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湖畔の孤児、祓魔師の愛を悟る
9.きっと叶う
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ニエルドさんに勉強を教えてもらい始めて1週間が経過した。
最近は応用問題もたくさん解けるようになってきて、我ながら日々成長を感じている。でも学校の試験に受かるためにはまだまだ実力は足りないようだ。
先日試しに「模擬試験」というものを力試しにやってみたけど、全体の三割くらいしか正解できなかった。
ニエルドさんは「始めたばかりでこれだけ解けるなんてすげえじゃねぇか!」と褒めてくれた。だから私はその言葉を信じて、自分を心の中で褒めてあげた。
「よし、そろそろ休憩にするか」
「はい。そうだニエルドさん。今日はお外に机を出して、湖を見ながら食べませんか?」
「いいな。天気もいいし」
「じゃあ、私準備しますね」
と意気込みはしたが、机も椅子も軽々とニエルドさんが移動させてくれて、私はいつも通りお茶の準備をしただけだった。
湖の水面が、穏やかに揺れている。
私の心をうつしているみたいだ。
「今日のパンはどれにする?」
「えっと、ではこれを」
完璧に整えられた食卓で、ニエルドさんに促されるままに食べたいものを告げると、それが目の前に運ばれてくる。
おそらくどんな高級店でも、ここまでのもてなしは受けられない。ありがたいけれど、ちょっと恐縮する。「すみません」なんて言おうものなら、たぶんニエルドさんにやさしくたしなめられるだろう。
だから私は、出かかった言葉をぜんぶお礼の言葉に変換させる。けれどそれも、だんだん言い尽くしてしまう。あんまり連発すると言葉の重みって薄まってしまうのかもしれない。そんなことも思ってしまって、話題の方向を転換させた。
「あの、ニエルドさんの好きな食べ物はなんですか?」
「好きな食べ物?」
「そういえば、まだ伺ってなかったと思って」
「別に好き嫌いも無いし何でも食うが、そうだな……強いて言えば、お前と一緒に食うメシが好きだ」
「私と……?」
「屋敷では執事に給仕されたり、家族集まっての食事会もある。それはそれで悪くないが、こうやってパネースと食うメシは何よりもうまい。屋敷で食べているのと同じものを持ってきているはずなのに、ここだと別格だ」
彼はそう言って、パンを一口頬張った。その横顔を見つめながら、私は胸の奥が温かくなるのを感じた。
「私も……ニエルドさんと一緒に食べるご飯が、一番好きです」
思わず口に出た言葉に、ニエルドさんが目を丸くした。それから、とても優しい笑みを浮かべて私の頭を撫でた。
「そうか。なら毎日一緒に食おう」
「……はい」
私たちは湖を眺めながら、穏やかな時間を過ごした。風が心地よく、鳥の鳴き声が遠くに聞こえる。こんなにも平和で幸せな時間があるのだと、私は初めて知った。
ふと、ニエルドさんが真剣な顔になった。
「なあ、パネース」
「はい?」
「お前、魔獣保護施設の仕事はどうするつもりだ?」
その質問に、私ははっとした。ニエルドさんが来てから一度も仕事に行っていない。
「そろそろ復帰しなきゃ……」
「焦らなくて良い。勉強に集中できるように、しばらくの間休暇をもらった」
「え……そんな……」
「勝手なことして悪かったな。だがお前は今、目標のために全力を注ぐべきだ。あの仕事は体力的にもきつかったろう? 今は勉強に専念しろ」
彼の言葉は優しいけれど、有無を言わせない強さもあった。確かに、あの仕事は辛かった。でも……
「でも、魔獣たちのことが心配で……それに他の職員の方にも迷惑がかかるし」
「心配性だな、お前は。施設には代わりの人員を手配してある。魔獣たちはちゃんと世話されてるから安心しろ」
「……そうですか」
少しほっとした。でも同時に、自分がいなくても回ってしまう現実に、わずかな寂しさも感じた。
「パネース」
ニエルドさんが私の手を取った。大きくて温かい手だ。
「お前はもっと自分を大切にしていい。いや、するべきだ。お前の人生はお前のものだ。誰かのためじゃない、お前自身のために生きろ」
「……はい」
彼の目を見つめ返すと、そこには揺るぎない決意が宿っていた。この人は本当に、私のことを思ってくれているのだ。
そう実感すると、胸の奥が熱くなった。
「ニエルドさん、本当にありがとうございます」
「礼はいらねえよ。さ、メシ食って午後の勉強もがんばるぞ」
「……はい!」
私は笑顔で答えた。この人と一緒なら、きっと夢が叶う気がした。いつか学校に通って、たくさんのことを学んで、この世界をもっと知りたい。
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