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✼••┈第3話┈••✼ 前半(戦地)
しおりを挟むザリウス団長の命令で戦地へ送り込まれて三日が経った。
私はエレナ副団長が率いる警護団の部隊と共に行動している。
(これが前線か)
カザーフ王国軍とアレイラ帝国軍が衝突しているトナナ村付近だ。
物資と資源に余裕があるカザーフ王国軍が、何故押されているのか疑問に思っていたけれど、アレイラ帝国軍はすごい勢いで攻めて来る。これでは押し返せないのも納得だ。
エレナ副団長を含む宮廷警護団の先輩たちも、新米の私を指導する余裕など持ち合わせておらず、個々の戦闘に必死だ。
具体的な命令もないため、私は皆から離れない距離で兵士の傷を癒している。
「よいしょっ」
私は魔力回復薬を詰めたキャメルリュックを背負い戦線へ繰り出した。
冒険者の頃や、入軍してすぐの頃は後方支援が常だった、今回は前線で兵士と共に行動する。ここでは、私が必要になる状況が沢山あると感じている。
「くっ」
私の右隣にいた味方兵がつまずいた。太腿に矢が刺さったようだ。
「矢を抜くタイミングと同時に回復魔法を唱えます。せーの!」
味方兵が矢を引き抜いたと同時に回復魔法を唱えた。すぐに傷口が塞がる。味方兵は「ありがとう」と私に短いお礼を言うと、戦いへ戻った。
次は弓兵の腕に飛んできた槍が突き刺さった。それを突き刺した帝国兵は切り捨てられ、地に倒れる。
私は回復魔法を発動し、癒しの杖で青白く光る魔法を弓兵へ飛ばした。
(怪我をしてる人――、みつけた!)
前方にアレイラ帝国兵に腹部を斬られ倒れている兵士が見える。傍で戦っている兵士たちも、このままではアレイラ帝国兵たちに殺されそうだ。
「えい!」
私は蘇生魔法を詠唱し、倒れた兵士へ向けてそれを飛ばした。
兵士は立ち上がるとアレイラ帝国兵の背後に回り、背中から剣で斬りかかった。
「ふう……」
私は息を吐き、周囲を確認しながら魔力回復薬を口にふくんだ。
このキャメルリュックは背負ったまま魔力回復薬を飲めるよう細工されている。
キャメルリュックの中にある水袋から柔らかい管が肩のベルト部分まで延びていて、それを咥え吸い込めば魔力を回復できる。
前線では、わずかな隙が生死を分ける。魔力切れを起こしても命取りに繋がる。このリュックは魔力回復の際、敵から視線を外さず回復薬を飲むことができる。
「この辺は一般兵たちに任せておいても大丈夫そうね」
ここはカザーフ王国軍が優勢のようだ。エレナ副団長はそう判断した。
「ナオ、あんたはあっちの治療に専念してきて。あっちはアレイラ軍に押され気味だから気を付けてね」
「はい!」
「じゃ、いってきな」
エレナ副団長が指した方向へ私は駆けた。彼女は双眼鏡を覗きながら攻撃魔法を行使しているため、何処が不利なのかも把握出来るようだ。
「向こうに当たったわね。次、行くわよ!」
後方からエレナ副団長の声がした。少し遅れて、アレイラ帝国軍がいる方向から大きな爆発音と爆炎が上がった。これが彼女の攻撃魔法なのだろう。
エレナ副団長が魔法を放つと、こちらへ特攻してくるアレイラ帝国軍の数が明らかに減っている。
(それにしても……、数が多い)
私は剣を持った兵士の後ろにぴったりと張り付き、エレナ副団長が指示した場所へ移動した。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼
エレナ副団長の言った通り、この辺りはアレイラ帝国軍が優勢のようだ。
攻撃している帝国軍の数が多いのは勿論、彼らの攻撃で傷を負った兵士の数は、先ほどいた場所の比ではない。
……私のいた治療施設へ運ばれる兵士は、まだ幸運なのかもしれない。
「っ!?」
他事を考えていたせいか、帝国兵の剣撃が私を襲っていることに直前で気づいた。
私はそれを杖で受け止め、弾き返す。
「お下がりください!」
近くにいた味方兵が私に気付き、私を攻撃してきたアレイラ帝国兵を剣で牽制した。
味方兵の言う通り、私は後方へ下がった。
私を助けてくれた味方兵がアレイラ帝国兵と小競り合いになっている。
「あっ!」
帝国兵の方が一枚上手だった。味方の兵士は私の目の前で右肩から左腹部までざっくりと斬られ、鮮血が飛び散っている。
「お荷物を抱えて戦うなんてカザーフ王国軍も――」
