2 / 3
1話 失声症
しおりを挟む
君に出会って、初めて“失声症”を知った。正確な病名は“解離性障害”の“解離性運動障害”というらしい。正直、病名を聞いてもさっぱりわからなくて、そうなんだと僕はただ頷いただけだった。
君に勧められるまま居酒屋へと行った。店内は薄暗くて、青い照明が綺麗だった。どうやらカウンターしか空席がないらしく、君とふたり並んでカウンターに座った。長い髪と長いピアスが揺れて、なんとなくだけれど年上なんだなとぼんやり考えていた。
“何か食べられないものはある?”とメモ帳が差し出される。僕は野菜が嫌いだからそう伝えると、わかったと彼女は料理を頼んでくれた。さすがに何を食べたかまでは詳しく覚えていないけれど、君が甘いお酒を美味しそうに飲んでいたのを覚えている。どうやらお酒に強いらしく、たくさん飲んでいたが酔った感じはしなかった。
印象的だったのは緑色のバナナ味のノンアルコールカクテルだ。君は“変わったもの”を頼むのが好きらしく、嬉しそうに頼んでいた。一口飲んで、顔が綻ぶ。そしてこちらに一口勧めてきた。
僕はいわゆる“潔癖症”だった。親でさえ、口をつけた物は汚いと感じてしまう。回し飲みなんかもっての他だ。歴代の彼女でさえ無理だった。それなのに。
僕は彼女の緑色のカクテルを飲んでいた。確かに緑色なのにバナナの味がして面白かった。けど、驚くのはそこじゃなかった。僕は躊躇うことなく回し飲みをしていた。じっと君を見ていた。太っていると体型を気にしていた君だったけれど、そんなに太っているという感じではなくて“柔らかそう”という感じだった。
居酒屋を出て、行ったのはカラオケだった。声が出ないのにカラオケに行ってどうするんだろうと不思議に思いながら着いていった。君はカラオケが好きだったらしく、声が出る頃はよく行っていたのだそうだ。
その頃にはメモ帳でのやり取りも慣れて、君が聞きたいと言う曲を歌った。君はものすごく喜んで、僕は嬉しかった。
君が近づいてきて、僕の足の上に乗る。黒子のある少し厚い唇が僕の唇に重なった。
柔らかくて、温かい。
少しお酒の匂いと味のする唇。
初めてのキスだった。
全然嫌なんかじゃなかった。汚くもなかった。
カラオケを出て、家に送ってもらった車の中でも僕たちはキスを繰り返していた。夜中の3時に君は明日仕事なのと帰っていった。
気がつけば僕は君のことが好きになっていた。
家に帰って、気になって“失声症”を調べてみた。強いストレスが原因で声が出なくなるらしい。明るく見えた君は一体どんなストレスを抱えているのだろうか。心配になる。
また、会いたいな。
また、会えるかな。
こうして、君との初デートは終わった。
君に勧められるまま居酒屋へと行った。店内は薄暗くて、青い照明が綺麗だった。どうやらカウンターしか空席がないらしく、君とふたり並んでカウンターに座った。長い髪と長いピアスが揺れて、なんとなくだけれど年上なんだなとぼんやり考えていた。
“何か食べられないものはある?”とメモ帳が差し出される。僕は野菜が嫌いだからそう伝えると、わかったと彼女は料理を頼んでくれた。さすがに何を食べたかまでは詳しく覚えていないけれど、君が甘いお酒を美味しそうに飲んでいたのを覚えている。どうやらお酒に強いらしく、たくさん飲んでいたが酔った感じはしなかった。
印象的だったのは緑色のバナナ味のノンアルコールカクテルだ。君は“変わったもの”を頼むのが好きらしく、嬉しそうに頼んでいた。一口飲んで、顔が綻ぶ。そしてこちらに一口勧めてきた。
僕はいわゆる“潔癖症”だった。親でさえ、口をつけた物は汚いと感じてしまう。回し飲みなんかもっての他だ。歴代の彼女でさえ無理だった。それなのに。
僕は彼女の緑色のカクテルを飲んでいた。確かに緑色なのにバナナの味がして面白かった。けど、驚くのはそこじゃなかった。僕は躊躇うことなく回し飲みをしていた。じっと君を見ていた。太っていると体型を気にしていた君だったけれど、そんなに太っているという感じではなくて“柔らかそう”という感じだった。
居酒屋を出て、行ったのはカラオケだった。声が出ないのにカラオケに行ってどうするんだろうと不思議に思いながら着いていった。君はカラオケが好きだったらしく、声が出る頃はよく行っていたのだそうだ。
その頃にはメモ帳でのやり取りも慣れて、君が聞きたいと言う曲を歌った。君はものすごく喜んで、僕は嬉しかった。
君が近づいてきて、僕の足の上に乗る。黒子のある少し厚い唇が僕の唇に重なった。
柔らかくて、温かい。
少しお酒の匂いと味のする唇。
初めてのキスだった。
全然嫌なんかじゃなかった。汚くもなかった。
カラオケを出て、家に送ってもらった車の中でも僕たちはキスを繰り返していた。夜中の3時に君は明日仕事なのと帰っていった。
気がつけば僕は君のことが好きになっていた。
家に帰って、気になって“失声症”を調べてみた。強いストレスが原因で声が出なくなるらしい。明るく見えた君は一体どんなストレスを抱えているのだろうか。心配になる。
また、会いたいな。
また、会えるかな。
こうして、君との初デートは終わった。
0
あなたにおすすめの小説
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
【完結】逃がすわけがないよね?
春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。
それは二人の結婚式の夜のことだった。
何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。
理由を聞いたルーカスは決断する。
「もうあの家、いらないよね?」
※完結まで作成済み。短いです。
※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。
※カクヨムにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる