14 / 176
東の祓魔師と側仕えの少年
13.優しいアップルパイ②
しおりを挟む
「なん……なんだ、これは」
「フレイヤさん、おいしくなかった?」
「なんだいハルオミ、この食べ物は!? サクサクの生地の中からとろっと甘いのが出てきた。もう一口食べたい」
「う、うん。はいどうぞ」
——ぱくっ
「シャキッとした食感のこれは何だ!? 不思議な食感だ、美味い」
「ほんと? 美味しい?」
「ああ。とても美味いよ。ハルオミ、これは何という料理だい?」
「アップルパイだよ。この世界には無い?」
「あぷる、ぱい。こんな美味いものこの世界には存在しない。ハルオミの世界では一般的なのかい?」
「うん、わりと」
フレイヤさんは目を見開いてアップルパイをまじまじと観察している。こんなに喜んでくれるとは思わなかったので、嬉しいを通り越してびっくりだ。でも美味しい美味しいというフレイヤさんはなんかちょっと可愛い、いつまでも見てられる。
僕の手からアップルパイを頬張りながら、美味しいを連呼するフレイヤさん。僕の脳裏に、ある人物の影が浮かんできた。それはとっても大事な記憶……。
そういえば、結局お墓参りに行けなかったな。
「ハルオミ?」
「っ、あ、どうしたの?」
「少し、上の空に見えた」
フレイヤさんが心配げに見つめてくる。
「……ごめん、お母さんのこと思い出してた」
「君の御母上か。どんな人なんだい?」
「とても優しい人だったよ」
「……だった?」
フレイヤさんは僕の肩をそっと抱きながら遠慮がちに聞く。
「4年前に病気で亡くなったんだ。僕を孕ったことで、合併症ってやつを患ってしまったんだって。僕が生まれた時からずっと、入院と退院を繰り返してて、あんまり家にいなかった。最後の1年くらいはずっと入院して、元気がなかった。元気づけようと思って色んなお菓子を作ったんだけど、お母さんはこれが一番好きなんだって。お父さんと初めてデートした時に食べたのがアップルパイだって言ってた。だから僕美味しく作れるようにたくさん練習した。病室に持って行ったら、ありがとうって言いながらいつも涙を流すんだ」
母にとって思い出のアップルパイ。その思い出を共有した愛しい人は今、あらゆる女の人を連れ込んでは体の関係を持っている。非情なものだ。
でも母が死んでから父も壊れてしまったんだ。連れ込む女の人が全員お母さんにどことなく似てる人だっていうのはわりと早めに気づいた。
父も可哀想な人間なんだ。母さんは僕を妊娠したせいで病気になってしまったから。父は直接的に僕を責めないけれど、女を連れ込むことで僕に対して遠回しに罰を与えているように見えた。でも文句なんて言えない。
「ごめんなさい、楽しく無い話をしちゃった」
空気が悪くなったのを肌で感じ取り慌てて謝ると、フレイヤさんは両手を僕の頬に添え、顔を近づけて言った。
「ありがとう。君のことを教えてくれて、本当にありがとう」
そのまま僕はフレイヤさんの腕の中にすっぽりとおさめられた。推定2メートル越えの男性に抱き込まれると、なんだかとても"包まれてる感"がある。背中をたたく一定の優しい振動が心地よい。眠気から目を背けるのに精一杯だったが、伝えないといけないことがあるので力を振り絞って声を出した。
「でも! でもねフレイヤさん」
「?」
「今日これを作っている時はお母さんのことなんて忘れてた。フレイヤさん疲れてるだろうなとか、これを食べて元気出してほしいなとか、もし口に合わなかったらどうしようとか。フレイヤさんのことだけを考えて作ったよ」
言った後、しばらく沈黙が流れた。
抱き込まれているのでフレイヤさんの顔が見えない。
なんか変なこと言っちゃった……?