帝国兵は次の標的を私に絞る。
私は帝国兵を睨み付けると、蘇生魔法の詠唱し、倒れた兵士に青白く光る杖を押し当てた。
「落ちぶれた――、ぐふっ」
私の事を”お荷物”と言った帝国兵は、自分が斬ったはずの兵士に後ろから斬りつけられた。
帝国兵は驚いた表情のまま仰向けに倒れる、すかさず味方の兵士は帝国兵の心臓を一突きした。
(お荷物って言われたのは、このバックのせいよね)
私はアレイラ帝国兵の言葉に苦笑いを浮かべた。
ここには私を狙う敵兵もいる。私一人だけで動くのは危険だ。
「……治療に専念したいので、私をカバーしてくれませんか」
「もちろんだ! さっきは助かったぜ」
「ありがとうございます」
「攻撃は全て受け止めればいいんだな?」
「はい! 痛いですけど……、お願いします」
私が蘇生した味方兵はきつい役割を引き受けてくれた。
斬られれば痛みを感じるだろうが、私がいる限り”死ぬことはない”と気が付いたのだろう。
一人の味方兵が周囲をカバーしてくれているだけで、回復魔法、蘇生魔法をかけやすくなった。
前線で傷ついた兵士を癒す。これが私の戦い方である。
私はその後も、宮廷警護団の団員として、最前線で味方兵の回復、蘇生を行い続けた。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼
前線に出て一か月ほどが過ぎた夜。
私とエレナ副団長はカザーフ王国軍の地方司令部で戦線での疲れを癒していた。
「戦闘には慣れた?」
一か月も前線に出ていれば自分の立ち回り方が自然と身に着く。
突撃の際はどの兵士の後ろに着けばいいのか、後退の際は何処から攻められると危険なのか。自然と判断できるようになる。
この戦争を止めることが私の望みなので、それが早く叶って良かったと思っている。
「……大分、慣れました。でも――」
訓練よりも前線へ出る方がはるかに学べる。
ザリウス団長が私をすぐに前線へ送り出したのも納得がゆく。
双眼鏡を持っているエレナ副団長の指示を受けずとも、援護位置が把握できるようになり、味方兵も自然と私を護る陣形を取るようになった。
そして、次第に仲間の兵士や、兵士を指揮する宮廷警護団の先輩たちとも信頼関係が生まれた。信頼されているのは、私が結果を出し続けているからだ。
私が前線で回復魔法、蘇生魔法をかけているおかげで宮廷警護団が指揮している部隊は皆、軽傷で済んでいる。
一日中、気が張った状態で魔法を唱え続けるのはきついけれど、一か月もこの日々を繰り返していると、要領も掴めてくる。これがエレナ副団長の問う”慣れ”なのだろう。
私は考えを巡らせた後、エレナ副団長に問いかけた。
「随分戦っていますが……、戦況は全く変わらないんですね」
「私の魔法で遠くのアレイラ軍をぶっ飛ばしてるから、こっちの方が優勢かしらね」
エレナ副団長は贅沢品の果実水を飲み干し、空になったコップにもう一度それを注いだ。木の実を口に入れ飲み込むと、ため息をついた。
「トナナ村を奪還するには程遠いけど」
「そうなんですか」
「制圧された後に、すぐに取り返せば良かったのよ。軍師が慎重になちゃってさ、引き返しちゃったのよ。その間にアレイラ軍がトナナ村を拠点にしちゃって長期戦になってるわけ」
「エレナ副団長が軍師だったら、どうしましたか?」
「私だったら? そりゃ、その場で部隊を構成し直してすぐにトナナ村を取り返しに行ったわよ」
「……なるほど。それで、トナナ村の”奪還作戦”は今はどうなっているんですか?」
エレナ副団長は両肩をあげて、身を縮めた。
エレナ副団長の仕草から、トナナ村奪還作戦はまだ出ていないことが伝わってくる。
「判断ミスをした軍師様がホースデン国王と一緒に奪還作戦を決行する機会を”ゆっくり”と練っているでしょうよ」
「あはは……」
エレナ副団長の言葉に、私は苦笑いしてしまった。
エレナ副団長の冗談で話題が尽きた、その時、付近で爆発音が響き、その直後、地響きか伝わってきた。
私とエレナ副団長は壁に張り付き、地響きに耐えた。
「奇襲! 奇襲っ! 直ちに応戦せよっ!」
敵襲を知らせる声と鐘の音が外で鳴り響いている。
「ナオ、行くわよ!」
「はい!」
私とエレナ副団長は地方司令部の外へ飛び出した。
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