き締めた。
「はあ~行かせたくない!」
「ひゃっラーズ様!」
サリアは心配するラーズに抱き締められ鼓動が弾み、あっというまに子羊に姿を変え、ラーズの膝にすぽんと収まった。
(こんな体質の私になんて優しい人なの。ドキドキしちゃう。)
「も~ラーズ様!わざとですよね。ぷんぷん。」
少し拗ねておでこをラーズのお腹辺りに押し付ける子羊のサリアに、ラーズはくすくすと笑うと、愛しそうに、そして優しくサリアのふわふわの羊毛を撫でていた。
そのうちサリアはおとなしくなり頬をラーズの手に擦り寄せて甘えだした。
ラーズは本気で慰問先の院長に警戒し、どうしたものかと…頭を抱えていたのだった。
「愛しいサリア、僕との約束ちゃんと守ろうね。」
「はい、ラーズ様。」
和やかな時間はあっというまに過ぎ、ドアをノックする音に、ラーズは急いで仮面をはめた。
「国王陛下、まだ目を通さなくてはならない資料が沢山ありますからそろそろ始めていただかないと…」
「わかった。サリア、すまない…もう二人の時間は終わりだ。」
(そんな…こんな時しかラーズ様と一緒にいられないのに…仕方ないわよね。私ばかりがドキドキしてるんだもの。国王様は素顔も素敵なんだもの。他に本命がいてもおかしくないのよ。でもいいの。好きな方と接近できるんだもの!ラーズ様に私の印象を強くさせるためならしっかりお役目を果たさなくちゃ!うん!でもやっぱり離れたくない…)
サリアは寂しそうにラーズを見上げると次の瞬間人へと戻り、先ほどと同じドレス姿で席をたった。
サリアはラーズと部屋に入る秘書達に、上品にお辞儀をすると外に控える侍従と共に部屋をあとにした。
ラーズとの約束を忘れないよう、サリアは誰も聞き取れない小さなこえでいつまでも復唱していた。
そうして慰問当日を迎えることに…そしてサリアはちゃんと約束を守るのだが…
*
孤児院ではこの日、ミュリ国王の婚約者であるサリアを招待した。
併設されている教会の客席にサリアは迎えられ子供達の歌の発表会が執り行われた。
ー ー
教会の舞台に並ぶ子供達。ピアノの演奏に合わせて子供達の透き通る歌声が3曲続き、神父による施設と教会の歴史を紹介された。
ー ー
サリアは、国王ラーズが用意した侍従をつけていた。サリアは子供達と握手を交わしたり、神父や、教会に集まった人々に挨拶をした。
サリアは子供達に同行する院長の青年の接待を受けた。
サリアの側には必ず侍従が付いていたのだが、院長は必要以上にサリアに近づき話しかけていたため、サリアにつく侍従達もラーズの心配をくみ取り、サリアから離れないように院長を警戒し常に目を光らせ…サリアもまた、侍従から離れないようにし、人目につかない場所に行かないように徹していた。
それでも事件は起きてしまう。
ラーズの心配が的中する事になるのだった。
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