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✼••┈第4話┈••✼ 前半(奪還)
しおりを挟む「作戦を説明する」
ザリウス団長は低い声で作戦内容を話し始める。
アレイラ戦争は現在、カザーフ王国軍とアレイラ帝国軍の膠着状態にある。
数ヵ月もその状態が続き、痺れを切らしたアレイラ帝国軍は先日、カザーフ王国軍司令部へ奇襲を仕掛けて来た。先に勝負をかけて来たのだ。それは失敗に終わったが、もし、成功していたなら、戦況は私たちの劣勢となっていただろう。
アレイラ帝国軍が次の手を打つ前に、私たちカザーフ王国軍が仕掛け、トナナ村を奪い返すのが目的だ。
「本作戦はトナナ村を奪還し、アレイラ軍の侵攻を阻止することが目的である」
この間、エレナ副団長が話していた作戦が始まる。どんな作戦内容なんだろうか。
私はザリウス団長の話に耳を傾ける。
「この作戦は、トナナ村の奪取を行う隊とそれを支援する隊の二手に分かれる」
「団長、それはいつもの攻撃と変わらないのでは?」
「今回はトナナ村の”南側”と”東側”から攻める」
「というと……、一方は通常通りの攻撃をし、一方は別方向から攻めるということですね」
「うむ、エレナ、その通りだ」
「ふーん」
エレナ副団長はザリウス団長に意見した。
作戦内容がいつもとそんなに変わらないからだ。いつもは前衛・後衛という隊列で呼ばれる。
ザリウス団長は攻撃する”方角”を変えると言った。
二部隊に別れ、内一方は違う方角から攻撃し、アレイラ帝国軍がそれに応戦する時を狙うようだ。
「南側の攻撃はエレナ、お前が指揮しろ」
「はっ」
エレナ副団長の指揮する隊はトナナ村をアレイラ帝国軍から”奪取”する部隊だ。高火力の攻撃魔法を放つことのできる宮廷警護団の黒魔導士を軸に魔法が得意なもので構成される。
「総戦力の七割はエレナを指揮官とした南側の部隊につける。残りの三割は東側だ」
私は東の部隊に配属された。ちなみに、東の部隊を指揮するのはザリウス団長だ。
東側の部隊の主な役割は、アレイラ帝国兵をかく乱させること。難しいことはなく、いつもの様に戦っていればいい。ただ、戦力の大半が南側の部隊にさかれるため、苦戦を強いられるだろう。
「東側部隊は日暮れと共に、東の山を登る。南側部隊は明日の正午まで所定の位置で待機。突撃の合図はエレナ、お前に任せる」
「了解っ」
「作戦内容は以上だ」
作戦の説明が終わり、東側へ配属された私は戦場へ出ず、夕方まで体を休めた。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼
出発直前、私は装備の確認を行っていた。
いつもより少ない戦力で戦うことになるため、白魔法を多く唱えることになると考え、水袋に高濃度の魔法回復薬を入れることにした。それをキャメルリュックに仕込み終えると、一息ついた。
「ナオ、いるか」
「はい、ざ、ザリウス団長!?」
ザリウス団長がやって来た。
私は立ち上がり、深々と頭を下げた。出立時間を過ぎてしまったのかしら。
キャメルリュックを背負う直前で「いや、話しに来ただけだ」とザリウス団長に言われ、出立時間ではなかったことに気付いた。
「総戦力を三割と決めたのは、ナオ、お前がいるからだ」
「えっ!? 私がいるから……?」
「ここだけの話、エレナの報告次第で東側の戦力を三割にするか四割にするかを決めようと考えていた」
ザリウス団長の発言に私は後ろにのけ反りながら驚いた。
もし、エレナ副団長の私に対する評価が低かったら、東側の戦力は四割になっていたということか。
「お前の活躍は、王都でも聞いたぞ」
「私の活躍ですか……」
「アレイラ軍の奇襲を乗り切れたのは、お前が負傷兵に治癒魔法をかけたからだと聞いた」
「はい、あの時は無我夢中でした」
「あそこで撤退していたら、戦況はアレイラ帝国軍側に傾いていたかもしれない」
「そうかもしれませんね」
エレナ副団長も同じことを言っていた。
まさか、奇襲を防いだことが王都まで伝わっていたなんて。
私がエレナ副団長の命令に背いたことも伝わっていたのかな。
「お前に期待している、それを言いに来ただけだ。じゃあ、またな」
「はいっ」
ザリウス団長は私にそう告げると去っていった。よく見ると、彼は緊張している兵士たちに声掛けをしている。私もその一人だと思われたのだろう。
(もうすぐ出発……)
この作戦が成功すれば、アレイラ戦争が終わるかもしれない。
荷造りを終えた私は、出発の時間まで待った。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼
夕暮れが迫る頃、私たちはザリウス団長の指揮の元、出発した。
トナナ村の東側には山がある。そこの山頂へ向けて出発するのだ。今まで、その方角から攻めたことがないから、アレイラ帝国軍の警備も薄いはず。
「うむ、敵兵はいないな」
登山中、アレイラ帝国軍の姿はどこにもなかった。
カーザフ王国軍の三割がトナナ村へ近づいても敵兵の気配すらない、思惑通りになっている。
ただ、この道が使えるのは一度きりだと思う。この作戦が失敗すれば、アレイラ帝国軍はこの道の警備も始めるだろう。
「あの、どうしてアレイラ軍はここを警戒しないんでしょうか」
「それは、向こうが地形を理解してないからだな」
私は隣を歩いているザリウス団長に質問したが、その返答の意味が解らず、首を傾げた。
「この山はトナナ村側から見ると、絶壁のように見えるのだ」
「え、こんなに登りやすいのに?」
「こちら側からはな。だから、警備が全くいない」
「なるほど……」
それは私も知らなかった。
この作戦を計画した軍師は、判断は遅かったが、内容は考えられている、と私は感心した。
「他にも、敵軍はトナナ村を制圧するだけして、周囲を見る余裕がなかったのだろう」
「どうして分かるんですか」
「偵察に割ける兵がいないからだ。これは向こうの兵力の問題だな。膠着状態にできるのも、せいぜい一か月と軍師は見立てている」
ザリウス団長の話を聞き、私はアレイラ帝国軍の警備がないことに納得した。
そして、私たちはアレイラ帝国軍に接触することなく、山頂まで登り終えた。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼
夜明けになると、トナナ村全体の様子が見下ろせた。
「団長、アレイラ軍は我らの行動に気付いていません」
「うむ。我らが山を下り終えるときには、エレナが攻撃を仕掛けているな」
山登りは上手くいった。
今度は山を下り、エレナ副団長の部隊に加勢する。
「休憩した後、山を下る」
山頂まで登った疲れを癒し、私たちは作戦を実行させるため山を下った。
山を下り、トナナ村へ進軍する際、遠くから爆発音が聞こえた。きっと、エレナ副団長たちが攻撃を始めたんだ。
「少し急ぐぞ」
「はいっ」
私たちは目的地へ向かう歩を早めた。
少し経つと、敵兵の姿も見えてきた。
「突撃! そのまま、攻め込め!」
ザリウス団長が声を挙げた。皆がそれに応じ、アレイラ帝国軍に向けて攻撃を始めた。
私も仲間と共に進む。
先頭にいるザリウス団長は自身の強さを見せつけるように敵兵に向かって斬り込んでいった。彼が大剣を振るっただけで、敵が薙ぎ払われ、道が開けていった。
ザリウス団長が先導しているおかげなのか、皆の動きも良くなっている気がする。
実力者が加わるだけで、こうも戦況が大きく変わるものなのか。
(私は私の出来ることをする)
私は敵兵の攻撃を避けながら、目に移る負傷兵の状態を瞬時に判断し回復魔法を発動させ、癒しの杖で回復魔法を味方の兵士たちに飛ばし続けた。
矢が多く飛んでくる。でも、その攻撃しか来ないのは、近接戦を行う敵兵を皆が倒してくれているからだ。
「助かった」
「あっちの方がやられてる。ナオ、支援に行けるか?」
「はいっ」
味方の方も戦況を読めるほどの余裕が出来ている。
私が見えない場所は、味方が指示を送ってくれている。
私が回復魔法・蘇生魔法を唱えれば、たちまち戦況は優勢になる。それを続けていけば、この作戦は成功する。
「こっちに回復頼む!」
「いや、こっちの兵士がやばい」
支援に向かったトナナ村の南東側は、アレイラ帝国軍に押されているようだった。
戦っている兵士の数も帝国軍の方が多いようだ。
私の姿を見つけるなり、兵士たちが私に指示を飛ばした。彼らの言う通り、二人とも体調が芳しくない。治癒の順番を間違えれば、命を落としてしまうだろう。
(でも、私は白魔法で皆を助けるんだ!)
私は蘇生魔法を二回続けて唱えた。二人はしばらくすると生き返り、戦闘へ戻ってゆく。
優先して蘇生するべき二人は癒した。
私は次に癒すべき兵士の順番を考えながら、魔法回復薬を口に含んだ。それを飲み込んだ頃には頭の中の考えがまとまり、その通りに癒していった。
全ての兵士を癒し終えた頃には、カザーフ王国軍が優勢になっていた。
「……どこも大丈夫そう」
一番劣勢だったトナナ村の北東側も私の白魔法でなんとかカバーできた。
後は走り回りながら、目に着いた兵士たちを癒してゆけば問題なさそうだ。
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