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✼••┈第9話┈••✼ (再戦)
しおりを挟む「できた!」
二か月後、私は試作と実験を繰り返し、いにしえの薬の製造に成功した。
ブルークリスタルの効能を逃がさないようにするため、痺れ草に日蔭草の粉末を加えて固めるなんて思ってもみなかった。
完成したのは赤褐色の球体固形物。赤褐色になったのは、痺れ草の色だろう。
錠剤の大きさは小指の腹ほどにした。少量摂取するだけで、効能を得ることが期待出来るからだ。
カザーフ王国で禁止薬に指定されたということは、強い副作用がある毒物だからだと推測している。少量で済むなら、その方が良いに決まっている。
「……」
薬を試作するよりも、辛かったのは効果実験だ。
私は完成を優先したため、動物実験を選んだ。実験のためとはいえ、罪もない動物を沢山焼き殺してしまい、胸が痛む出来事だった。でも、最後のウサギの命だけは救うことが出来た。
「副作用は……、時間が経たないと分からないか」
私は、蘇生に成功したウサギを抱き上げ、久しぶりに施設の外へ出た。
「あ……」
施設を出るとエレナ団長がいた。エレナ団長は腕を組んで、施設の前に立っていた。
私は驚きのあまり、抱えていたウサギを離してしまった。ウサギは飛び跳ねながら、私の元を去っていった。
「二か月も、ここに引き籠って何してたの?」
「魔力強化薬の調合です」
「……再建作業の合間に兵士にこれを建てさせて?」
「――はい」
はあっ。っとエレナ団長は深いため息をついた。
言いたいことは分かっている。宮廷警護団の副団長だという意識が完全に欠けている、だろう。
約二か月間、私が施設に引き籠っていた間に、再建作業は終わっていたようだ。トナナ村の周りには塀ではなく、白い防壁がある。そのせいか日陰の部分が多くなった気もする。
「やりたかったこと、もう終わった?」
「はい」
「ならよかった。あと二日経っても出てこなかったら、黒炎魔法で吹っ飛ばそうと思ってたから」
「……」
冗談を言ったのだろうか、本当にやるつもりだったのだろうか。私はエレナ団長の発言に空笑いをしてしまった。
「あんたが引き籠っている間に、色々あったのよ」
「全て任せてしまってすみません」
「ほんと、そう!」
エレナ団長は私の腕を掴み、引っ張った。私はエレナ団長に引きずられるようについていく。
「どこへ?」
また、前のように宮廷警護団員がいる前で叱責を受けるのだろうか。
私は行き先を訪ねた。
「飲み食いをしながら話せる場所」
エレナ団長はぼそっとそう答えた。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼
私が連れてこられたのは、トナナ村にある団長室だった。
私とエレナ団長はソファに向かい合って座っている。
テーブルの上には書類ではなく、軽食と果実水が置かれていた。本当に飲み食いをしながら雑談をするようだ。
「まずは、ナオが引き籠っていた間に起こったことを報告するわ」
「はい、お願いします」
緊張感のない報告会だ。
エレナ団長は軽食をつまみ、果実水を飲みながら現状を私に説明してくれた。
再建作業は見ての通り終了した。
再建作業を終えた後、一部のカザーフ王国兵たちは王都へ帰還。残された兵士たちはトナナ村の警備を行うということになっていた。
宮廷警護団も王都へ帰還させようとエレナ団長が動いていたところ、昨日、王都から待機命令が届いたそうだ。
「待機命令? それはどうして……?」
「ナオの考えが当たったんじゃないかしら?」
「私の考え? それは――」
「アレイラ帝国は諦めていなんかなかったのよ」
「……まさか」
アレイラ帝国軍がトナナ村へ再び攻めて来る。
アレイラ戦争は終戦ではなく再戦へと向かっているということか。
「また攻めてこられても、こっちは返り討ちにするだけ。でもそれが二度、三度繰り返されるんじゃ困るでしょ」
「戦争が長期化するのは良くありません」
「王国で対策を練っているみたいなのよ。私も招集命令が掛かったんだけど、誰かさんが引き籠ってるから断ったわ」
「す、すみません……」
「その結果が三日後に来る。ナオ、どんな命令が来てもすぐに行動できるようにしておきなさい」
「はい!」
私がいにしえの薬を製造している間にそんな事態になっていたのか。エレナ団長は副団長の私の分まで仕事をしてくていた。なんだか申し訳ない。
「……もう、やりたかったことは終わったのね」
「はい」
「じゃ、話は終わり。出て行ってちょうだい」
「失礼しました」
用事が終わると、私は団長室から追い出された。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼
三日後、王都から通達が届いた。
私はエレナ団長に呼ばれ、団長室にいる。
「開けるわよ」
私は軽く頷いた。
エレナ団長は封書を丁寧に開けた。
封書にはアレイラ帝国領に近いトナナ村を防衛の要として、諸外国の支援部隊と共にアレイラ帝国の制圧を行う、という内容が書かれていた。
私とエレナ団長、宮廷警護団はカザーフ王国軍と共に、その支援部隊と合流しろ、とも書いてあった。
「……徹底的に叩くつもりね」
「諸外国の力を借りるなんて」
「王命が下ったわけだし、私たちはその通りに動くしかないわ」
「はい」
「ナオ、あんたは王国軍の兵士たちにこの旨を話してきなさい」
「私は宮廷警護団の皆に伝えてくる」
「分かりました」
私は団長室を出た後、トナナ村で警備をしているカザーフ王国軍の兵士を一か所に集めた。再建作業をしていた時よりも総数は少ない。ほとんどの兵士は王都へ帰還したのだろう。
私は兵士たちに、諸外国と共にアレイラ帝国軍と戦闘を行うことを伝えた。
それを聞いた兵士たちは、拳を天に掲げ「今度こそアレイラ帝国軍をぶっ潰すぞ!」と大きく声を張り上げた。皆、アレイラ帝国軍との再戦にやる気のようだ。
「皆さんはそれまで、通常警備を行ってください」
「はっ!」
兵士たちはそれぞれの業務に戻った。
一人になった私は、ため息をついた。命令をするなんて二か月ぶりで、人前で話すことにとても緊張した。
私はエレナ団長の元へ戻り、兵士たちの様子を報告した。
「やる気があるようで良かった」
「はい」
「これから王国との連絡を密にしないといけないから、私と幾人かの宮廷警護団は王都へ戻るわね」
「……わかりました」
そうエレナ団長は私に言った。
ほぼ決定事項なので、私が意見する隙は無かった。
でも、王都に戻るのは私よりもエレナ団長の方がいいとは思っている。ホースデン国王や諸外国の部隊とのやり取りは、私にはできそうもない。エレナ団長の強引なやり方に言いたいことはあったものの、内容には文句はなかったので、私は彼女の言葉を受け入れた。
「私は引き続き、トナナ村の警備をします」
「分かったわ。トナナ村に残す団員の選定は私がするから」
「お願いします」
「明後日には王都へ発つわ、トナナ村のこと、よろしくね」
「はい」
全てエレナ団長主体で動いている。そのことに私は疑問を抱きつつも、意見することが出来なかった。
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