神は生贄に愛を宿す

丑三とき

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第二章:村人

22.家族②

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 もうほとんど雨も上がってきたので、傘をはしっこに置かせてもらって二人に畑に案内してもらい、"悪霊"とやらの正体や畑の現状を見た。

「これが、もうダメになってしまった豆です。葉に穴が空いて枯れているでしょう。収穫できた豆も白っぽくカビたようになっていて、どんな手を使ってももうダメなです。よほど悪い霊が憑いているのでしょう」

 えんどう豆に似た植物の葉は、パウルさん(ビリエル君のお父さん)が言う通り穴が空いたりしてもう手遅れのような状態だった。

「これって、こうなっちゃう前はどんな感じでしたか?」

「白い粉がふいたようなまだら模様に……ああちょうど、あそこにある瓜の葉のような感じです」

 豆から少し離れた場所にある瓜の株を指差したパウルさんは、肩を落として言う。

「この瓜も次期にダメになる。こうなってしまってからはすぐ広がるんです。この豆も、数日間であっという間に枯れてしまいました」

 私は瓜の葉を観察し、白っぽく粉が吹いている場所を見つけた。ガーデニングが趣味の私には見慣れた病気だった。

「これ……うどんこ病かもしれないですね」

「うどんこ病?」

 うどんの粉が振りかかったように見えるため、日本ではそう呼ばれている。

「最近まで寒かったですが、この頃は日中暖かい日が続いていますよね?  その豆の病気が広がったのって、もしかしてそのちょっと暖かくなって来た頃ですか?」

「その通りです!  何故分かるのですか?」

「うどんこ病は寒さが落ち着き暖かくなって来た頃に広がるんです。この土地は今まで雨は降らなかったけど、じめっとした日はあったから……湿度が高い状態の時に病気になって、乾燥した時に一気に広がっちゃったんだと思います」

「悪霊では、ないということですか?」

「はい。悪霊ではないです」

 私はフェンリスからの受け売りをそのまま伝えた。すると、ビリエル君もパウルさんも、ふっと安心したように息を吐いた。

「よかった。よかったね父ちゃん!  悪霊じゃないって!」

「ああ…で、でもアマネ様、悪霊ではないと言われても、じゃあ何故こんなことに……。俺たち、昔からこの症状に悩まされているんです。いくら肥料をあげてもダメでした」

「肥料をあげすぎると逆効果の場合もあります。例えば……お二人とも、ちょっとこちらに」

 私は二人を呼び寄せ、三人で輪になって肩を組むよう伝える。

「私たち、今葉っぱの細胞だとします。小さな葉っぱだとこんな感じです。ぎゅぅ~~」

「はっはは!  ひっつきごっこだ!」

「アマネ様!  こ、これはどういう状態ですか!?」

 二人をぎゅっと抱きしめると、ビリエル君は無邪気に笑いパウルさんは真っ赤になる。

「肥料は植物を育てるのを助けてくれるけど、葉っぱが育って大きくなったらこんな風に……びよ~ん」

 それぞれの体から離れ、組んでいた肩もただ手を繋ぐだけにしてさらに距離を取る。

「ほら、細胞すっかすかになっちゃうんです」

「そそそ、そうですね……」

『おいアマネ、押し潰されるかと思った』

 やば、またフェンリスのこと忘れてた。

「このスカスカになった細胞に病気が侵入してしまうんです。ほら、私たちの周りこんなに隙間が開いてるでしょう?  これだと病気は入り込みたい放題です」

「じゃあ、植物はおおきくなっちゃだめってことですか?」

「ううん、大きくなるのはいいことなんだけど、栄養はバランスよくとらなきゃいけないの。パウルさん、肥料ってどのくらいあげてますか?」

「やりすぎると良くないっていうのは知っています。でも病気が出るってことは肥料が足りないことも原因なのだと思って、増やしていました」

「では、ひとまずこの瓜にはもう肥料はあげないでおいて……んー、石灰ってありますか?」


 ビリエル君とパウルさんは顔を見合わせ不思議そうな顔をしたが、すぐに走って石灰をもらって来てくれた。



「それでアマネ様、石灰をどうするんですか?」

「撒くんです。よいしょ」

「ああああアマネ様!  御手が汚れてしまいます……!」

 素手で振り撒くとパウルさんが慌てて声を上げ、「俺たちがやります!」と言って変わってくれた。

 彼らが石灰を撒いてくれたところから、私は株もとに落ちた葉っぱなどを拾った。

「アマネ様!  掃除も俺たちが!」

「このくらい手伝わせてください。あっ、もっとしっかり振りかけちゃって大丈夫ですよ。吸い込んじゃわないようにこうやって肘の袖で口と鼻手で押さえた方がいいかも」

「アマネ様は、なにをやっているんですか?」

「株もとを綺麗にしてるの。病気になった葉っぱが落ちてたら蔓延しやすいからね」

「これで本当に治るのでしょうか……」

 パウルさんが不安げに呟いた。

「スカスカになった細胞の隙間を強化するという意味でも、肥料とは別の栄養を足すという意味でも効果的だと思います。それに、うどんこ病は雨が続いた次の日が晴天だったらより蔓延するんです」

 根拠はあるし、実際に私の畑もこれで良くなった。

 とはいえよく考えてみたら人んちの畑に初めて来た人間が好き勝手にやりすぎたかもしれない。夢中になると周りが見えなくなってしまう癖はなおさなきゃいけないな。

「すみません勝手なことをして。でも、この瓜に関しては私のお願いを聞いてもらえませんか?  もし病気が広がってダメになってしまったら、責任を持って私が新しい瓜を育てます。だから数日間私にください。きっと治せると、思います……!」

 頭を下げると、先ほどとは反対に今度は二人が慌て始めた。

「アマネ様!」

「頭を上げてください!」

 パウルさんとビリエル君は少し考えて私に言った。

「このまま放っておいてもどうせダメになる。どうせダメになるなら、できることやり尽くしてからの方がいいよな、ビリエル?」

「うん!  アマネ様に言われたとおりにしよう!」

「パウルさん…ビリエル君……」

 とびっきりの笑顔をくれたパウルさんとビリエル君にお礼を言うと、二人は引き続き仲良く石灰を撒き始めた。

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