——ぎゅゅうううう
「う、ぐ、苦しいフレイヤさん。ちょっとちょっと離して」
「ああすまない、大丈夫かいハルオミ。君があまりにも可愛いことを言うから我慢ができなくなってしまった」
僕の肩をすりすり労わりながら謝罪を述べる彼は、歯の浮くようなセリフを恥ずかしげもなく並べ立てる。
「もう、いいから、ほら、お口に合うならたくさん食べて? お腹すいてるでしょう?」
「ああ。全部いただこう」
いや流石に全部は……と思ったけど、話に花を咲かせながら彼は5つペロリと平らげた。
「美味かった」
「すご……ありがとう。こんなに食べてくれるなんて思わなかった。ねえ、無理してない?」
「無理などしないよ。ハルオミが作ってくれたあんなに美味いものを残す理由がどこにある。君さえ良ければ、また作ってくれないか?」
「うん、また作る」
約束を交わすと、フレイヤさんは「次は君の番だ」といって指をパチンと鳴らし、昨日と同じように料理の乗ったワゴンを出現させた。……そう言えば、作るのに集中してて食べてなかったな。お腹すいたかも。
フレイヤさんはこれまた昨日と同じように手ずから僕に食べさせた。昨日は緊張で気付かなかったけど、この世界の食事は健康的な味がする。薄味と言ってしまえばそれまでだが、風味や香りを大切にしたとても素晴らしい味付けだと思う。
一通り食べさせてもらったらお腹いっぱいになったのでそう伝え、残りは全部フレイヤさんの胃の中におさまった。こんなにたくさん食べれたら、僕も2メートルになれるのかな。
今日の天気とか庭に生えてる植物の話とか、他愛もない話をしているうちに時間は過ぎ……
「では行ってくるよハルオミ」
「……はい、行ってらっしゃい、ませ……」
また……またやってしまった……。
ついついフレイヤさんのペースに乗せられて彼を癒す時間なんてなかった。完全にミスった。だって美味しそうに食べてくれるの嬉しかったし、色んなお話できるの嬉しかったし、もっとこの時間が続けばいいのにと思っているうちにいつのまにかタイムオーバーになってたんだ。
不覚……。
「フレイヤさん、おいしくなかった?」
「なんだいハルオミ、この食べ物は!? サクサクの生地の中からとろっと甘いのが出てきた。もう一口食べたい」
「う、うん。はいどうぞ」
——ぱくっ
「シャキッとした食感のこれは何だ!? 不思議な食感だ、美味い」
「ほんと? 美味しい?」
「ああ。とても美味いよ。ハルオミ、これは何という料理だい?」
「アップルパイだよ。この世界には無い?」
「あぷる、ぱい。こんな美味いものこの世界には存在しない。ハルオミの世界では一般的なのかい?」
「うん、わりと」
フレイヤさんは目を見開いてアップルパイをまじまじと観察している。こんなに喜んでくれるとは思わなかったので、嬉しいを通り越してびっくりだ。でも美味しい美味しいというフレイヤさんはなんかちょっと可愛い、いつまでも見てられる。
僕の手からアップルパイを頬張りながら、美味しいを連呼するフレイヤさん。僕の脳裏に、ある人物の影が浮かんできた。それはとっても大事な記憶……。
そういえば、結局お墓参りに行けなかったな。
「ハルオミ?」
「っ、あ、どうしたの?」
「少し、上の空に見えた」
フレイヤさんが心配げに見つめてくる。
「……ごめん、お母さんのこと思い出してた」
「君の御母上か。どんな人なんだい?」
「とても優しい人だったよ」
「……だった?」
フレイヤさんは僕の肩をそっと抱きながら遠慮がちに聞く。
「4年前に病気で亡くなったんだ。僕を孕ったことで、合併症ってやつを患ってしまったんだって。僕が生まれた時からずっと、入院と退院を繰り返してて、あんまり家にいなかった。最後の1年くらいはずっと入院して、元気がなかった。元気づけようと思って色んなお菓子を作ったんだけど、お母さんはこれが一番好きなんだって。お父さんと初めてデートした時に食べたのがアップルパイだって言ってた。だから僕美味しく作れるようにたくさん練習した。病室に持って行ったら、ありがとうって言いながらいつも涙を流すんだ」
母にとって思い出のアップルパイ。その思い出を共有した愛しい人は今、あらゆる女の人を連れ込んでは体の関係を持っている。非情なものだ。
でも母が死んでから父も壊れてしまったんだ。連れ込む女の人が全員お母さんにどことなく似てる人だっていうのはわりと早めに気づいた。
父も可哀想な人間なんだ。母さんは僕を妊娠したせいで病気になってしまったから。父は直接的に僕を責めないけれど、女を連れ込むことで僕に対して遠回しに罰を与えているように見えた。でも文句なんて言えない。
「ごめんなさい、楽しく無い話をしちゃった」
空気が悪くなったのを肌で感じ取り慌てて謝ると、フレイヤさんは両手を僕の頬に添え、顔を近づけて言った。
「ありがとう。君のことを教えてくれて、本当にありがとう」
そのまま僕はフレイヤさんの腕の中にすっぽりとおさめられた。推定2メートル越えの男性に抱き込まれると、なんだかとても"包まれてる感"がある。背中をたたく一定の優しい振動が心地よい。眠気から目を背けるのに精一杯だったが、伝えないといけないことがあるので力を振り絞って声を出した。
「でも! でもねフレイヤさん」
「?」
「今日これを作っている時はお母さんのことなんて忘れてた。フレイヤさん疲れてるだろうなとか、これを食べて元気出してほしいなとか、もし口に合わなかったらどうしようとか。フレイヤさんのことだけを考えて作ったよ」
言った後、しばらく沈黙が流れた。
抱き込まれているのでフレイヤさんの顔が見えない。
なんか変なこと言っちゃった……?
——ぎゅゅうううう
「う、ぐ、苦しいフレイヤさん。ちょっとちょっと離して」
「ああすまない、大丈夫かいハルオミ。君があまりにも可愛いことを言うから我慢ができなくなってしまった」
僕の肩をすりすり労わりながら謝罪を述べる彼は、歯の浮くようなセリフを恥ずかしげもなく並べ立てる。
「もう、いいから、ほら、お口に合うならたくさん食べて? お腹すいてるでしょう?」
「ああ。全部いただこう」
いや流石に全部は……と思ったけど、話に花を咲かせながら彼は5つペロリと平らげた。
「美味かった」
「すご……ありがとう。こんなに食べてくれるなんて思わなかった。ねえ、無理してない?」
「無理などしないよ。ハルオミが作ってくれたあんなに美味いものを残す理由がどこにある。君さえ良ければ、また作ってくれないか?」
「うん、また作る」
約束を交わすと、フレイヤさんは「次は君の番だ」といって指をパチンと鳴らし、昨日と同じように料理の乗ったワゴンを出現させた。……そう言えば、作るのに集中してて食べてなかったな。お腹すいたかも。
フレイヤさんはこれまた昨日と同じように手ずから僕に食べさせた。昨日は緊張で気付かなかったけど、この世界の食事は健康的な味がする。薄味と言ってしまえばそれまでだが、風味や香りを大切にしたとても素晴らしい味付けだと思う。
一通り食べさせてもらったらお腹いっぱいになったのでそう伝え、残りは全部フレイヤさんの胃の中におさまった。こんなにたくさん食べれたら、僕も2メートルになれるのかな。
今日の天気とか庭に生えてる植物の話とか、他愛もない話をしているうちに時間は過ぎ……
「では行ってくるよハルオミ」
「……はい、行ってらっしゃい、ませ……」
また……またやってしまった……。
ついついフレイヤさんのペースに乗せられて彼を癒す時間なんてなかった。完全にミスった。だって美味しそうに食べてくれるの嬉しかったし、色んなお話できるの嬉しかったし、もっとこの時間が続けばいいのにと思っているうちにいつのまにかタイムオーバーになってたんだ。
不覚……。
90
あなたにおすすめの小説
拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。
おまめ
BL
召喚に巻き込まれ異世界から来た少年、ハルを成り行きで引き取ることになった男、ソラ。立派に親代わりを務めようとしていたのに、一緒に暮らしていくうちに少年がどタイプ男子になっちゃって困ってます。
✻✻✻
2026/01/10 『1.出会い』を分割し、後半部分を『2.引き取ります。』として公開しました。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺
ユッキー
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。
大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと
mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36)
低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。
諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。
冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。
その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。
語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる