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旅路
生い立ち①
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あー・・・、やってしまった。盛大にやってしまった。こんなのは初めてだ。
気が付いたらお風呂でジルさんに揺すられていた。
嫌なこと思い出してパニックになっちゃったし、過呼吸起こしたし、寒いし、そんなことよりも何よりも、ジルさんに思い切り抱きついて何か恥ずかしいことを呟いたことに大ダメージを受けている。
あーー、もうやだー、穴があったら入りたいーー。
今はというと、すっかり落ち着いてもう1回お風呂で温まり直して(ジルさんの見張り付き)、ちゃんと服を着て(ジルさんの見張り付き)、大人しくベッドに入っている(ジルさんのベッドに)。
だって僕のベッドはびしょびしょになってしまったんだもの。仕方ないじゃない。
隣で一緒に布団に入って、ぽんぽんと優しく胸を叩いてくれているジルさんの手を目で追いながら、羞恥と罪悪感に耐える。一緒に寝るの久しぶりだなあ、なんて、1人で寝たのは昨日一度だけなのに、この感覚が懐かしくて内心では舞い上がってしまう。
ジルさんに触られるのは相変わらず何故かどきどきするけど、段々と、どきどきよりも安心感の方が上回っていた。
それに、あんな姿見せてしまった後だからこれくらいお茶の子さいさいだ。
でも、きちんと謝らなきゃ。
僕は躊躇する声帯を叩き起こし、意を決して口を開いた。
「昨日も迷惑かけたのに、本当に、いつもいつもごめんなさい」
昨日は夢に魘され、今日は嫌な記憶に過呼吸を起こした。昨日の今日で、絶対めんどくさいやつだと思われた。ここで置いていかれたら生きていく自信は無いけど、早速切り捨てをくらいそうな行動の連発は我ながら呆れる。
僕がやっとのことで振り絞った言葉に、ジルさんは、
「昨日のことを覚えているのか?」
と、驚いたような顔で問うて来た。
「え・・・?」
そりゃ覚えてますとも。忘れられたらどんなに良かったことか。
だって、寝ていたであろうジルさんを起こし、僕が寝付くまでお守りをさせたのだから。
僕、そんなに意識朦朧としてたのかな?覚えてないと思われるくらい。
困惑する僕にジルさんはこう言った。
「君は小屋で生活している時から魘されることが何度かあった。夜だけでなく、食事中にいきなり震え出し私の呼びかけに全く答えない事もあった」
「え?僕、全然・・・」
何だそれ?そんなの覚えてない。
覚えてたらこんなに気持ち良く旅行気分で楽しめていないと思う。
僕は意識をしていないところでも、ジルさんに迷惑をかけていたというのか。
「覚えていないのだろう?
いつも意識が戻れば何もなかったように普段通りのアキオに戻るので、私も触れずにいつも通り振る舞っていた。昨日のことも、覚えていないものだと・・・。
私がもっと早くに対処していれば、こんなに苦しい思いをする事は無かったかもしれない。本当にすまない」
「そんな・・・!」
何で僕はジルさんに謝らせてるんだろう。
申し訳ないのと、自分が憎いのと、悲しいのがごちゃ混ぜになってよく分からない感情が生まれた。
どういう言葉を発していいのか分からなくて、もごもごと音にならない息だけが洩れる。
「アキオ。君は勇気を出して私に異世界から来たことを打ち明けてくれた。しかしそれとは別に、まだ抱え込んでいることがあるのではないか?」
「・・・そういう、訳じゃ」
つい先程まで頭をぐるぐる駆けていた記憶が、喉元まで出かかった。
「私では頼りにならないか?」
「違いますっ!!!」
思わず出た大きな声に、僕自身も驚いてはっと我に返る。
興奮したらまた息苦しくなってしまう。
気持ちくらい自分で落ち着かせなければ。
「す、すみません・・・」
「アキオ。もう充分だ。君は充分1人で頑張った。私にも、君のことを守らせて欲しい」
こんな切ないジルさんの顔、初めて見た。
充分守られてる。充分支えられてる。ジルさんの優しさを、貰い過ぎなくらい貰っている。
僕は無意識に小さく頭を振っていた。
「違うんです。そうじゃ無いんです。
僕はジルさんに呆れられるのが怖くて逃げていただけで・・・。1人で頑張ったとか、そういうんじゃないんです」
「なぜ私に呆れられると?」
そうか、僕は、この人に呆れらるのが怖いんだ。この人の隣にずっと居たいと思っているんだ。
『元の世界に帰されるかもしれない』とか、『異端者として何か処罰が下るかもしれない』とか、この先どうなるか分からない、ってそればっかり考えてた。どうなっても受け入れるつもりだった。
でも、僕自身はどうしたい?
そう考えた時、どうしようもなくこのあたたかい場所から離れたく無い自分が主張を始めた。
負い目を感じたままでは嫌だ。呆れられてもいい。自分を偽って迷惑をかけるより100倍マシだ。
そして、多分無理かもしれないけど、ジルさんが向けてくれる優しさに少しは相応しい人になりたい。
僕の覚悟は自然と決まっていた。
「ジルさん、僕の今までのこと、話してもいいですか?」
「ああ」
ジルさんは、天上を仰ぐ僕の目にかかっていた前髪を避け、再び胸元に手を置いた。
「僕の世界では、男女の間に子が生まれるのは知っていますよね?僕にも、父と母が1人ずつ居ました。
物心ついた頃から、2人は僕に興味が無いということに、なんとなく気付いていました」
気がつけば自分でも驚くほどにしっかりとした強い足取りで言葉を走らせていた。
ジルさんはただただ静かに、僕の人生の傍観者として耳を澄ませてくれていた。
気が付いたらお風呂でジルさんに揺すられていた。
嫌なこと思い出してパニックになっちゃったし、過呼吸起こしたし、寒いし、そんなことよりも何よりも、ジルさんに思い切り抱きついて何か恥ずかしいことを呟いたことに大ダメージを受けている。
あーー、もうやだー、穴があったら入りたいーー。
今はというと、すっかり落ち着いてもう1回お風呂で温まり直して(ジルさんの見張り付き)、ちゃんと服を着て(ジルさんの見張り付き)、大人しくベッドに入っている(ジルさんのベッドに)。
だって僕のベッドはびしょびしょになってしまったんだもの。仕方ないじゃない。
隣で一緒に布団に入って、ぽんぽんと優しく胸を叩いてくれているジルさんの手を目で追いながら、羞恥と罪悪感に耐える。一緒に寝るの久しぶりだなあ、なんて、1人で寝たのは昨日一度だけなのに、この感覚が懐かしくて内心では舞い上がってしまう。
ジルさんに触られるのは相変わらず何故かどきどきするけど、段々と、どきどきよりも安心感の方が上回っていた。
それに、あんな姿見せてしまった後だからこれくらいお茶の子さいさいだ。
でも、きちんと謝らなきゃ。
僕は躊躇する声帯を叩き起こし、意を決して口を開いた。
「昨日も迷惑かけたのに、本当に、いつもいつもごめんなさい」
昨日は夢に魘され、今日は嫌な記憶に過呼吸を起こした。昨日の今日で、絶対めんどくさいやつだと思われた。ここで置いていかれたら生きていく自信は無いけど、早速切り捨てをくらいそうな行動の連発は我ながら呆れる。
僕がやっとのことで振り絞った言葉に、ジルさんは、
「昨日のことを覚えているのか?」
と、驚いたような顔で問うて来た。
「え・・・?」
そりゃ覚えてますとも。忘れられたらどんなに良かったことか。
だって、寝ていたであろうジルさんを起こし、僕が寝付くまでお守りをさせたのだから。
僕、そんなに意識朦朧としてたのかな?覚えてないと思われるくらい。
困惑する僕にジルさんはこう言った。
「君は小屋で生活している時から魘されることが何度かあった。夜だけでなく、食事中にいきなり震え出し私の呼びかけに全く答えない事もあった」
「え?僕、全然・・・」
何だそれ?そんなの覚えてない。
覚えてたらこんなに気持ち良く旅行気分で楽しめていないと思う。
僕は意識をしていないところでも、ジルさんに迷惑をかけていたというのか。
「覚えていないのだろう?
いつも意識が戻れば何もなかったように普段通りのアキオに戻るので、私も触れずにいつも通り振る舞っていた。昨日のことも、覚えていないものだと・・・。
私がもっと早くに対処していれば、こんなに苦しい思いをする事は無かったかもしれない。本当にすまない」
「そんな・・・!」
何で僕はジルさんに謝らせてるんだろう。
申し訳ないのと、自分が憎いのと、悲しいのがごちゃ混ぜになってよく分からない感情が生まれた。
どういう言葉を発していいのか分からなくて、もごもごと音にならない息だけが洩れる。
「アキオ。君は勇気を出して私に異世界から来たことを打ち明けてくれた。しかしそれとは別に、まだ抱え込んでいることがあるのではないか?」
「・・・そういう、訳じゃ」
つい先程まで頭をぐるぐる駆けていた記憶が、喉元まで出かかった。
「私では頼りにならないか?」
「違いますっ!!!」
思わず出た大きな声に、僕自身も驚いてはっと我に返る。
興奮したらまた息苦しくなってしまう。
気持ちくらい自分で落ち着かせなければ。
「す、すみません・・・」
「アキオ。もう充分だ。君は充分1人で頑張った。私にも、君のことを守らせて欲しい」
こんな切ないジルさんの顔、初めて見た。
充分守られてる。充分支えられてる。ジルさんの優しさを、貰い過ぎなくらい貰っている。
僕は無意識に小さく頭を振っていた。
「違うんです。そうじゃ無いんです。
僕はジルさんに呆れられるのが怖くて逃げていただけで・・・。1人で頑張ったとか、そういうんじゃないんです」
「なぜ私に呆れられると?」
そうか、僕は、この人に呆れらるのが怖いんだ。この人の隣にずっと居たいと思っているんだ。
『元の世界に帰されるかもしれない』とか、『異端者として何か処罰が下るかもしれない』とか、この先どうなるか分からない、ってそればっかり考えてた。どうなっても受け入れるつもりだった。
でも、僕自身はどうしたい?
そう考えた時、どうしようもなくこのあたたかい場所から離れたく無い自分が主張を始めた。
負い目を感じたままでは嫌だ。呆れられてもいい。自分を偽って迷惑をかけるより100倍マシだ。
そして、多分無理かもしれないけど、ジルさんが向けてくれる優しさに少しは相応しい人になりたい。
僕の覚悟は自然と決まっていた。
「ジルさん、僕の今までのこと、話してもいいですか?」
「ああ」
ジルさんは、天上を仰ぐ僕の目にかかっていた前髪を避け、再び胸元に手を置いた。
「僕の世界では、男女の間に子が生まれるのは知っていますよね?僕にも、父と母が1人ずつ居ました。
物心ついた頃から、2人は僕に興味が無いということに、なんとなく気付いていました」
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ジルさんはただただ静かに、僕の人生の傍観者として耳を澄ませてくれていた。
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