苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

文字の大きさ
138 / 234
つかの間の平穏

137 哀れローレス、だが自業自得である

しおりを挟む
ローレス視点

ブレイブ家の騒動が終わった日から、二週間と二日で退院が決まり、翌日にのうちに学校に復帰。

 それから入院している間の補習を行ったりして、三週間後の今、春休みに突入した今、俺は半泣きだった。

 それもそうだろう。

 永華ちゃん達は入院していた間、二週間分だったが、俺に関しては2ヶ月近く学校に来ていなかったので補習地獄になっているからだ。

 他の同級生達が楽しそうに放課後遊びに行ったりしている間も補習、永華達が戦闘訓練をしている間も補習、春休みに突入して周囲が実家に帰っていたり遊びに行っていたりしていても補習。

 補習、補習、補習。

 休みの間もずうっと補習。

「もうやだーーーー!!!!!!」

 補習地獄の果て、限界を迎えてた俺の情けない叫びが学内に木霊する。

 いつもの教室で俺はザベル先生監視のもと、補習詰めにされてれていたところ、永華ちゃんがいつメンの代表としれ進捗を覗きに来ていた。

「事情があったって言っても自業自得でしょ?」

「永華ちゃ~ん……」

「これ食べて元気だしなよ」

 午前中に何やら用事があって町に出掛けたときに買った偽梨を切ったものを三時のおやつとして、食べて元気を出せと渡してくれた。

「わーい!!ありがと!」

「はいはい、これ食べて頑張ってね」

「おう!」

 一瞬で元気になってしまって、我ながら現金だなと思う。

 永華ちゃんが持っていた、もう一皿分の偽梨はザベル先生に渡されていた。

 ザベル先生はここ最近の俺の補習にずっと付き合って貰っているように、永華ちゃんたちも付き合って貰っていたので労いを込めてのものなのかもしれない。

 俺も何か渡すべきかな……。

「先生もどうぞ」

「ありがとうございます」

 永華ちゃんが先生に進捗を聞く。

 最初に考えていた二ヶ月間という長期にわたる補習は俺の努力により倍の早さで進んでいるのと聞かされ、驚いた表情をしていた。

 それで身に付いているのか?何て話が先生達の間で出てきたりしていたが、小テストがちゃんと出来ているし本人の希望だから、この状態を維持しているのである。

 今さっきの叫びに関しては、いつものことであるので誰も気にしていない。

 別に気にしないのはいいけど、それはそれで寂しいんだよな……。

 このまま行けば春休み中に補習が終わり、三学期が始まる頃には放課後の自由が確約されることになっている。

 誇らしげに胸を張っていればザベル先生に手を動かせと怒られ、永華ちゃんからは苦笑いを貰ってしまった。

 仕方がないので補習出だされている課題を解いていると嬉しい情報が永華ちゃんから教えられた。

「今日の夕飯は私主導でハンバーグの予定だから、夕食時になる前に終わらせてね」

「まじで!?俺頑張る!!」

 もしかして前はベイノットと同じで肉がいいと言っていたのを覚えていたからハンバーグになっていたりするのだろうか?

