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東の祓魔師と側仕えの少年
35.討伐の過程
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二人につられて僕も窓の方を見る。
かたん、かたん、
わずかにガラスが震えた。
——バサッッッ!!!
突然フレイヤさんに抱え上げられた。そのまま気づけばふわりと宙を舞っていた。
ひゅっと喉の奥が鳴る。
下を見ると、そこではじめて自分が屋外にいることに気がついた。なぜなら先ほどまでいた小屋が粉々に砕け散っていたからだ。
「……なに…あれ……」
視線の先には、通常の何十倍もの大きさのゴリラのような見た目の真っ黒な生き物。その大きな体には、幾つもの"目"があった。手足に、胴体に、百個くらい目が付いている。ギロリと睨まれてしまえば、体が痺れたように動かなくなった。
「ヒャッホ~~ウッ!! 間一髪だったなぁ、無事か二人とも」
愉快そうな声のする方を見ると、クールベさんも同じように宙を舞い攻撃から逃れていた。
フレイヤさんとクールベさんは同じ木の影に着地をする。クールベさんが楽しそうに息を弾ませた。
「アルゴスが現れるとは、あんなレア滅多に出ねえぜ! 早速ハルオミ君の情報を嗅ぎつけたか?」
「僕の……?」
「魔物なんて全員ミーハーだからなあ、加護を受けていない側仕えの存在なんて一瞬で広まっちまう。ハルオミ君のおかげで珍しい魔物が見れたぜ!」
つまり僕が呼び寄せてしまったということだろうか。『側仕えは狙われやすい』って、言葉で聞くより実際に体感してみると想像の何十倍も恐ろしい。
「も、もしかしてあの怪物もステージ5、ですか……?」
僕の質問が相当おかしかったのか、拳をぼきぼき鳴らしながらクールベさんは笑う。
「ハッハハハハ! あんなキュートでプリティなのが5なはずねえよハルオミ君。ありゃせいぜいステージ2だな」
え。
あんな恐ろしい怪物が、ステージ2?
しかも今「キュートでプリティ」って言った?
どこが?
全身に目があって巨大ゴリラでめちゃくちゃ怖いですけど! ステージ2って、えっと、『やられれば専門医の治療が必要な程度』だった気がする。
……ありえない。あんなんにやられたら間違いなく死ぬ……最悪、こっち見た……
「っはぁ~~~、くっそ可愛いなあアルゴスちゃん。そのキリッとしたおめめ……どんなふうに歪むんだろうなあ、どんな悲痛な叫びをあげてくれんだろうなあ、やべぇ…興奮する」
この場において一番やばいのはクールベさんかもしれない。
って! 言ってる間にこっちに走ってくる。
4メートルほどあろうかという巨躯を器用に使って、ものすごいスピードを上げ四足歩行で走ってくる。
「っ!」
声が出ない。
フレイヤさんに力の限りしがみつきたいのに、力が出ない。
視線でフレイヤさんに助けを求めると、彼は僕をクールベさんに預けた。
「叔父上、ハルオミを頼みます」
「なんだお前が行くのか」
彼の手を掴むことができなかった。
ただ怪物の元に駆けていくフレイヤさんを見る事しかできなかった。
フレイヤさんは天高く飛び上がり、魔物の真上を位置取った。手を宙にかざすと、彼の体の三倍ほどの長さの棒が出現した。
「へぇ~、パイクなんてよく扱うなぁ、さすが現役魔祓い師。どれ、お手並み拝見といくか」
フレイヤさんは出現させた棒を器用に縦に構え、怪物の脳天目掛けて突き刺した。
———ヴォォオォォォォォォ!!!
