赤羽根の白魔導士

Remi‘s World

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✼••┈第6話┈••✼ (限界)

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 ザリウス団長が殺害された。
 その知らせが王都に届いたのは、私が国王から王命が書かれた手紙を貰った日だった。
 知らせを聞いた私は、すぐ、トナナ村へ向かった。
 御者の人に無理をしてもらい、王都からトナナ村まで五日で着いた。

「ザリウス団長は!?」
「……残念ながら」

 私は再建作業中の兵士を見つけ、彼にザリウス団長の状態を問う。
 彼は首を横に振り、ザリウス団長が亡くなったことを私に告げた。

「ご遺体は何処に?」
「案内します」

 私は兵士の案内の元、ザリウス団長の遺体と対面した。
 死因は一目で判った。焼死だ。
 肉体が真っ黒になっており、ザリウス団長なのか判別も出来ない。だが、兵士たちがそう言うのならば、そうなのだろう。
 遺体は室内で保管されていた。宮廷警護団の魔術師が氷の魔法を使ってくれたのだろう。肉体の腐食は避けられている。
 私はその遺体を見て絶句した。

「どうしてこんなことに!」

 膝から崩れ落ちた私は、目の前の惨状を理解できず喚き散らしていた。

「それは――」

 ザリウス団長の遺体に祈りを捧げていた宮廷警護団の先輩が、私にザリウス団長の死の経緯を話してくれた。
 死因は焼死。これは人為的に起こされたものであり、火殺だという。
 この事件が引き起こされた要因はカザーフ王国軍とトナナの村人の衝突だ。再建に反対する村人が深夜、ザリウス団長が眠る民間施設に放火したらしい。
 放火された民間施設は全焼した。
 死者はザリウス団長のみ。事件の前日、民間施設で眠っていた者がいなかったからだ。
 この事件を引き起こした犯人はいまだ不明。
 事件当日に山岳地帯へ逃亡する犯人の姿を確認出来たが、逃げられてしまった。
 逃亡者の服装の特徴からして、トナナの村人であるのは明らか。しかし、村人たちが結託して隠ぺい工作を行っているため、これ以上の追及は不可能と判断された。
 この事件があって以降、城塞化に関わる再建作業は全て止まっている。
 トナナの村人の思惑通りに動いており、宮廷警護団とカザーフ王国軍は、彼らの行動に手を焼いていた。

「説明してくれてありがとうございます」

現状を知った私は、説明してくれた先輩に礼を言った。

「ナオ副団長、国王はなんと仰っていた」
「再建作業を進行させよ、という命令でした。村人との衝突で難航していると伝えたら、王命を頂きました」

 私は先輩にホースデン国王から貰った手紙を渡した。
 その手紙には行動が過激な村民は宮廷警護団で拘束・処分を下すよう書かれている。
これからは遠慮なく。非人道的な事をしても国からは咎められなくなる。
 ホースデン国王からの手紙に先輩は安堵のため息をついた。再建作業を再開することが出来るからだろう。

「早速、蘇生魔法を試します」
「はい、お願いします」

 私がいない間の状況は先輩から聞くことが出来た。
 次は、ザリウス団長を私の魔法で蘇生させる。
 ザリウス団長の遺体が数日間ここに安置されていたのは、帰還する私の蘇生魔法に期待しているからだろう。
    駐在していた白魔導士では不可能な蘇生も、私だったら出来るはず、と肉体の腐敗を魔法で防いでくれていた。

「はあ!」

 蘇生魔法を唱え、ザリウス団長の遺体に触れた。
 焼死遺体を蘇生する『ガルーダの羽根』とまで呼ばれた私なら出来るはずだ。

「え……」

 触れた直後、自分の白魔法に過信していたことを思い知らされた。
 肉体の炭化が内部まで完全に進んでいる。
 蘇生出来る要素が……ない。

「うそ……」
「生き返らない、だと!?」

 私の蘇生魔法でザリウス団長は生き返らなかった。
 傍にいた先輩が驚愕の声をあげている。

「団長、ザリウス団長、戻ってきてくださいっ」

 私は諦めず、蘇生魔法を何度もかけ続けた。
 肉体が炭化していても、私はザリウス団長を知っている。私の記憶から蘇生することだってできるかもしれない。
 一縷の希望に賭け、私は蘇生魔法を唱え続けた。
 しかし、ザリウス団長が生き返ることは無かった。焼死体のまま、横になっている。

(もう一回……、もう一回だけ)

 自分の身体が魔力切れを起こしていることを知りつつも、私は蘇生魔法を唱えた。
 魔力が不十分な状態で放たれた蘇生魔法は、すぐに光を失い、効果が尽きた。

「ザリウス団長……、ザリウス団長っ」

 魔力が付き、何も出来ない私は、ザリウス団長の名を呼び続けた。

「うわあああ」

そして、遺体の前で絶望を吐き出した。

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