【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

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東の祓魔師と側仕えの少年

16.印章と加護②

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「ころっ…、え。殺されるんですか?」

斜め上の回答にびっくりしていると、イザベラさんが捲し立てた。

「そりゃそうだろ。この世界が平和に保たれてるのは魔祓い師が体張って魔物を祓ってるからで、その魔祓い師を癒す唯一の者、それが側仕えだ。側仕えがいなけりゃ魔祓い師は死んでしまう。逆に言えば、側仕えさえ居なくなれば魔物にとっちゃ都合が良い。だから俺やパネースやお前みたいな側仕えは、一番に魔物の標的になりやすいんだよ」

まさか自分に命の危機が及ぶなど思ってもおらず困惑していると、パネースさんがこう補足した。

「魔物だけではなく、魔物と手を組む人間にも狙われてしまいます」

「人間と魔物が、手を組む?」

「ええ。人間のほとんどが魔物を忌み恐れていますが、一部、膨大な魔力を持つ魔物と手を組み己の欲を叶えようと目論む者もいます。例えば奴隷商なんかが良い例です。奴らは魔物に人を襲わせ心を崩壊に追い込んだ後、奴隷として人間を売り捌くのです」

パネースさんが厳しい顔つきになる。奴隷の売り買いが行われている世界だなんて知らなかった。イザベラさんも苦虫を噛み潰したような顔で続ける。

「だから狙われやすい側仕えは、魔祓い師自らが魔力を込めた印章に加護してもらう必要がある。これがあれば簡単には襲われないし、襲われたところでダメージを負いにくい。だからお前も選べ。そんでフレイヤ様に魔力をもらえ。じゃないと殺されるぞ」

鬼気迫る表情で力説するイザベラさん。どうやら僕は随分と命の危険性が高い世界に来てしまったようだ。治安とても悪いらしい。今までの世界とのギャップに驚いて、これからどうやって自分の身を守ればよいか考えていると、パネースさんが困り顔で言った。

「そんなふうに脅してどうするんですかイザベラ。ハルオミ君、安心してください、ここはどちらかというと治安は良いですし、そうスパスパ殺されてたまるものですか。奴隷商だって、魔祓い師の皆様のおかげで最近は減少の一途を辿っています。イザベラはただ、自分が選んだ印章をあなたに早く着けて欲しいのだそうですよ」

「そんなこと言ってないだろ!」

イザベラさん、もしかしてかなり可愛い人なのではないか?

僕が想像していたような治安ではないことに安心し、イザベラさんにもらった印章を見る。よく見ると糸がきらきら輝いていて、繊細な模様はとても美しい。それでいてとても丈夫そう。かなり高いものなんじゃないだろうか。

「イザベラさん、こんな高級そうなのもらって本当にいいんですか?」

「いいって言ってんだろしつこいやつだな。あとその堅苦しい喋り方もやめろ。俺のことは……イザベラでいい」

あ、可愛い。

頬を膨らませながらゴニョっと呟く彼は、小動物感があって抱きしめたくなる。

「ありがとう」

彼のぶっきらぼうな優しさに応えて僕もできる限りの笑顔で礼を言うと、満足そうに小さな小さな笑みを返してくれた。

「あらあら、ハルオミ君、気に入られたようですね」

気に入られたようにはあまり見えないけど、さっきよりは打ち解けている気がする。これなら色々お話できるかもしれない。側仕えの心得や魔祓い師の癒やし方などを知りたい僕は、「茶でも飲んで行けば」というイザベラのお誘いにありがたく乗っかった。



それから僕たちは日が傾くまで話し込んだ。

異世界から来たと言うと、納得したような顔で「だから見た目が違うのか?」と聞かれた。特に黒い髪や目は珍しいらしい。僕のいた国ではほとんどの人間が黒い髪で生まれてくると言うと二人とも非常に驚いていた。

すれ違う人たちがみな僕を見てヒソヒソしていたのは、黒い髪が珍しいからだったようだ。確かにこの世界に来てから黒い髪の人は見たことがない。フレイヤさんは銀髪だし、ウラーさんは明るい茶髪、イザベラは金髪、パネースさんなんて水色だ。

あのヒソヒソ話が異世界人に対する差別の類ではなく単なる興味だと知って安心する。



話しているうちに、イザベラさんとだいぶ打ち解けられたように思う。今ならいけるかもというタイミングで、僕は相談を持ちかけることにした。
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