16 / 176
東の祓魔師と側仕えの少年
15.印章と加護①
しおりを挟む
「やっぱり、まだお部屋にいたんですねイザベラ」
「チッ」
入ってきたのは、これまた日本人離れした顔の青年。ポニーテールにした長い水色の髪の毛をなびかせながら部屋に入ってきた。イザベラさんはばつが悪そうに舌打ちした。
「側仕えさんが新しくいらっしゃったから、今日は広間をお掃除しようと約束したじゃないですか、時間になっても来ないから迎えに……あら? あなたはもしかして」
「お前はいっつもタイミングが悪いんだよパネース!」
「仕方ないじゃないですか、あなたが時間を破ったのが悪いんです」
喧嘩が始まっちゃった。
言い合いながらも、パネースと呼ばれた人は眉を下げて申し訳なさそうに謝ってきた。
「すみません、お見苦しい場面をお見せして」
「いえいえ」
パネースさんって、ここの長男とかいうニエルドさんの側仕えじゃないか。なぜ側仕え同士で喧嘩なんて。やっぱり当主争いバチバチなんだ……。次期当主たちの仲も悪けりゃ側仕えも仲悪いんだ。
「おいお前。お前が選ばなければ俺が勝手に選ぶぞ」
パネースさんに突っかかっていたイザベラさんが標的を変え、再び僕に選択を迫ってきた。
「あ、はい……でも、これ、何でしょう……?」
「そんなことも知らないのか。これは側仕えの証である "印章" だ。ほら」
イザベラさんは、自身が穿いていたゆったりめのズボンの裾を太腿のところまで捲り上げ、"印章" とやらを見せてくれた。彼の白く細い太腿には、シンプルな黒いベルトが巻きついていた。ちょうどそのトランクに入っているのと同じくらいの大きさだ。
どうやらイザベラさんはこの印章を僕に選ばせようとしていたらしい。
「ハルオミ君、でしたっけ? イザベラが無礼な物言いをごめんなさい。でもできれば許してあげて欲しいんです。彼、新しい側仕えが入ったと聞いて昨日は一日中ワクワクしてたんですよ」
「っ! おい、パネース! 余計なことを」
「国内の他の地に比べてここ東の地ヴィーホットには側仕えが少ないんです。現当主がこの場所をニエルド次期当主たちにお譲りしてからというもの、屋敷の側仕えは私とイザベラだけでしたから。弟ができたみたいで嬉しかったんでしょう。こんなにたくさん印章を用意して……あれが似合うかこれが似合うかとずーっと悩んでいたのですよ」
「おい、いい加減に…」
「午前中にあなたを見かけた時、私に嬉しそうに報告して来ました。でもすぐに逃げられたと肩を落としていたんです」
「すみませんつい」
防衛本能が働いて。
「いえいえ謝る必要なんて全くありません。どうせこの子が無愛想にあなたに突っかかったんでしょう」
その通りです。
「とても可愛らしい子だからこれなんか似合うんじゃないかって、ほら、今もこんなに手前に置いて」
トランクの中を再び見れば、確かにたくさんある印章の中でもペロンとこちらに主張強く置かれている逸品がある。銀色で、幅広目の細かい模様が施されたレース。ひらひらしてないシンプルな作りだ。
僕はタートルネックとか品質表示タグが煩わしくて嫌いなので、どうしても着けなきゃいけないのならこういう、あまりでこぼこしなさそうなのがいい。
イザベラさんはセンスがいいらしい。
「じゃあ、これにします」
「ほ……ほんとか!? いいのか!?」
「はい。シンプルなのがいいので、それがぴったりかなって」
「そ、そうか。じゃあこれにしろ」
ほら、と頬を赤らめてその印章をよこすイザベラさん。あら。なんだか可愛く見えて来た。このつっけんどんな態度も見ようによっちゃアレみたいで愛らしい。なんだっけ、アレ、クラスの子が言ってた………そう、ツンデレだ。
でも何でこれを付けなければいけないのだろうか。誰が側仕えなのか見分けるためのもの? でもズボンで隠れちゃうから意味ないんじゃ……
「この印章って、どうしても付けなきゃいけないんですか?」
「当たり前だろ! 殺されても知らねーぞ」
「チッ」
入ってきたのは、これまた日本人離れした顔の青年。ポニーテールにした長い水色の髪の毛をなびかせながら部屋に入ってきた。イザベラさんはばつが悪そうに舌打ちした。
「側仕えさんが新しくいらっしゃったから、今日は広間をお掃除しようと約束したじゃないですか、時間になっても来ないから迎えに……あら? あなたはもしかして」
「お前はいっつもタイミングが悪いんだよパネース!」
「仕方ないじゃないですか、あなたが時間を破ったのが悪いんです」
喧嘩が始まっちゃった。
言い合いながらも、パネースと呼ばれた人は眉を下げて申し訳なさそうに謝ってきた。
「すみません、お見苦しい場面をお見せして」
「いえいえ」
