赤羽根の白魔導士

Remi‘s World

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✼••┈第4話┈••✼ 後半(奪還)

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 ザリウス団長率いる、東側部隊の攻撃はトナナ村周辺まで押し切ることが出来た。

「一旦止まれ」

 ザリウス団長が命じた。私たちは彼の言う通りに歩を止める。

「この様子だと、エレナの方も上手くやっているようだな」

 アレイラ帝国軍の東側への応戦がこの程度なのは、エレナ副団長たちが攻撃魔法で徹底交戦しているからだ。
 次なる作戦行動は、エレナ副団長たち南側部隊と合流すること。彼女が戦闘を行っている南側へ、一気に移動し正面突破を支援する。
 ザリウス団長は私たちの状態をじっくりと観察した。

「皆の者、戦えるか?」
「もちろんです! 団長!」

 ザリウス団長の問いに、大勢の者が答えた。

「敵兵の様子はどうだ?」
「わが軍が優勢のようです。アレイラ軍は、東側に兵を割く余裕は無い様に思われます」

 双眼鏡を持った隊員の一人が報告する。
 こちらの兵力は万全、向こうは思ったよりも数が少ないようだ。
 私はザリウス団長が何をしたいのか予想がついた。

「よし、中まで“寄り道”するぞ」
「ですが、作戦ではエレナ副隊長と合流と――」
「いや、作戦ではいつまでにエレナと合流しろとは書いて無かっただろ?それに――」
「……確かに」
「我らはトナナ村へ突撃し、機を見てエレナと合流する!」

 ザリウス団長は、作戦とは違い、このままトナナ村へ突入すると判断した。
 その判断を、宮廷警護団の先輩が止めようとしたが、その先輩は失笑している。
 団長の言い分は、南側部隊との合流時間は書かれていない。ちゃんと奪還できるか、先にトナナ村の中まで確認のため“寄り道”する。そうだ。
 団長は、言い訳にしか聞こえない言い分を真顔で押し通している。

「ナオ、魔力回復薬は残っているか?」
「リュックの残りは半分です。重傷者を優先すれば十分もちます」
「よし、皆、気にせず暴れろ!」

 ザリウス団長の大声と共に、隊員たちはトナナ村へ再び突撃していった。

✼••┈┈••✼••┈┈••✼

 アレイラ帝国軍は私たちの動きに気付いたようだ。

「矢だ! 皆、防御態勢に入れ!」

 矢の雨が私たちに勢いよく降り注ぐ。前進もままならない。当たりどころが悪ければ致命傷になる。

(この速度だと――)

 私は、矢の軌道を見つつ、回復魔法を唱えた。
 兵士たちは不思議そうな顔で、自身の身体を見つめている。

「あれ、一体なんだったんだ……」
「矢が体に食い込む前に、傷が治ってるぞ」
「オレの身体に膜ができたみたいに、矢が弾かれたぜ!」

 私は兵士たちの体に矢が当たるタイミングを予想し、回復魔法を飛ばしていった。

「よし!矢の雨はナオが癒す。皆、臆することなく突き進め!」

 ザリウス団長が声を張り上げている。
 皆はそれぞれの掛け声を挙げながら、矢の雨を恐れることなく、村内へ前進していった。
 しばらくすると、矢の雨も止まり、私たちはトナナ村へとなだれ込んだ。
 その頃にはアレイラ帝国軍は遠距離攻撃から、近接攻撃へと手段を変えていた。
 アレイラ帝国軍は、弓矢の攻撃で私たちの兵力を減らせると算段していたみたいだ。しかし、誰一人倒れていない結果を目の当たりにし、敵兵の士気は大きく下がっているように感じる。
 思ったよりアレイラ帝国軍の手ごたえが無い、味方兵を回復させる回数も少ない。

「重傷者は後ろに下がって。それ以外は魔法を絶えず唱えなさいっ」

 遠くにエレナ副団長が率いる黒魔導士集団の姿が見える。
 強力な黒魔法を放ち続け、アレイラ帝国軍をトナナ村へ後退させたのだろう。
 戦況からしてカザーフ王国軍が優勢。このまま攻め込めば奪還作戦は成功する。
 私がそう確信していたその時――。
 味方が戦闘している近くで、敵が黒魔法を発動させたようだ。破裂音の大きさから威力は相当なものだろう。

「ナオ、治療へ向かえ」
「はいっ!」

 ザリウス団長に命令される前に、私の身体は爆心地へ向かっていた。

「ああっ、なんてこと……」

 私は目の前の惨状に口をつぐんだ。
 直撃したのは四人。全員、爆発で吹き飛ばされ、胸や背中から大量に血が噴き出しており、手足がちぎれている者もいる。

「……」

 誰から蘇生魔法をかければいい、蘇生する順番は―ー。
 答えが出る前に私の身体が動いていた。

(司令部を奇襲されたときに感じた感覚だ)