あたりに響き渡る重厚な叫びは怪物のものなのだろう。クールベさんは目を閉じて「うん、うん、」なんて頷きながらうっとりと耳をすましている。
再びフレイヤさんの方を見ると、突き刺した場所から魔物の体が二つに裂け始めた。フレイヤさんは裂け目を目掛けて飛び込む。
「フレイヤさんっ」
彼の姿は魔物に隠れ見えなくなった。
「クールベさん、フレイヤさんが」
「大丈夫だハルオミ君、ほれ、見てみろ」
彼が指を差した方を見ると、少しずつ、少しずつ怪物の体が分解されてゆき、体の破片が宙に舞い始める。そしてその破片はさらに細かくなり、まるであそこにだけ黒い雪が降っているみたいだ。
見惚れていると、黒い雪はヒュゥゥゥッと音を立てて中心に吸い込まれていった。その中心にはフレイヤさんが立っていた。
「フ、フレイヤさん……っ!!!」
クールベさんの腕から逃れて駆け出そうとすると、ガクッと膝から崩れて転けてしまった。
「おっとととと、ハルオミ君腰が抜けて歩けないんだろう。ほら、捕まって」
「クールベさん、フレイヤさんが……はやく、フレイヤさんのとこに……」
「わかった、わかったから。大丈夫だ、あいつはこんな雑魚にやられたりしねえよ」
落ち着け、と諭されて抱え上げられ、つかつかとフレイヤさんの元へ行く。
フレイヤさんは目を閉じて何かに集中していた。
「………食えたか?」
クールベさんが静かに問う。
「————ッ!! っぐ、はぁ、はぁ、はぁ…………ええ、消化完了しました」
何かを「完了した」と言ったフレイヤさんは顔が真っ青に青ざめていて、唇に色はなくて、額には汗がじんわり滲んでいた。
こんなフレイヤさん見たことが無い。
これが魔物の討伐なのか。
魔祓い師たちはこんな過酷なことをしているのか。
居ても立っても居られなくなって、クールベさんの腕から下りてフレイヤさんに抱きついた。抱きついてから後悔した。僕は今腰が立たなくて、どうしたってフレイヤさんに縋り付く形になってしまうわけで、満身創痍の彼に抱きついてしまってはフレイヤさんもろとも倒れ込んでしまう。
——ひょい
「っわ、フレイヤさん」
僕の心配をよそにいつもの如く軽々しく抱き上げたフレイヤさんはそのまま僕をきつく抱き込み、胸元に頭をぐりぐり擦り付けてくる。そして僕の全身をくまなくチェックしだした。
「ハルオミ、無事かい? 怪我は無いかい? 痛いところは? 気分が悪いだろう? すまない、怖いものを見せてしまったね」
「人の心配ばっかりしてないで……フレイヤさん怪我は? 大丈夫?」
フレイヤさんの髪の毛を整え、怪我が無いか顔を撫でつつ確認しながら彼の話に耳を傾ける。
「問題無いよ、ありがとう。ステージ2の魔物は討伐し慣れているからね。こんなのは何でもないよ。しかし珍しい魔物だったからつい張り切り過ぎた」
「もう、ひやひやした……」
彼の頭を撫でながら話しているうちに顔には血の気が戻って来る。しばらくするといつもの血色を取り戻した。
良かった。
「驚いたな……」
クールベさんの静かなつぶやきが聞こえた。
かたん、かたん、
わずかにガラスが震えた。
——バサッッッ!!!
突然フレイヤさんに抱え上げられた。そのまま気づけばふわりと宙を舞っていた。
ひゅっと喉の奥が鳴る。
下を見ると、そこではじめて自分が屋外にいることに気がついた。なぜなら先ほどまでいた小屋が粉々に砕け散っていたからだ。
「……なに…あれ……」
視線の先には、通常の何十倍もの大きさのゴリラのような見た目の真っ黒な生き物。その大きな体には、幾つもの"目"があった。手足に、胴体に、百個くらい目が付いている。ギロリと睨まれてしまえば、体が痺れたように動かなくなった。
「ヒャッホ~~ウッ!! 間一髪だったなぁ、無事か二人とも」
愉快そうな声のする方を見ると、クールベさんも同じように宙を舞い攻撃から逃れていた。
フレイヤさんとクールベさんは同じ木の影に着地をする。クールベさんが楽しそうに息を弾ませた。
「アルゴスが現れるとは、あんなレア滅多に出ねえぜ! 早速ハルオミ君の情報を嗅ぎつけたか?」
「僕の……?」
「魔物なんて全員ミーハーだからなあ、加護を受けていない側仕えの存在なんて一瞬で広まっちまう。ハルオミ君のおかげで珍しい魔物が見れたぜ!」
つまり僕が呼び寄せてしまったということだろうか。『側仕えは狙われやすい』って、言葉で聞くより実際に体感してみると想像の何十倍も恐ろしい。
「も、もしかしてあの怪物もステージ5、ですか……?」
僕の質問が相当おかしかったのか、拳をぼきぼき鳴らしながらクールベさんは笑う。
「ハッハハハハ! あんなキュートでプリティなのが5なはずねえよハルオミ君。ありゃせいぜいステージ2だな」
え。
あんな恐ろしい怪物が、ステージ2?
しかも今「キュートでプリティ」って言った?
どこが?
