【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

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東の祓魔師と側仕えの少年

14.選ばせてやる

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フレイヤさんが午後の討伐に出た後、入れ替わりで入ってきたウラーさんに頭を下げた。彼は残念がりつつも仕方ないと励ましてくれた。

「それより先ほどから何か甘い香りがしますが……」

くんくんとあたりの匂いをかぎ香りの出所を探すウラーさん。

「あ、多分アップルパイの匂いかな」

「あっぷるぱい?」

「僕の世界で食べられているお菓子なんだ。さっき台所を借りて作ったの」

「作った……?  ハルオミ殿が?」

「うん。フレイヤさん、きっと疲れて帰ってくるだろうから、甘いもの食べてほしいと思って。とっても喜んでくれたからまた作ろうと思ってるんだ。今度はウラーさんにも食べてほしいな」

ウラーさんは豆鉄砲を喰らった顔で数秒固まる。さっきのフレイヤさんみたいだ。やっぱり勝手に借りちゃまずかったかな。台所って主より執事の方が使いそうだし、食物庫に入ってた食材も全部ウラーさんが用意したものだったのかもしれない。

だったら勝手に使ってごめんなさいと言わなければ。

——ガシッ!

謝ろうと口を開くと、彼は僕の両肩を掴んで興奮気味に言った。

「なんっ……と素晴らしい!  そこまで主に尽くした側仕えはこれまでいたでしょうか!  ハルオミ殿のまっすぐな真心はフレイヤ様にもうバッチバチに伝わったことでしょう。あなたは本当にいい側仕えだ!  今回は残念でしたが、まだまだチャンスはありますよ、ハルオミ殿」

感激の声を上げるウラーさん。その言葉に救われる。なかなか側仕えとしての務めを果たせない僕はとうに呆れられていると思っていたからだ。

「うん、そうだね……フレイヤさんが手強いことはこれでよーくわかった。こうなったら何が何でも、どんな手を使っても僕で癒されてもらおうじゃないか……ふふ、覚悟してねフレイヤさん……」

「ハルオミ殿……なにやらまがまがしいオーラが…」

そうと決めたら早速行動開始だ。
まずは作戦を立てよう。

ウラーさんが仕事に戻った後、僕はひとり机に向かって考えた。要はフレイヤさんをエッチな気分にさせればいいのだ。

僕の場合、フレイヤさんから漂う香りを求めて彼に触れたくなる。だったら僕もいい香りを纏えば…いや、香油の匂いは一瞬で抹消されたんだった。

じゃあ直接攻撃はどうだろう。もうダイレクトに下半身などを刺激して……これも試したんだった。

そうだ。アップルパイ喜んでくれたし、これからもプレゼント攻撃で彼を振り向かせ……恋する乙女じゃないんだから。


はぁ、だめだ。早すぎる八方塞がりだ。

ウラーさんの言葉が脳裏に過ぎる。

………んー、

"側仕え同士の交流" か。

交流したところであのイザベラさんという人は応えてくれそうな雰囲気じゃなかったけどな。

しかしこのままでは何の糸口も掴めない。

まあ交流するかは置いといて、とりあえず気分転換に外に出よう。引きこもって頭を悩ませているよりマシだ。



庭でも散歩しようと外に出る。廊下ですれ違う人たちはやはりみんな僕を見てヒソヒソ。直接嫌なことを言われるよりも、陰で言われてる方が知らないふりできるから楽だ。

まずは庭を散策。
大きなお屋敷というだけあって庭もプロの手が入っている。石畳の小道にレトロなベンチ。居心地がとてもいい。周りを見渡すがこの前のネコは居ない。残念。

そういえば、僕この庭で眠ってたんだよなあ。それからすぐに君は異世界から来たなんて言われて。つい一昨日のことなのに何だか懐かしい。

よく見るとさまざまな植物が植えられている。最初に発見したりんごらしき木のほかにも生垣や花壇があり、それらがセンスよく配置されてる。あのお花たちで花束作ったら、フレイヤさん喜んでくれるかな。でもさすがに人んちの花壇あらすわけにはいかない。

「暇だ」

どこの世界でも空は青いし雲は白いんだなあ。空だけ見ていると元の世界と全く違いがわからない。
僕って何でここに来たんだろう。
ふとそんな疑問が頭をよぎる。
本来であれば、あなたは異世界に来ましたと言われた直後に考えることなんだろうけど、あの時はそんなことよりも、自分がぐっすり眠れたことに驚きを感じていたし、かと思えば風呂場に連れ込まれてえっちなことをされたし、そのあとは側仕えを任ぜられて…と、頭がいっぱいだった。

ほんとに異世界に居るんだなあ。不思議だなあ。






「やっと見つけたぞ」







来た……


「さっきは逃げやがって」

「すみません……」


ベンチの後ろに立っていたのは、腕を組んで相変わらずつっけんどんな金髪ふわふわの美少年。確か名前はイザベラさん。

「ちょっと来い」

「……はい」

お話できるかな、なんてほんのちょっとだけ期待したけれど、こりゃ無理そうだ、すごい怒ってるもん。やっぱさっき逃げたのがいけなかったか。

イザベラさんはいつまでもベンチに座ったままの僕に痺れを切らしたのか、大きな目をつり上げて言う。

「何してる。早く来い」

「はい、すみません……」

また怒らせちゃった。

重い腰を上げると、こちらを何度か振り替えつつどこかに歩き出すイザベラさん。近所のネコみたい。

中庭を抜け、廊下を歩き、ある一つの扉の前に来た。ここが彼の部屋なのだろうか。

「選ばせてやる」






……なにを!?




意味深な呟きと共に彼が扉を開く。
蹴られるか殴られるか、はたまた精神的攻撃か、そういったいじめの方法を選ばせてくれるというのなら、できれば精神的攻撃を選択したい。痛いよりは痛くない方がいいから。

もう、なるようになればいい。
諦めて彼に続いて部屋に足を踏み入れた。シンプルで整頓されてて非常に良い部屋だと思う。
バタン、と閉まる扉。閉じ込められちゃウラーさんに助けなんか求められない。さて、僕は今から何をされるのでしょう。


「こっちだ」

「……はい」

まだどこか行くの?  もういいじゃんここで。きっと誰も見てないから大丈夫だよ。

なんて口答えできるはずもなく、僕はただただイザベラさんについて行く。

たどり着いたのはクローゼット。彼はその中からトランクのような鞄を取り出して、闇取引よろしくこちらに向けてトランクを開く。 

そこには色とりどりの……

「なに、これ」

色とりどりの、これは何だ?  首輪?
革製のやらレースっぽいのやら、細いのやら太いのやら、柄も色も様々だ。

「どれにする」

どれと言われても、これが何かがわからないのでは、何を基準に選んだら良いのかわからない。


「えーっとー……」


——ガチャ


優柔不断に陥っていると、突然部屋の扉が開いた。
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