 あの感覚が全身を駆け巡る。
 皆を救いたいという感情の波が私の胸に一気に押し寄せる。
 私は蘇生魔法を唱え、ぽわっと青白く輝く癒しの杖の宝玉を、四人にそれぞれ押し当てた。
 ポンと軽く触れただけで、四人の身体が瞬く間に青白い光に包まれる。

(不思議……)

 いつもは、どの部分を回復させるのか、蘇生させるのか考えて魔法を使うのに、この感覚に陥ると手に取るように蘇生することが出来る。
 温かい光。私の全身から魔力があふれ出ている感覚がする。
 その感覚が私の中からすっと消えた。どうやら、蘇生が終わったようだ。

「え、生きてる」
「死んだと思った……」
「これは、ナオの白魔導士の力なのか」
「あ、はい。私がおこないました」

 兵士たちは現状を受け入れられず、唖然とした顔でナオを見つめている。

「なあ、あんた目が赤かったか?」
「え? 違いますけど」

 瞳の色が赤い?
 あの感覚になるときはそうなるのだろうか。

「あ、見間違いだったかも」
「いえ、お気になさらず」

 瞳の色が元に戻っているらしい。兵士も見間違いにとどめてくれた。

「敵兵には黒魔導士がいますので、魔法攻撃に気を付けてください。でも、攻撃を受けても、さっきの様に私が皆さんの怪我を癒します」
「おう、ありがとな」
「あっちの黒魔導士を蹴散らしにいくぜ!」
「受けた分、きっちり返さねえとな!」

 私が蘇生した四人の兵士は、落ちている武器を手に取り戦場へ戻っていった。
 私は怪我人を探し、その都度癒していった。

「この戦い勝てるぞ」
「アレイラ帝国軍なんてぶっ潰しちまえ」

 戦況はカザーフ王国軍に大きく傾いていた。
 アレイラ帝国軍も反撃方法が無く、敵兵が「撤退!」と叫んでいるのが聞こえる。しかし、一部のカザーフ王国兵は逃げる彼らを追撃していった。仲間を殺された恨み、カザーフ王国へ二度と攻め入るな、という警告も含まれているだろう。

「やめろ! 追撃はするな」

 ザリウス団長はアレイラ帝国軍に追撃しようとする兵士を制止させていた。日頃、彼を尊敬している兵士たちでも「追撃はするな」という命令には不満をあらわにした。

「もう、我らの勝利だ。無駄な労力をかけるな」
「でも、アイツらが攻めてこなきゃ、親友は――!」
「恨みがあるのは分かる。だが、深追いはするな」
「でもっ」
「友の仇は、トナナ村を奪還したことで果たせただろう。思うところはあるだろうが、深追いは無用だ」
「……わかりました」

 ザリウス団長は、不満がある兵士を説き伏せて行く。
    トナナ村奪還作戦は無事成功した。
 この作戦までに、カザーフ王国軍の兵士たちは大勢仲間を失った。私が来てから死者が激減したとは聞くものの、それまでに仲間を失った彼らのことを思うと、団長のこの命令には、気持ちが重くなる。

「トナナ村を奪還した。皆の者、作戦は成功だ!」

 心気臭い雰囲気をザリウス団長の一声が吹き飛ばした。
 私たちの突入で、トナナ村からアレイラ帝国軍を排除できた。遠くに、アレイラ帝国領へ撤退していく様子が見える。
 ようやく侵攻が終わったのだ。これで、アレイラ戦争も終わりになるかもしれない。
 皆、歓声をあげていた。
    ここにいるカザーフ王国兵たちも、きっと私と同じことを思っているのだろう。

✼••┈┈••✼••┈┈••✼

「エレナ副団長!」

 私はトナナ村内に急ごしらえで建てられた、野戦病院に入院中のエレナ副団長の元を訪れた。
 エレナ副団長はベッドで横になっており、私の姿に気付くと少し複雑な表情を浮かべつつ声をかけてくれた。

「あの、足を怪我したと聞いて――」
「ありがとう。回復魔法が使える部下に治して貰ったから平気よ」
「なら、私が今から――」
「ああ、いい、いらない」
「えっ」

 私はエレナ副団長が任務中、足に怪我を負って療養していると聞いて駆けつけて来たのだ。
 エレナ副団長の脚は、表面上は治ったように見える。
 けれど、内側の筋肉の部分がまだ修復しきれてない。
 私は見ただけで怪我の度合いを理解した。
 この程度なら、すぐに私の魔法で治せる。
 そう感じた私は、詠唱に入ろうとしたが、エレナ副団長に止められた。

「脚の怪我なら、自然に治るから」
「でも……時間がかかりますよ」
「ちょっと――休憩したいのよ」
「……分かりました。副団長がそう言うのでしたら」
「………」

 エレナ副団長はうつむき、少し悔しそうな表情をみせた。

「あの作戦で、私、副団長としてちょっとしくじっちゃったのよ。だから、見つめ直す時間が欲しいの」

 エレナ副団長は、ぼそっと本音を告げた。
 私はエレナ副団長の気持ちを汲み取り、彼女の脚を治すのを止めた。

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