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✼••┈第5話┈••✼ (就任)
しおりを挟むトナナ村をアレイラ帝国軍から奪還して、一か月が経った。
あれ以降、アレイラ帝国軍との戦闘は無く、私は平和な日々を過ごしていた。
「今日もいい朝だなあ」
私は背伸びをした。
私はまだ、トナナ村にいる。
アレイラ帝国軍の侵攻、奪還作戦による激戦により、トナナ村は沢山の柵や家屋が壊れ、敵軍の遺体が転がっている悲惨な状況となっていた。
現在、宮廷警護団とカザーフ王国軍はトナナ村の再建作業を行っている。
王国から救援物資と人手を貰い、村を整備しているのだ。
それだけなら、カーザフ王国軍のみで行えるのだが、いつアレイラ帝国軍が襲ってくるか分からない。彼らが現れた時、すぐに攻撃に出られるよう、宮廷警護団が常駐しているのだ。
ただ、エレナ副団長は足の治療のため、王都へ戻った。彼女は溜まった書類の整理や諸手続きをザリウス団長に代わって行うらしい。
あ、もうエレナ”さん”か。
「おはようございます! ナオ副団長」
「今日もご機嫌うるわしゅう」
「あ、はい。おはようございます」
トナナ村奪還作戦以降、私を取り巻く環境は大きく変わった。
まず、私はトナナ村奪還作戦での活躍を認められ、皆から”ガルーダの羽根”という二つ名を得た。
この名を呼び始めたのは、戦いを共にした兵士たちで、その話がカザーフ王国軍の間で広まり、ホースデン国王から正式に勲章と共に授与された。
次に、エレナさんが前線から外れたため、副団長の席が空いた。
現在その席に、私が座っている。
「宮廷警護団副団長、ナオ……。実感が湧かないんだよなあ」
誰もいない場所で、私はため息をついた。
同じことを人前でやったら、ザリウス団長に叱られたからだ。
私はこの戦争を止めるため、傷ついた兵士を癒し続けただけ、周りからは過度な期待をされている気がする。
四人同時に兵士を蘇生させる離れ業をやってのけ、奪還作戦での死者を〇人にした驚異の白魔導士。
死者を瞬時に甦らせるその威力は、不死の力を授ける深紅の羽根『ガルーダの羽根』そのものだ。
勝利の導き手、勝てない戦はない。
……とか、キャメルリュックに入っている魔力回復薬が切れたら、撤退するしかないのに。私が戦場に立っているだけで勝てる。なんて思い込む人たちも多く出てきた。
「ナオ副団長、トナナ村の柵を石積みの塀にしてみたのですが、村人たちが文句を言っておりまして――」
物思いに更けっていたら、後ろから兵士が話しかけて来た。
副団長という立場になると、こういった相談事が度々舞い込んでくる。
「分かりました。村人の主張を聞きに行きます」
私は問題を解決しに、兵士と共に村人のいる場所へ向かった。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼
「つ、疲れた」
様々な問題を収め、私は副団長室の机に突っ伏していた。
その問題のほとんどが、兵士と村人の衝突だ。
アレイラ帝国軍の侵攻を受けないよう、城塞化を進めたいカザーフ王国軍と、村の景観が損なわれると城塞化に反対するトナナ村の住人たち。
アレイラ帝国軍に破壊された砦を建築するまでの辛抱だと説得すればいいのか、国王の命令だと強引に押し通せばいいのか。
「こんなとき、ザリウス団長はどんな判断をするのかな」
私は独り言を呟いた。
ザリウス団長は、王都ベルサールへ戻り、国王にアレイラ帝国軍との交戦による被害の報告をしている。団長は今日中には、追加の資材と共にトナナ村に来る予定だ。
コンコン。
また、小競り合いが起こったのだろうか。
私は「はい」と訪問者に声をかけた。
「久しぶりだな」
「ザリウス団長! おか――、戻られましたか」
訪れたのはザリウス団長だった。彼はソファに座る。
遅れて、飲み物を持った兵士が訪れ、テーブルにそれを置いて出ていった。
私は、机の上に置いていた”報告書”を手にもち、ザリウス団長と向き合う形で椅子に座った。
「さて、俺がいない間の出来事を報告して貰おうか」
「はっ」
私はトナナ村の再建作業の進捗をザリウス団長に報告した。
正直、作業は遅れている。原因はトナナ村の住人による妨害である。
言い争いは日常茶飯事、ひどい時は作業をする場所に居座って妨害されることもあるくらいだ。
「ふむ」
私の話を聞き終え、ザリウス団長は冷めた紅茶を飲み干した。
「その問題は俺が引き継ごう。ナオ、今起こっている状況を国王に報告してきてほしい」
「はい!」
「では、明日出発してくれ」
「承知いたしました」
トナナ村の再建状況は、副団長である私とザリウス団長が交互にカザーフ国王へ報告しにいく。
次は私の番。上手く国王に報告できるだろうか。私は製作した報告書を握りしめ、緊張を紛らせた。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼
馬車を使い、私は王都ベルサールに帰って来た。
まず、私はホースデン国王と謁見し、トナナ村の再建状況を報告した。何度もやっているはずなのに、国王に報告する際、緊張のあまり声が震えたり、噛んでしまう。
「明後日、トナナ村の人々へ向けて王命を記す。それまで警護団の本部で待機するように」
「はっ」
私の拙い報告を聞いた後、ホースデン国王は私に待機命令を出した。
これで私の謁見は終了。無事に終えた私は、直ぐに玉座の間を出ていった。
「宮廷警護団へ行こう。エレナふく――、さん、元気かな」
報告を済ませた私は、宮廷警護団本部を訪れた。とはいっても、皆、トナナ村におり、ここにはエレナさんと数十人の先輩たちしかいない。
静まりかえっており、誰もいなさそうだ。
建物の中に入り、エレナさんの姿を探したが見つけられなかった。
きっと、出掛けているんだ。私はエレナさんが不在の理由を勝手に思い込むことにした。
宮廷警護団の本部を出た後、私は、久々に王都ベルサールの街を歩いた。
「……」
街を見て、私は落胆した。
ここに来ずに宮廷警護団本部で時間を潰していればよかったと思えた。
ベルサールの中では、アレイラ帝国軍との戦争はすでに”終わった”ものとなっていたからだ。
終戦記念とうたって商品がお得な価格で売られている。
アレイラ戦争は早くも商人が儲ける手段として利用されている。
街の人々は皆、戦争は”終わったもの”と認識しているのだろう。
(まだ、アレイラ戦争は終わってない)
確かに、アレイラ帝国軍の侵攻は止まった。だけど、カザーフ王国軍はアレイラ帝国軍をトナナ村から国境まで押し戻しただけ。”降伏”宣言はなされていない。まだ、こちらに攻め入る気配は十分あるということだ。
(この状況を前線の人達が見たら落胆するだろう)
トナナ村と王都で温度差があることは、私の胸に秘めておこう。
こんな国を”護る”必要が本当にあるのだろうか。
魔がさしたのか、私は軍人らしからぬことを考えてしまった。首を横に振り、その考えを追い払った。
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