赤羽根の白魔導士

Remi‘s World

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✼••┈第10話┈••✼ 前半(蘇生)

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 エレナ団長が一部の宮廷警護団を引き連れ、トナナ村を離れてから数日が経った。

「ナオ様、いますか!!」

 駆けつけてきた兵士は荒い息遣いをしており、ここまで全力で走って来た様子だ。急いで訪ねて来たということは余程の急務なのだろう。

「状況の報告を願います」
「はっ! 報告します。アレイラ帝国軍がトナナ村に向けて進軍中。その数、約一〇〇〇人と思われます」
「敵兵が一〇〇〇人!? 今すぐ向かいます」

 兵士の報告を受け、私は研究室へ戻り、癒しの杖といにしえの薬を三つ手に取った。
 小さな革のポーチの中に放り込み、私は兵士と共に現場へ向かった。
 双眼鏡を覗き、アレイラ帝国軍の様子を見る。総数は一〇〇〇、いや、それ以上いる気がする。

「向こうは、またトナナ村を奪うつもりなんだ」

 私は独り言を呟いた。
 アレイラ帝国兵の他に、この防壁を破るための移動式のバリスタや破壊槌が見えた。
 こちら側に到着するのも時間の問題だ。
 直前になってしか気付けなかったのは山岳地帯が木々に囲まれた地形だからだ。高台に登ろうと、木々が邪魔をして向こう側の状況を把握するのが難しい。

「ナオ様、指示を下さい」
「……」

 ここの最高権力者は私だ。兵士が私の指示を仰ぐのは自然の流れ。
 私は顎に手を当て、アレイラ帝国軍を後退させる策を考える。
 トナナ村の兵力は一六〇人のカザーフ王国軍とそれを指揮する一〇人の宮廷警護団のみ。
 明後日、到着予定の増援が加わればどうにかなるかもしれないが、あの様子だと、アレイラ帝国軍とは明日には交戦となるだろう。向こうは防壁を突破する兵器を用意している、増援が来るまで私たちだけで抵抗する必要がある。

「まずは戦闘に備え、兵士たちは村人の非難を。宮廷警護団員は私と対策を練りましょう」
「はっ」
「時間がありません、急いでください」

 私は優先するべきことをこの場にいる兵士と宮廷警護団員に伝えた。
 まずは、トナナ村の村人を安全な場所へ避難させること。以前とは違って、最悪の場合、王都へ逃亡出来るようになっている。
 制圧されたとしても、村人たちに被害が及ぶことはないだろう。
 この場にいる兵士たちに指示を送り、私は宮廷警護団の団員を集め、私の家へ招いた。
 人数が多いため、施術室に人数分の丸椅子を並べ、作戦会議を始める。

「敵は目と鼻の先にいます。明日にはアレイラ帝国軍との交戦が始まるでしょう」
「向こうの戦力は一〇〇〇人以上いるぜ。城壁を破るための兵器も確認できた」
「こっちの戦力は俺たちの他には一六〇人しかねえ」
「一〇倍以上の戦力差だ」
「しかも、攻撃魔法が得意な奴らはエレナ団長と一緒に王都に行っちまったしな……」
「どうすればいい……」

 団員たちは敵の戦力と自分たちの戦力を比べ、問題を次々とあげていった。
 私たちが抱える問題は多い。
 主題となるのは一〇倍以上の戦力差をどう埋めるかだ。
 宮廷警護団がこの場に一〇人いるが、彼等は近接戦闘が主で、黒魔法に秀でた団員はエレナ団長と共に、王都へ帰還してしまった。

「有効なのは、魔法攻撃と弓矢だよなあ」
「エレナ団長がいねえんだ。ここの魔法兵だけじゃ、その場しのぎだろ……」
「だよなあ。魔法兵の魔法じゃ、黒魔導士と比べると大分威力劣るもんなあ」

 団員たちの言う通りだ。
 でも、武器はその他にもあったはず。

「再建作業では城壁の他にもバリスタを製造していたはずです。兵士の中であれを扱えるものを探し、配置しましょう」
「それで少しはマシになるか」

 私は遠距離攻撃を強化するため再建作業中に設置したバリスタを利用する案を唱えた。
 団員たちは私の意見に納得してくれた。
 けど、これは付け焼刃に過ぎない。削れても二〇〇人といったところだろう。

「ナオ副団長の白魔法だより……、になるんじゃねえかな」
「だよなあ」
「俺たち、あれのおかげで死はねえからなあ。がむしゃらに斬ってくしかねえか」
「……そうなりますね」

 後の約八〇〇人に対しては、私の白魔法を信じて特攻してもらうしかない。

「奪還作戦みたいに、ナオ副団長が前線で回復し続けることになるのか?」
「白魔法の詠唱は防壁の上からになるでしょう。以前は私以外にも白魔導士がいましたが、今回はいませんから」
「向こうには黒魔法の他に、バリスタがある。攻撃が城壁に向かわない保証はない」
「それに気を配る戦い方はできないぜ。負傷しない確証がナオ副団長にはあんのか?」
「いえ……」
「ナオ副団長を失ったら、俺たちは全滅する。その戦法はよくない」
「……分かりました。別の方法を取りましょう」

 私が負傷したら、全滅する。
 そんな局面で、攻撃を当ててくださいと言わんばかりに防壁の上にいるのは危険だと団員に指摘された。
 それに、私の存在はアレイラ帝国軍側に伝わっているはず。敗走した際、報告に上がっているはずだ。この戦いでは私を優先的に攻撃するよう練り直されている可能性もある。
 私は団員の意見を受け止め、自分の考えを取り下げた。

「白魔法はこの建物の中で使うことにします」
「そうなると、怪我人を運び込まねえといけねえな……」

 私は別の案を出したが、団員の一人が難色を示した。
 別の団員が難色を示した団員に意見する。

「前とは違って、こっちには城壁がある。負傷したら後退することに注視して戦えばいい」
「常に三人で戦闘し、二人以上の負傷者が出た場合は、別の兵士と合流する。一人にならない陣形を組んでいこう」
「死傷を受けない。それが勝つための唯一の方法だ」

 団員たちの策がまとまって来た。
 それは計画的なものではなく、場当たり的なものだが、アレイラ帝国軍への対抗策はそれくらいしかない。

「負傷者の運搬を受けもってもらえるか、トナナの村人に声を掛けてみます」
「協力してくれるかね……」
「村を守りたいと思っている方はいるはずです。いない場合は、補給兵に兼任して貰いましょう」
「いたらまし、ぐらいに考えとくか」
「そういうことです」

 私たちの戦いに協力してくれる村人は少ないだろう。けど、いないよりはましだ。

「対抗策は出尽くしたと思います。では、不安材料である”破壊槌”の対策について議論してもよろしいですか」

 アレイラ帝国軍への対策は大雑把には決まったはずだ。それを具体的な話し合いへ移そうと思ったが、団員の一人がそれを遮った。

「ところで、この建物はなんのためにあるんだ?」
「ナオ副団長が復興作業の片手間に作らせたもんだと聞いてたが」
「床にある魔法陣は、白魔法に関係あるのか?」

 一人が疑問を口にすると、皆の関心が施術室内に向けられる。
 建築を行った兵士たちの認識も、質問した兵士と同じくらいだ。深く説明しなかったのは、そうする必要が無かったからである。建物の用途を問われたときの文句は決めてある。

「私の白魔法を強化するための施設です。魔法陣の上に怪我人を横たわらせると複数人を同時に治療出来ます」
「ああ、前の“奇襲”の時と同じように出来んのか」
「はい」
「他には仕掛けがあるのか?」
「いいえ、ありま――」
「白魔法を強化させるために動物実験を行っていた、という噂を聞いたことがあるんだが」
「おい、その話は本当か?」

 一人の団員が噂話を出してきた。
 その話から、”噂”が真実であるか問われた。

「……本当です。私の白魔法を強化させるため、仕方ない犠牲でした」

 私は話を進めるため、事実を告げた。
 団員たちは息を飲み、沈黙が続く。

 それを破ったのは私だった。

「そのおかげで、私の白魔法は強化されました。ザリウス元団長のような死者を出さないことを約束します」

 動物実験を行っていたことを知られ、冷ややかな視線を向けられた。けれど、私の決意を話すとそれが少し和らいだ。

「その成果、明日の戦いでみせてもらうぜ」
「はい」

 以降、団員たちが建物の事について言及することは無くなった。
 作戦会議も進んでゆき、兵士長へ伝達できるところまでまとまって来た。その頃には日が暮れていた。

「じゃあ、俺たちは兵士長に作戦を伝えて来る」
「お願いします。明日の戦い、乗り切りましょう」
「おう」

 宮廷警護団員たちは、作戦内容を伝えるため建物を出ていった。
 丸椅子を片付け、一人になると、私は研究室へと入った。

「……これを試すときだ」

 私は“いにしえの薬”を見つめ、呟いた。
 この薬を実戦で使うのは明日の戦いが初めてだ。
 効力は確認できたけれど、効果時間、副作用など分からないことが多すぎる。副作用のせいで、白魔法が途切れることがあったら、自身の命を落とすことになったら――と不安な気持ちが押し寄せた。

「大丈夫、大丈夫よ」

 確信はないが、私は自分に言い聞かせた。そして、私は翌朝の戦いに備えるため、ベッドに横になり仮眠をとった。

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