 自惚れかもしれないが、もしそうであるなら嬉しい。

 さっきまでの半泣き状態どこへやら、上機嫌になり嬉々として補習として出された課題にとりくみだす。

 永華ちゃんはは邪魔にならないように、早々に退出していってしまった。

 問題を解きながら、考える。

 ブレイブ家の事件が終息した日から母ちゃんは学校の近くにある喫茶店で働き出した。

 本人は王都に来る気はなかったらしいがローシュテールやローザベッラさんが万が一にも脱走して母ちゃんに危害を加えないとは言えない。

 他にも不安要素はある。だから安全面を考えて王都の、しかも学校近くである喫茶店で働くという結果に落ち着いたのだ。

 他の不安要素、それは憤怒の薬をローシュテールに流していた何かだ。

 まあ、憤怒の薬を流していた者達が母ちゃんに危害を加えるとは思えないけど……。

 何の足取りもつかめなかったことが気になる。

 魔導警察の話を聞いてみて思ったのだが、まるで誰かが意図的に隠しているような感覚だった。

 売ってる人間か、実験している人間か……。

 恐らくだが、憤怒の薬か強欲の薬か、手を出しているものがいるのたもしれない。

 入学してから少し立った頃に食堂で起きた騒動、考えれば強欲の薬が使われていた可能性があるからだ。

 それを考えれば、同室が信頼のおけるいつメンでよかった。

 他の人でも、半年近く過ごしているから、そこまで気にしていないかもしれないけど、たぶん疑心暗鬼になってただろうな。

 事件だって、微妙に後味の悪い終わり方だったし……。

 っと、のんびりと考え事をしている暇はないんだった。

 さっさと課題を片付けて、皆が待っている食堂にいかなければ。



 それから時間が過ぎて夕食時、食べ物を盛り付け、食器を並べ、飲み物を準備してローレスを待っていると急ぎ足で__というかほぼ走っていた__ローレスが食堂にやってきた。

「間に合った!?」

「間に合うもなにも食べ始めてすらねえよ」

 焦りを隠す余裕もなにもない俺にベイノットは呆れ半分で突っ込みをいれる。

「というか、皆でローくんのこと待ってたんですわよ?」

「え?あ、そうなの?」

「冷めたご飯食べさせるわけないじゃん。ほら、早く座りなよ」

「うん」

 全員が席に着いて、夕飯が始まる。

 こうやって食事を作ってとまではいかずとも、皆でご飯を食べるのはいつぶりだったか。

 病院じゃあ、仕方ないとはいえ、ご飯を一緒に食べることすら出来なかったし、今までだって補習で俺が忙しいから集まることはなかった。

 たまに様子を見に来たりしてくれたけれど、それだけだったし。

 そんな風なことを考えていると、ポロリと口から転げ出た。

「こうやって集まって飯食べるのっていつぶりだ?」

「ローレスが魔法学校を出ていってから、今までずっとね」

「アタシ達、誘おうと思ったりもしたのだけれど邪魔するのもって思って誘えなかったのもあるわね」

「わ、わあ……」

 半ば自分が原因で、皆が遠慮していたものだから俺は何も言えなくなってしまった。

「え、でも、それなら何で今日誘ってくれたの?」

「昨日、レイスの独り言をアスクスが聞いていたんだ」

「“皆と一緒にわいわいしたいな~。寂しいな~”でしたっけえ?机でぐでえっとしながら言ってましたよねえ」

「え?あ、あれ聞かれてたの?」

 まさか聞かれていたと思ってなくて、自然と顔に熱が集まるのを感じる。

 “寂しい”といった俺の発言がレーピオに聞かれていたことや、それを皆がしっているなんて……。

 まるで俺が寂しがりの子供みたいじゃんか……。

 嬉しい、けれど恥ずかしくてそわそわとしてしまう。

 否定が出てこない辺り、俺も俺なんだろうけど……。

「素直に一緒にご飯食べましょう?とか誘えばよかったのにい、言わずに誰もいない教室でぐだぐだしてるローレスくんの自業自得ですよお」

「ええ、それ俺が悪いの?」

「少なくとも補習うんぬんはローレスの自業自得よ。あ、ローレスさんって呼んだ方がいいかしら?」

 ミューが俺が二十歳超えだって発覚したことをいじり出した。

 この世界に人、というか亜人は見た目年齢が当てにならないから思ってたよりも年上だとか言うの話が起きるのは仕方のないことなんだが、純人間で二十二歳である俺相手に皆が似たような年だと思っていたとは驚きだった。

 俺ってそんな童顔なの?

「いらないから!今さらお前らにさん付けされるとか気持ち悪いし……」

「ちょっと、気持ち悪いって何よ」

「じゃあ、ミューは俺が「ミューさん」とか言ったら、どう思うんだよ」

「気持ち悪い」

「即答!」

 俺とミューのやり取りに笑いが起こる。

 俺も篠野部も戻ってきた。

 ブレイブ家の問題も、憤怒の薬のことがあるから完全に解決したとは言えないが終わった。

 これで、俺は正直、気にすることはなくなった。

 どうせならば、卒業まで、この状態が続けばいいのになあ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

処理中です...