全身に目があって巨大ゴリラでめちゃくちゃ怖いですけど! ステージ2って、えっと、『やられれば専門医の治療が必要な程度』だった気がする。
……ありえない。あんなんにやられたら間違いなく死ぬ……最悪、こっち見た……
「っはぁ~~~、くっそ可愛いなあアルゴスちゃん。そのキリッとしたおめめ……どんなふうに歪むんだろうなあ、どんな悲痛な叫びをあげてくれんだろうなあ、やべぇ…興奮する」
この場において一番やばいのはクールベさんかもしれない。
って! 言ってる間にこっちに走ってくる。
4メートルほどあろうかという巨躯を器用に使って、ものすごいスピードを上げ四足歩行で走ってくる。
「っ!」
声が出ない。
フレイヤさんに力の限りしがみつきたいのに、力が出ない。
視線でフレイヤさんに助けを求めると、彼は僕をクールベさんに預けた。
「叔父上、ハルオミを頼みます」
「なんだお前が行くのか」
彼の手を掴むことができなかった。
ただ怪物の元に駆けていくフレイヤさんを見る事しかできなかった。
フレイヤさんは天高く飛び上がり、魔物の真上を位置取った。手を宙にかざすと、彼の体の三倍ほどの長さの棒が出現した。
「へぇ~、パイクなんてよく扱うなぁ、さすが現役魔祓い師。どれ、お手並み拝見といくか」
フレイヤさんは出現させた棒を器用に縦に構え、怪物の脳天目掛けて突き刺した。
———ヴォォオォォォォォォ!!!
あたりに響き渡る重厚な叫びは怪物のものなのだろう。クールベさんは目を閉じて「うん、うん、」なんて頷きながらうっとりと耳をすましている。
再びフレイヤさんの方を見ると、突き刺した場所から魔物の体が二つに裂け始めた。フレイヤさんは裂け目を目掛けて飛び込む。
「フレイヤさんっ」
彼の姿は魔物に隠れ見えなくなった。
「クールベさん、フレイヤさんが」
「大丈夫だハルオミ君、ほれ、見てみろ」
彼が指を差した方を見ると、少しずつ、少しずつ怪物の体が分解されてゆき、体の破片が宙に舞い始める。そしてその破片はさらに細かくなり、まるであそこにだけ黒い雪が降っているみたいだ。
見惚れていると、黒い雪はヒュゥゥゥッと音を立てて中心に吸い込まれていった。その中心にはフレイヤさんが立っていた。
「フ、フレイヤさん……っ!!!」
クールベさんの腕から逃れて駆け出そうとすると、ガクッと膝から崩れて転けてしまった。
「おっとととと、ハルオミ君腰が抜けて歩けないんだろう。ほら、捕まって」
「クールベさん、フレイヤさんが……はやく、フレイヤさんのとこに……」
「わかった、わかったから。大丈夫だ、あいつはこんな雑魚にやられたりしねえよ」
落ち着け、と諭されて抱え上げられ、つかつかとフレイヤさんの元へ行く。
フレイヤさんは目を閉じて何かに集中していた。
「………食えたか?」
クールベさんが静かに問う。
「————ッ!! っぐ、はぁ、はぁ、はぁ…………ええ、消化完了しました」
何かを「完了した」と言ったフレイヤさんは顔が真っ青に青ざめていて、唇に色はなくて、額には汗がじんわり滲んでいた。
こんなフレイヤさん見たことが無い。
これが魔物の討伐なのか。
魔祓い師たちはこんな過酷なことをしているのか。
居ても立っても居られなくなって、クールベさんの腕から下りてフレイヤさんに抱きついた。抱きついてから後悔した。僕は今腰が立たなくて、どうしたってフレイヤさんに縋り付く形になってしまうわけで、満身創痍の彼に抱きついてしまってはフレイヤさんもろとも倒れ込んでしまう。
——ひょい
「っわ、フレイヤさん」
僕の心配をよそにいつもの如く軽々しく抱き上げたフレイヤさんはそのまま僕をきつく抱き込み、胸元に頭をぐりぐり擦り付けてくる。そして僕の全身をくまなくチェックしだした。
「ハルオミ、無事かい? 怪我は無いかい? 痛いところは? 気分が悪いだろう? すまない、怖いものを見せてしまったね」
「人の心配ばっかりしてないで……フレイヤさん怪我は? 大丈夫?」
フレイヤさんの髪の毛を整え、怪我が無いか顔を撫でつつ確認しながら彼の話に耳を傾ける。
「問題無いよ、ありがとう。ステージ2の魔物は討伐し慣れているからね。こんなのは何でもないよ。しかし珍しい魔物だったからつい張り切り過ぎた」
「もう、ひやひやした……」
彼の頭を撫でながら話しているうちに顔には血の気が戻って来る。しばらくするといつもの血色を取り戻した。
良かった。
「驚いたな……」
クールベさんの静かなつぶやきが聞こえた。
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