ある時計台の運命

丑三とき

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幕開けのツリーハウス

高濃度日

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どんな言葉でも完全に受け入れ体勢が整っていた脳が「もう一人の父」を耳ざとく感知した。
いや、バジリスクも充分意味不明なんだけど、ほら、もう異世界だからこの際そっちは後回し。

父と父から生まれたってこと?どういう事?これも異世界だからで済ませてしまって良いのだろうか。
でもちょっと待て。いくら僕の常識と逸脱した世界だからって、そんな訳ないか。

ああわかった!なるほど、ジルさんも特殊な家庭なのだな。ジェンダーレスや性選択の自由、結婚の自由が進んでいるのはどの世界も同じなんだなあ。
そっか、ちょっと最近ヘンテコな情報を受け入れすぎで頭が逆に凝り固まってた。もっと頭を柔らかくして物事を考えなければ。


紙に『父』と『父』を少し間を開けて横並びで書き、その二つの『父』を一直線で結んだ。
ここからジルさん?
線の真ん中あたりから下に縦線を伸ばし、その真下に『ジル』と。
おお、何だか多様性に富む家系図を生み出してしまった。
周りにはお花を2つ3つ飛ばす。はてなも2つ3つやしておこう。


ジルさんとイガさんは僕の描いた図を見て目を合わせる。
数秒の後、コク、と何故か真剣な眼差しでひとつ頷いた。
そして、

「安心するといい。最近では異性間の恋愛も理解され始めているし、異性婚の制度も進んでいる」


あ。
そっちの心配をしてくれていたんだ。



ジルさんの後ろでは、イガさんがうんうん、とにこやかに頷いている。
やはり異世界となると結婚の主流も違うのか。もう受け入れよう。

ん? ではどうやって子を成すの?

という疑問も浮かんだには浮かんだのだが、ふよふよと先程のお二人の会話が蘇ってきて、その疑問をさりげなく消し去る。特に「お前たち偵察部隊」「うちの隊は」の部分にはてなが生じる。

ジルさんも偵察部隊なん、だよね?いや、でも、・・・?もしかして偉い人?

最高司令官、って、『最高司令官』で合ってますか。

確認するように、紙に『最高司令官』の文字を反映させると、イガさんが少し驚いた風に
「司令官。ご自身のことをお伝えしておられなかったのですか?」と言った。

確かにジルさんの種族も今知ったし、こんなに偉い人だったのも今知った。
いやでも、種族に関しては人間一択だと思っていたし、さっき偵察部隊で密偵と言われたので、言葉通り偵察部隊の密偵だと思っていた。
最高司令官として隊員たちをつかさどっているなんて聞いてないぞ。

という気持ちで、ジトーっとジルさんを見る。

「そうか。アキオには確か『今回は偵察部隊として密偵をしていた』としか伝えていなかったな。
今回は彼ら偵察部隊のものと共同で動いたが、普段は司令官として指示を出している」

おお、シンプル。
まあ、軍の編成や階層構造など説明されても正しい理解はできないから別にいいのだけれど。
『色んなことができる偉い上司』とだけ理解しておこう。


一通り話が落ち着くとイガさんは

「ところで御二方、こちらはお届けものです。
市場でパンや肉、野菜などを調達してまいりました。
特に新鮮な野菜は久しぶりではありませんか?たくさん持って参りました。司令官も現在休養中とのこと。しっかり栄養を摂ってくださいね」

と、担いでいたサンタ袋を「失礼します」と言ってテーブルに広げた。
内容的には、見たことのあるものと初めて見るものが半々といった感じだ。レタスやニンジン、トマトなど、形は日本のそれと似ているが色がちょっと変わっていたりするもの。石ころのような、食べ物とは思えないもの、硬そうな、何か。

元の世界でも料理はしなかったし元々食材にも詳しくないので、多少見慣れないものがあったからといって食べる気になれないとかそんなのは無い。
どのようにして食べるのかはジルさんに教えて貰えばいいだろう。

ジルさん、こんなに多くの食材、料理できるのかな?

「助かった。実は食物庫のものが殆ど傷んでしまっていて、アキオにろくなものを食べさせられていないんだ」

あんなに美味しいスープを、そんな、ろくなものを・・・なんて。
僕は可動域の狭い首をブンブンと振り、

ーーーとてもおいしかったです

と書いた。
ジルさんは表情を和らげ、それを見たイガさんは、なぜかキョトンと気抜けしているような、いないような。

そうだ。僕に与えるばかりでジルさんはちゃんと食べたのだろうか?

今日起きたのが昼過ぎ頃だったとして、成人男性にとって、しかもジルさんほど体が大きな人にとって今まで満足な食事をしていないとなると、きつい時間だったのでは無いだろうか?


曰く、「私は多少腐っていようと関係無いから、食物庫にあったものを処分も兼ねて適当に調理して腹を満たしたのだが、アキオにはそんなもの食べさせられないのでな」らしい。

腐ってもお腹壊さないのか。それも精霊の力?

「それと、こちらは頼まれていた衣類です」


イガさんは、今度はトランクを掲げた。

「ああ。こういうのは、私にはよくわからないから。お前に任せてよかった」

こちらもテーブルに置いて中を開くと、シャツやズボン、下着のようなものが詰められていた。
これが僕のものだというのだからびっくりだ。なんというか申し訳ない。
ジルさんに服まで買ってもらうことになるなんて。
何から何まで世話になりっぱなしだ。


「お二人が王都へ向かわれる際は、私が引かせていただきます。
手前味噌ですが、軍馬よりも揺れない自信がありますので」

「それは心強い。また連絡する」


「はい!それでは失礼致しました」

バタン、と玄関扉を閉め、イガさんは出て行った。

再び二人になった空間。
イガさんが去ってしまったので、僕はどうしてもスルーできない疑問をジルさんにぶつけることにした。

ーーー引くって何をですか?


「イガはユニコーンの血を引いているからな。あいつの引く馬車は乗り心地が良いと評判だ。期待していい」


どうやら引くというのは馬車を、ってことらしい。
そんな畜生みたいなことを、さっきの聖人みたいなイガさんに。

でもそうか、ユニコーンか。どうりで良い人そうだった。



警戒して、安心して、びっくりして、戸惑って、
濃度の高い1日だった。
感情の種類が多ければ多いほど疲れるのに、この日ばかりは心地良い。

僕はこの日、久しぶりの安眠を楽しんだ。
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