ゆうら

文字の大きさ
5 / 5

先生

しおりを挟む
 指定された場所に現れたのは、無表情で近寄り難いオーラを放つ先生。目だけが、私の方を向く。
 誰に見られているかわからない──飛びつきたい衝動を抑え、初対面を装う。
「私を連れていって。許可はもらった。続きは後で……」と小声で囁く。

 先生の後ろを、少し離れてついていく。
 駅に入る先生。お金を持っていない私は、この先へ進むことが出来ない──足を止め、離れていく背中を見つめる。

 先生、振り返って──気付いて──

 私には戻る場所が無い。連絡手段を持っていない。その場で立ち尽くすことしか出来ない──

「使って……」
 手に何かを握らされ、腰をスッと押される。渡された物は小銭入れ。声の主との接点も、誰かに知られるわけにはいかない──振り返らず、そのまま前へ進む。

 見失ってしまった先生を探す──券売機近くの柱を背にして立っていた。切符を買う行列に向かうと、先生が歩いてきて、私の前に入る。手が届く距離に居るのに、触れられないことが辛い。先生が押すボタンを見つめる。同じ行き先の切符を購入し、再び後ろをついて歩く。

 電車に乗車してから、二十分経過──
「次、降りるよ」と先生が呟く。
 電車を降りてからも、先生の後ろをついて歩く。先生がアパートの前で数秒立ち止まり、入っていく。少し遅れてアパートに近付くと、玄関の扉が空いている部屋が一つ──
 中に入ると、その場で押し倒される。
「ゔー……」
 痛みが嬉しさに勝った。先生が摘んでいる場所に、染みが広がっていく──
 先生はすぐに服を捲り上げる。そこにあるのは、水疱が破れ、皮膚や瘡蓋が剥がれてぶら下がっている、真っ黒で腫れている物体。
「説明して」
「今日、入学説明会だったの」
「うん。知ってる」
 前髪を上げて、傷を見せる。
「教師に呼び止められた母親がパニックになって、床に叩き付けられた。それを通報されて、私は施設に行かないといけなくなったの」
「うん。保護しないといけないからね」
「施設に入れられたら、先生に会えなくなっちゃうから……交渉材料に使った。これと引き換えに、先生と会えるようになったんだから、安いものだよ」
 
「うーん……かなり酷い状態……さっき言っていた許可は、私に連絡をくれた養護教諭にもらったの?」
「うん」
「報告の電話をするね……『先程、到着いたしました……許可を得たと述べているのですが、何の許可でしょうか……はい、かしこまりました……見ました……対処可能です……はい、聞きました……いいえ、落ち着いています……問題ありません……最低でも、一週間は要するかと……はい、大丈夫です……はい……いいえ、責任を持ってお預かりします。失礼いたします』……ホールが塞がらないように、腫れが引くまで別の物を挿しておこう」

「何故、ニヤけているのですか?」
「ピアスを大切にしてくれていることが、嬉しくて……『命よりも大切なものとのことですので、必ず付けてあげてください』と頼まれたの」
「少し違います。命よりも大切なのは先生。ピアスではありません。もしもの話……先生か切り落とすか選べと問われたら、躊躇いなく切り落とす。ピアスは無くても、私は幸せでいられます」
「例え話ではなくて、事後報告になっているような……大惨事になっているけれど、くっついているだけ、良かったと思えてきた」
「はい。付いているので、弄ることが可能です。どうぞ。私は弄られたくてたまりません。何をしても構いません」
「何をしてもいいのなら……今だけは、我慢して。水疱が無くなって、薄皮が張るまでの辛抱。炎症を起こさないためには、水疱を潰してはいけないの」
「わかりました」
「とりあえず、何か挿せるものを探そう。せっかく出來たピアスホール。負荷を掛けないために、細いものがいい」
「安全ピン」
「傷を付けてしまうからダメ」
「釘」
「太くなってる……打ち込めばいいとか言うんでしょ。ダメ」

 先生が部屋の諸所を見て回る──
 服にタグに値札を吊るすために使われている、ナイロンの透明な物を使ってみることになった。

 頻繁に、身体がびくっと反応する。
「んっ……んっ……弄れないはずでは? 何してるのですか」
「何もしてないよ。もしかして、これ?」
「んっ……それです」
「くるって回してるだけだよ。痛い?」
「気持ち良いです」

 ピアスを外し、ホールに通しくるくる回す先生。
「んっ……本当だ。気持ちいい」

 我慢の糸が、ぷつんと切れる──
 先生から奪いとったそれを回しながら、口で貪る。先生の身体がぴくんっ、ぴくんっと激しく反応する。

 中に対する刺激への反応が良い。

 あっという間に、先生はぐったりとする。私のそれに通す作業が、途中で終わっている。
 入っていかないから、くるくる回していたのだと思ったけれど、押し込むと難なく先端が出てきた。
 先生は慎重過ぎる──二個目のピアスを開けたときもそうだった。先生の頭を撫でながら懐かしむ──
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

処理中です...