神は生贄に愛を宿す

丑三とき

文字の大きさ
12 / 34
第一章:生贄

12.マジな話

しおりを挟む


「ップー!クククッ!  ヒィ~、ハッハハハハッ」

 床をバンバン叩きながらお腹を抱えるトトさん。過呼吸になりそうで心配だ。

「天界への土産話できたわ。一匹狼で寡黙で堅物のフェンリスが、一人のしょうね……青年に対して…っハハハ!  皆に見せてやりてぇー!  眉の下がった犬っころみてぇな顔!」

 格好の餌食にされているフェンリスが、額に青筋を立てて「いい加減に帰れ」と痺れを切らしたのをトトさんは右から左へ受け流し、床に寝転び肘を付き、声のトーンを少し落として話し始めた。

「でもよぉ、マジな話どうすんだよこれから。きっと雨が降るたび人間様はフェンリスのこともアマネ君のことも崇め奉ってくださるぜ?  お供え物なんか置いてくれちゃったり?  アマネ様の銅像なんかお建てになってくださるかもよ?」

 慇懃無礼に人間へ謙るように色々と予想を立てるトトさん。

「"マジな話"をする態度かそれが。いきなり来たと思ったら狭い場所で寝転んで幅をとるな。
 そういうことは後々考える。今はアマネに肉をつけさせ、体力を取り戻させるのが先だ。神域は治癒力は高めるとはいえ体質そのものを変える訳ではない。長期間に渡り不衛生な環境に居たアマネの体は弱り切っている。まずは…」

「へいへいへいへい。分かった分かった。全く溺愛しちゃって。……ま、今回のことで分かっただろ?  生贄を拒もうと何をしようと、人間は変わらねえよ。あいつらにとっちゃ神が全てだ。自分らで何かを打開しようなんて考えちゃいねえ。恵みは全部神からのもの。不遇な環境も全部神のせい。ハッ、やってらんねぇぜマジで。お前らも懲りたら土地神なんてつまらねぇこと辞めて天界でゆる~く暮らそうぜ。じゃな、また来る」

「もう来るな」

 トトさんは立ち上がって、「んじゃ」と手を振り、次の瞬間消えていた。

「っ!  き、消え……」

「天界へ転移しただけだ」

「そっか……。なんか、台風みたいな神様だったね」

「軽薄で調子の良い奴だが、アレで叡智の神なんでまともな事も言いやがる。お前も起き抜けから気疲れしたろう」

「ちょっとびっくりしたけど、楽しかったよ。フェンリスにも友達がいて安心した」

「友ではない。ただの前任者だ」

 フェンリスは地べたにあぐらをかきベッドにもたれ、疲れ切ったようにため息を吐いた。友ではないとは言うけれど、心を許した者と言い合いをする姿は、私には羨ましく見えた。

「でも……やっぱトトさんの言うとおりだね。『生贄は要らない』って言ったって、人間もすぐには受け入れられないし、対応できないよね」

 考えてもみればそうだ。元の世界でも、人類が誕生してから約20万年。
 かつては病気を治すために神仏祈願や呪術的行為が行われていたし、科学の進歩が進んだのなんて歴史的に見ればまだほんの最近だ。

「どうすれば良いのかな。やっぱり、時間が経つしか無いのかな……」

 時間が経つって言ったって、何年?  トトさんは百年ごとの生贄儀礼を何回もしたって言ってた。数百年では人間に理解してもらうのなんて無理だった。じゃあ何千年?  何万年?  何万年もかけて、私は何をしたいの?  この世界の人間の普通の暮らしを経験したことのない私が、人間に何を説こうと言うの? 
 色々考えてたら、もう分からなくなってきた……。

「はぁ……」

 無意識に出たため息を慌てて吸い込もうとするも出てしまったものは取り返せなくて、心配げな顔をしたフェンリスが地べたから腰を上げ、ベッドに座る私の隣に腰掛けた。

「アマネ、ひとまずお前は自分のことを考えろ。まずは栄養を摂取し、最低限の肉をつけろ。この国で今お前が一番痩せ細っているといってもいいくらいだ。病程度で半神は死なんが、このままではすぐに体調を崩す。人間のことを考えるのはお前自身が健康体になってからだ。分かったな?」

 諭すように強く言われ、フェンリスに多大な心配をかけてしまっていたのだと反省し肩を落とす。

「うん……分かった」

「…………すまん。お前は俺のためを思ってくれているのに、今の言い方は間違っていたな。まずは調子を整えて、それから一緒に考えてくれるか?」

 考えすぎて凝り固まっていた脳味噌も、彼の言葉を聞くとほぐれていく。

 フェンリスの言うとおりだ。体調も回復して元気にはなったけど、少し動くと息が切れたり咳が出そうになる。こんな虚弱な半神が、人間のために何ができると言うのだ。フェンリスに心配かけないためにも、助けてもらった彼に恩返しをするためにも、まずは私自身が健康を取り戻さなければ。

 私は隣に座ったフェンリスに体を向け、できるだけ力強く笑顔で返答をした。

「うん。早く元気になる。せっかくフェンリスに助けてもらった体だもん。大切にしたい」

「!…… お前は、全く……」

 フェンリスが俯きながら顔を片手で覆ったので、何かまずいことを言ったのかと顔を覗けば、「いや、何でもない。ただ、そのような無防備な笑顔はトトには向けるな」と釘を刺された。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした

水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。 そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。 倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。 そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。 体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。 2026.1.5〜

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

異世界で高級男娼になりました

BL
ある日突然異世界に落ちてしまった高野暁斗が、その容姿と豪運(?)を活かして高級男娼として生きる毎日の記録です。 露骨な性描写ばかりなのでご注意ください。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

処理中です...