【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

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東の祓魔師と側仕えの少年

78.夕餉

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◆◆◆

【今週の成績】
合格       30回
不合格 60回
まあまあ20回

【翌週の成績】
合格  70回
不合格 30回
まあまあ20回

人知れず拳を握りしめてから、もちろんすぐには上手いこといかなかった。魔力抑制は難しい。

しかしクールベさんやイザベラやパネースさんがアドバイスをくれたりお手本を見せてくれたりと根気強く付き合ってくれたおかげで、クールベさんお手製の「魔力抑制球」を黒いまま浮かせられる回数、所謂「合格」をもらえる回数は少しずつ増えていった。

しかし、1日に一度でも赤くなったらダメ。また明日頑張りましょうとなってしまうため、中々訓練を修了できずにいる。

意のままにならない魔力にやきもきすることもあるが、このごろ見守ってくれる人がどんどん増えていき益々心強いのである。

最初はウラーさんが見学に来て、そうしたら他の執事さん達も仕事の合間を縫って応援に来てくれて、それから軍人さん、料理人さん達も建物の影から「がんばれぇ…」とエールを送ってくれる。

注目されている感じが最初はとっても恥ずかしかったけど、応援してくれていると分かってからは「期待に応えなければ」という意気込みもあり中々の上達を見せられたのでは無いだろうかと思っている。


でもなあ……今日の練習も、あとちょっとのところで、本当に最後の最後のところで球が赤く光ってしまったんだ。

あの球は練習の後クールベさんが絶対に持ち帰ってしまうから、自主練もできない。

あとちょっと!  あとちょっとで感覚を掴めるんだけどなあ……


——ガチャ

「ふぅ、ただいまハルオミ」

「あ、おかえりなさいフレイヤさん」

考え事をしすぎてフレイヤさんの気配に気づけなかった。いつもならガチャっと扉が開く数秒前には分かるのに。

僕は帰ってきたフレイヤさんに抱きつき、サラッと心地の良い髪を撫でる。少しの間抱擁して、それから彼の顔を見て疲れを伺う。今日はお腹が空いてそうな顔してるな。

「おや、何か考え事かい?  難しそうな顔をしているね」

「……わかる?」

「ああ。眉間に少しだけ皺が寄っているし唇が尖っている。君が考え事をする時の顔だ」

彼は僕の眉間を親指の腹で撫で、無意識につんと尖っていた唇をぷにっとつまんだ。

「んむむ、むぁめふぇほー(訳:やめてよー)」

ふふふっと笑いながら顔を好き勝手いじってくるフレイヤさん。絶対楽しんでるでしょ。瞼をサラッと撫でたり耳たぶをふにふにいじったりと、僕は彼にされるがままになっていた。



——ぐぅ~…

「……おや」

僕を弄ぶのに夢中になっていた彼は自身の空腹に気づかなかったのだろう。悩ましげな音をお腹から響かせた。

「ふふふっ、フレイヤさんのお腹の音聞いちゃった~」

「どうやら気がつかない内に腹が減っていたようだ」

「僕は気づいてたよ、フレイヤさんお腹空いてる時の顔してたもの」

「どんな顔だい?」

「んー、教えな~い」

「おや、意地悪だね」

本当は眉尻を少し下げながらふぅ、と息を吐くのだけど、それは僕だけの秘密にしておこう。

「それよもさ、厨房から夕ご飯貰ってきたから一緒に夕飯にしよ?」

「ありがとう、ではそうしようか」


テーブルセッティングはもちろんフレイヤさんが一瞬でしてくれて、僕は厨房から持ってきた2人分のお皿達をテーブルに並べる。

「今日は料理人さん達と、この『ポテトサラダ』を改良したんだ。…あっ、もちろん僕は作ってないよ?  皆さんに教えてあげて、作ってもらってるの」

「ふふふっ、ちゃんと分かっているよ。君の魔力抑制も順調と聞く。すごいじゃないか、後少しだね」

「ありがとう。後少し、がんばるね!」

フレイヤさんからのエールも貰ったんじゃ、頑張らないわけにはいかない!
僕は明日からの訓練に想いを馳せつつ、目の前の料理の説明を続けた。

「こっちはハンバーグ。この世界の肉団子とも似てるけど、形と味付けが違うんだ。それでこっちは炊き込みご飯。ご飯を炊く時に、きのこや根菜や出汁を入れて炊くの」

「ほぉ……!  これは美味そうだ、早速いただいても良いかい?」

「どうぞ、召し上がれ」

いただきます、と2人一緒に手を合わせて、僕はまずお茶を一口飲みながら、フレイヤさんがポテトサラダに手を伸ばすのを見つめる。

「これは…!  芋かい?  主食の芋とはだいぶ違うみたいだ。酸味のある調味料が入っているのだろうか。それにこれ、細かく刻まれているのは塩漬け肉かい?  この塩気と野菜の歯応えがたまらないね」

「ほんと?  よかった、お口に合った?」

「ああ、とても好きだ!  これを料理人が作ったのか、ハルオミは教え方が上手いのだな」

「ううん、僕じゃなくてみなさんがすごいんだよ。手際はもちろん良いし、魔法を使いながらだからとても効率的。直接手を触れなくても、芋を潰しながら野菜を切ったりなんてのはお手のものなんだもん、びっくりした」

「そうか。しかしこのように複雑で手順の多そうな料理を…君と料理人達との間には、深い信頼関係が生まれているんだね」

「ふふふっ、最近よく色々お話しするからね」

「君が楽しいのなら何よりだ。それに、皆ハルオミに教えてもらって張り切っているのだろうね」

張り切ってるのはどちらかというと僕かも知れない。みなさんが頼りにしてくれるからつい嬉しくて色々教えちゃうんだ。

「この『はんばあぐ』というのは、肉団子と形が違うね」

言いながら、あらゆる角度からハンバーグを観察する。

「うん、大きいし平らでしょう?  ソースの味も多分馴染みがないものだけど、どうかな……?」

「それではいただいてみよう」

——もぐ

「………どう?」

「これは……っ何だ、この芳醇な香りと複雑な風味、複雑だけれどまとまっている。初めて食べる味だ!これもとてもうまい」

「本当!?  よかった。この世界の肉団子のソースがね、僕の世界にもあるソースに似てたから、それに色々加えて作ってもらったんだ」

「んんっ!  はんばあぐを食べた後にすぐに米を口に入れると、これはすごいことになるな。口の中で奇跡が起きている」

お、フレイヤさんハンバーグとお米の楽しみ方早速わかってるなぁ。もはや日本人。

「おお、それだけではない。この米、たきこみご飯と言ったか、これだけでも中々に美味だ」

「でしょでしょ?  料理人さんたちがじっくり取ってくれた出汁で炊いてあるんだよ。きのこや野菜と合うでしょ?」

「ああ、このような調理法は初めてだ」

フレイヤさんの美味しそうな顔を見ながら僕も食べる手を進める。あっという間に皿を空にするフレイヤさんにつられて食べる手が速くなっていると、

「こらこら、もっとゆっくり食べなければ喉に詰まってしまうよ」

と注意された。

「だってフレイヤさんにつられちゃったんだもん。とても美味しそうに食べるから」

「とても美味しいのだから仕方がないだろう。ほら、口の端に付いてしまっているよ」

「んっ」

フレイヤさんは僕の口の端を親指で拭い、その指を口に含んだ。

もう……なんか照れるからやめてよ。

僕はこの後、フレイヤさんに隅々まで凝視されながらなんとか夕食を平らげた。



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