赤羽根の白魔導士

Remi‘s World

文字の大きさ
12 / 25

✼••┈第5話┈••✼ (就任)

しおりを挟む
 

 トナナ村をアレイラ帝国軍から奪還して、一か月が経った。
 あれ以降、アレイラ帝国軍との戦闘は無く、私は平和な日々を過ごしていた。

「今日もいい朝だなあ」

 私は背伸びをした。

 私はまだ、トナナ村にいる。
 アレイラ帝国軍の侵攻、奪還作戦による激戦により、トナナ村は沢山の柵や家屋が壊れ、敵軍の遺体が転がっている悲惨な状況となっていた。
 現在、宮廷警護団とカザーフ王国軍はトナナ村の再建作業を行っている。
 王国から救援物資と人手を貰い、村を整備しているのだ。
 それだけなら、カーザフ王国軍のみで行えるのだが、いつアレイラ帝国軍が襲ってくるか分からない。彼らが現れた時、すぐに攻撃に出られるよう、宮廷警護団が常駐しているのだ。
 ただ、エレナ副団長は足の治療のため、王都へ戻った。彼女は溜まった書類の整理や諸手続きをザリウス団長に代わって行うらしい。
あ、もうエレナ”さん”か。

「おはようございます! ナオ副団長」
「今日もご機嫌うるわしゅう」
「あ、はい。おはようございます」

 トナナ村奪還作戦以降、私を取り巻く環境は大きく変わった。
 まず、私はトナナ村奪還作戦での活躍を認められ、皆から”ガルーダの羽根”という二つ名を得た。
 この名を呼び始めたのは、戦いを共にした兵士たちで、その話がカザーフ王国軍の間で広まり、ホースデン国王から正式に勲章と共に授与された。
 次に、エレナさんが前線から外れたため、副団長の席が空いた。
 現在その席に、私が座っている。

「宮廷警護団副団長、ナオ……。実感が湧かないんだよなあ」

 誰もいない場所で、私はため息をついた。
 同じことを人前でやったら、ザリウス団長に叱られたからだ。
 私はこの戦争を止めるため、傷ついた兵士を癒し続けただけ、周りからは過度な期待をされている気がする。
 四人同時に兵士を蘇生させる離れ業をやってのけ、奪還作戦での死者を〇人にした驚異の白魔導士。
 死者を瞬時に甦らせるその威力は、不死の力を授ける深紅の羽根『ガルーダの羽根』そのものだ。
 勝利の導き手、勝てない戦はない。

 ……とか、キャメルリュックに入っている魔力回復薬が切れたら、撤退するしかないのに。私が戦場に立っているだけで勝てる。なんて思い込む人たちも多く出てきた。

「ナオ副団長、トナナ村の柵を石積みの塀にしてみたのですが、村人たちが文句を言っておりまして――」

 物思いに更けっていたら、後ろから兵士が話しかけて来た。
 副団長という立場になると、こういった相談事が度々舞い込んでくる。

「分かりました。村人の主張を聞きに行きます」

 私は問題を解決しに、兵士と共に村人のいる場所へ向かった。

✼••┈┈••✼••┈┈••✼

「つ、疲れた」

 様々な問題を収め、私は副団長室の机に突っ伏していた。
 その問題のほとんどが、兵士と村人の衝突だ。
 アレイラ帝国軍の侵攻を受けないよう、城塞化を進めたいカザーフ王国軍と、村の景観が損なわれると城塞化に反対するトナナ村の住人たち。
 アレイラ帝国軍に破壊された砦を建築するまでの辛抱だと説得すればいいのか、国王の命令だと強引に押し通せばいいのか。

「こんなとき、ザリウス団長はどんな判断をするのかな」

 私は独り言を呟いた。
 ザリウス団長は、王都ベルサールへ戻り、国王にアレイラ帝国軍との交戦による被害の報告をしている。団長は今日中には、追加の資材と共にトナナ村に来る予定だ。

コンコン。

 また、小競り合いが起こったのだろうか。
 私は「はい」と訪問者に声をかけた。

「久しぶりだな」
「ザリウス団長! おか――、戻られましたか」

 訪れたのはザリウス団長だった。彼はソファに座る。
 遅れて、飲み物を持った兵士が訪れ、テーブルにそれを置いて出ていった。
 私は、机の上に置いていた”報告書”を手にもち、ザリウス団長と向き合う形で椅子に座った。

「さて、俺がいない間の出来事を報告して貰おうか」
「はっ」

 私はトナナ村の再建作業の進捗をザリウス団長に報告した。
 正直、作業は遅れている。原因はトナナ村の住人による妨害である。
 言い争いは日常茶飯事、ひどい時は作業をする場所に居座って妨害されることもあるくらいだ。

「ふむ」

 私の話を聞き終え、ザリウス団長は冷めた紅茶を飲み干した。

「その問題は俺が引き継ごう。ナオ、今起こっている状況を国王に報告してきてほしい」
「はい!」
「では、明日出発してくれ」
「承知いたしました」

 トナナ村の再建状況は、副団長である私とザリウス団長が交互にカザーフ国王へ報告しにいく。
 次は私の番。上手く国王に報告できるだろうか。私は製作した報告書を握りしめ、緊張を紛らせた。

✼••┈┈••✼••┈┈••✼

 馬車を使い、私は王都ベルサールに帰って来た。
 まず、私はホースデン国王と謁見し、トナナ村の再建状況を報告した。何度もやっているはずなのに、国王に報告する際、緊張のあまり声が震えたり、噛んでしまう。

「明後日、トナナ村の人々へ向けて王命を記す。それまで警護団の本部で待機するように」
「はっ」

 私の拙い報告を聞いた後、ホースデン国王は私に待機命令を出した。
 これで私の謁見は終了。無事に終えた私は、直ぐに玉座の間を出ていった。

「宮廷警護団へ行こう。エレナふく――、さん、元気かな」

 報告を済ませた私は、宮廷警護団本部を訪れた。とはいっても、皆、トナナ村におり、ここにはエレナさんと数十人の先輩たちしかいない。
 静まりかえっており、誰もいなさそうだ。
 建物の中に入り、エレナさんの姿を探したが見つけられなかった。
 きっと、出掛けているんだ。私はエレナさんが不在の理由を勝手に思い込むことにした。
 宮廷警護団の本部を出た後、私は、久々に王都ベルサールの街を歩いた。

「……」

 街を見て、私は落胆した。
    ここに来ずに宮廷警護団本部で時間を潰していればよかったと思えた。
 ベルサールの中では、アレイラ帝国軍との戦争はすでに”終わった”ものとなっていたからだ。
 終戦記念とうたって商品がお得な価格で売られている。
    アレイラ戦争は早くも商人が儲ける手段として利用されている。
 街の人々は皆、戦争は”終わったもの”と認識しているのだろう。

(まだ、アレイラ戦争は終わってない)

 確かに、アレイラ帝国軍の侵攻は止まった。だけど、カザーフ王国軍はアレイラ帝国軍をトナナ村から国境まで押し戻しただけ。”降伏”宣言はなされていない。まだ、こちらに攻め入る気配は十分あるということだ。

(この状況を前線の人達が見たら落胆するだろう)

 トナナ村と王都で温度差があることは、私の胸に秘めておこう。
 こんな国を”護る”必要が本当にあるのだろうか。
 魔がさしたのか、私は軍人らしからぬことを考えてしまった。首を横に振り、その考えを追い払った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...