パネースさんって、ここの長男とかいうニエルドさんの側仕えじゃないか。なぜ側仕え同士で喧嘩なんて。やっぱり当主争いバチバチなんだ……。次期当主たちの仲も悪けりゃ側仕えも仲悪いんだ。
「おいお前。お前が選ばなければ俺が勝手に選ぶぞ」
パネースさんに突っかかっていたイザベラさんが標的を変え、再び僕に選択を迫ってきた。
「あ、はい……でも、これ、何でしょう……?」
「そんなことも知らないのか。これは側仕えの証である "印章" だ。ほら」
イザベラさんは、自身が穿いていたゆったりめのズボンの裾を太腿のところまで捲り上げ、"印章" とやらを見せてくれた。彼の白く細い太腿には、シンプルな黒いベルトが巻きついていた。ちょうどそのトランクに入っているのと同じくらいの大きさだ。
どうやらイザベラさんはこの印章を僕に選ばせようとしていたらしい。
「ハルオミ君、でしたっけ? イザベラが無礼な物言いをごめんなさい。でもできれば許してあげて欲しいんです。彼、新しい側仕えが入ったと聞いて昨日は一日中ワクワクしてたんですよ」
「っ! おい、パネース! 余計なことを」
「国内の他の地に比べてここ東の地ヴィーホットには側仕えが少ないんです。現当主がこの場所をニエルド次期当主たちにお譲りしてからというもの、屋敷の側仕えは私とイザベラだけでしたから。弟ができたみたいで嬉しかったんでしょう。こんなにたくさん印章を用意して……あれが似合うかこれが似合うかとずーっと悩んでいたのですよ」
「おい、いい加減に…」
「午前中にあなたを見かけた時、私に嬉しそうに報告して来ました。でもすぐに逃げられたと肩を落としていたんです」
「すみませんつい」
防衛本能が働いて。
「いえいえ謝る必要なんて全くありません。どうせこの子が無愛想にあなたに突っかかったんでしょう」
その通りです。
「とても可愛らしい子だからこれなんか似合うんじゃないかって、ほら、今もこんなに手前に置いて」
トランクの中を再び見れば、確かにたくさんある印章の中でもペロンとこちらに主張強く置かれている逸品がある。銀色で、幅広目の細かい模様が施されたレース。ひらひらしてないシンプルな作りだ。
僕はタートルネックとか品質表示タグが煩わしくて嫌いなので、どうしても着けなきゃいけないのならこういう、あまりでこぼこしなさそうなのがいい。
イザベラさんはセンスがいいらしい。
「じゃあ、これにします」
「ほ……ほんとか!? いいのか!?」
「はい。シンプルなのがいいので、それがぴったりかなって」
「そ、そうか。じゃあこれにしろ」
ほら、と頬を赤らめてその印章をよこすイザベラさん。あら。なんだか可愛く見えて来た。このつっけんどんな態度も見ようによっちゃアレみたいで愛らしい。なんだっけ、アレ、クラスの子が言ってた………そう、ツンデレだ。
でも何でこれを付けなければいけないのだろうか。誰が側仕えなのか見分けるためのもの? でもズボンで隠れちゃうから意味ないんじゃ……
「この印章って、どうしても付けなきゃいけないんですか?」
「当たり前だろ! 殺されても知らねーぞ」
71
あなたにおすすめの小説
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。
おまめ
BL
召喚に巻き込まれ異世界から来た少年、ハルを成り行きで引き取ることになった男、ソラ。立派に親代わりを務めようとしていたのに、一緒に暮らしていくうちに少年がどタイプ男子になっちゃって困ってます。
✻✻✻
2026/01/10 『1.出会い』を分割し、後半部分を『2.引き取ります。』として公開しました。
イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺
ユッキー
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。
大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと
mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36)
低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。
諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。
冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。
その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。
語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる