ある時計台の運命

丑三とき

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王都〜第二章〜

ささやかな要求①

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もうじきニルファルさんの後見人が着くらしいので僕たちも移動を始めた。隣国から来るというのに、やけに早いなあ。

緑の中に佇む宮廷は相変わらず美しく、屋根の上にそびえる時計台が針を進める音が鈍く響いた。
久しぶりの宮廷にこんな形で来ることになるとは思わなかった。複雑な気持ちで上を見上げていると、青空が目に入る。
いい天気だ。

日の光を全身に浴びながら晴れた空を堪能しているとアッザさんが「来たか」と呟き、ジルさんが僕を引き寄せた。

何事だと身構えたほんの数秒後、バサッという低く大きな聞き慣れない音が響き、明るかった周囲に影が差した。

「なに…?」

「大丈夫だ」

ジルさんが大丈夫と言うならそうなのだろうけど、得体の知れない現象に少々の恐怖が芽生える。
ジルさんの腕にしがみついていると、その恐怖も少し和らいだ。

ゆっくりゆっくり、その影は地上に近づいてくる。影の全体像をこの目で捉えた途端、大きな興奮が体の底から湧き上がるのを感じる。

長い尻尾と蝙蝠のような羽、鋭い爪、体は分厚い鱗で覆われていて、キリッとした目に捕まればたちまち動けなくなる。

「ドラゴン……」

僕の小さい声は、その生物が羽をしまう音にかき消された。

地上に降り立ったそれは光を放ち、大きな体をだんだんと縮めていく。背中に括り付けていた布らしきものがバサッと広がり、その光に覆い被さる。


「遅い」

アッザさんが舌打ちをした。

「ももももも申し訳ございません!!!!」 

「え?、うわあ」

布に覆われた光はこっちに走りながらだんだんと発光を弱めた。なにかを叫びながら。

それが謝罪の言葉を意味していると気がついたのは、僕の足元に布が突っ伏した時。
布の中からぐわっと顔を出したのは、紺碧の髪の毛をした青年だった。

「あなたが例の "アキオ殿" とお見受けします!!我が国王がとんだ無礼を!!
許されることではありません。お許し頂かなくて結構です!!何なりと罰を…」

「うるさい、落ち着けトゥガイ。それも含めて今から話すんだろうが」

アッザさんが苛つきながら頭を掻く。
そんなアッザさんに懲りることなく、再び頭を限界まで下げる。

「アッザ殿!此度はあなたにも多大なご迷惑を…」
「ドラゴン……」

"トゥガイ" と呼ばれた青年は「え?」と声を出して僕を見上げた。

「ドラゴンなのですか……?」

「その通りでございます。
…はっ!名乗りもせずに大変失礼をいたしました!!わたくしドレライト・トゥガイ、齢は二十、ストネイト国の王宮給仕を取りまとめております。前国王であるザファル様よりニルファル国王の後見人を仰せつかっており、国王の犯した罪はわたくしの罪、なんなりと処罰をお下しくださいませ!!あっ、ドラゴンの始祖人です」

「ドラゴン……!!」

「アキオ、目を輝かせるのはいいが、トゥガイ氏の自己紹介にも耳を傾けてやれ」

「……あ、ごめんなさい」

ドラゴン以外耳に入って来てなかった。
だってドラゴンだよ…?
初めて見ちゃった。あんなに立派な鱗をしてるなんて…触ったりとか、できないかな。

「お前はいつまでも布切れを纏ってないで早く服を着ろ」

「しししし失礼いたしました!!!服…ふく………服忘れたぁぁー!!!」

「ちっ、やかましい奴ばかりだ……」

アッザさんは頭を抱え出した。
賑やかだなあ。




結局、トゥガイさんはジルさんの服を借りた。
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