苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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子は鎹

166 励まし

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誰かの視点

カルタが勉強にのめり込みだし一週間。

 正確には違うが、避けられているといってもいい状態になった永華は目に見えて落ち込んでいた。

 仕方の無いことだろう。

 記憶の無い中で、無意識に周囲と異世界人である自分にたいして違和感を感じせいかるするなか、永華は同じ異世界人であるカルタに対してだけ違和感を感じず、それを理由に懐いていたのだ。

 急に距離を開けられれば、誰だって傷付きもする。

 しかも、まとっている空気が重たいのは永華だけではなかった。

 一週間前にカルタから永華が記憶を取り戻したくないと聞いていた面々である。

 本人達はどうにか取り繕っているようだが、たまに漏れだしているのだ。

 記憶を失っていても、生来の勘の良さは無くなっていない永華はそれを察知してオロオロする。

 そんな永華をみて事情を知っている面々は更に隠そうとするが、端々で微妙に漏れだし、永華が関知してオロオロ……。

 謎の負の無限ループの開始である。

 貴族組は育ちもあってうまく隠しているだが、他の三人がああだと貴族組のそうなのではないかと勘ぐってしまうのもおかしなことではないだろう。

 永華は記憶がない自分がカルタを筆頭に皆に何かしてしまったのではと半泣きになり、カルタは暴走を続け、他の面々は頭を抱え過去の思い出がなかったことになる事実に落ち込む。

 そんな状態になって、はや三日。

 見かねたカリヤが永華とカルタを除いた六人をお茶会に招待した。

 正確にはカルタも招待されていたのだが、それよりも優先することがあるといって、すぐに図書館に行ってしまったので不参加になっている。

 お茶会に呼ばれた理由が不明なだけに、数名が冷や汗をかきつつお茶会が始まった。

「来て下さって、ありがとうございます。今回は無礼講といたしますので、楽にしていただいて構いませんわ」

 カリヤの言葉に平民組は安堵の息を吐き、体に込めていた力を抜いた。

 そこから世間話になり、貴族界隈の事や最近起こっている事件についてだとか、色々と話すことになった。

「最近は東の方で魔獣がよく現れては人襲っているらしいですわね」

「あぁ、数年前にアニエス王国で起こった魔獣衝撃事件の再来ではないかと言われている事件ですねえ」

 アニエス王国で起こった事件は王弟と王弟妃、他も王族や騎士団が尽力して、どうにか事態を収拾した。

「犯人は魔導師だと言う話ですが、今回もそうなのでしょうかあ?」

「普通にあり得ると思うわ。アニエス王国で行われた方法を使えば出きるでしょうから……」

 話は続いていき、招待された面々がある程度、緊張や不安から離れ落ち着いてきた頃、カリヤは優雅に紅茶を飲み、本題に入った。

「さて、そろそろ私が皆様をここにお呼びした理由について、お話しましょうか」

 その瞬間、一同に緊張が走る。

 カリヤは優雅さを崩すことはなく、その笑顔を崩すこともなく、緊張で固まる一同に対してだけ言及をするでなく、言葉を続ける。

「今回は、あなた達の最近の振る舞いについてお話ししたくお呼びしました」

 ローレス達は“最近の振る舞い”について思い返す。

 答えがわからず、疑問符を頭の上で飛ばしていた。

「私、詳しい事情を知らない身でありますが、もうさせていただきますわ。あなた達、もう少ししっかりなさったらどうです?」

「しっかり、ですか……?」

 ローレスがカリヤの言葉を反復する。

「えぇ、ご友人である永華さんが記憶を失くしてしまわれたこと、心境をお察しいたしますわ。私もいろんな意味で驚きましたわ」

 あれほど性格が変わっているのだから、永華を多少知っているものなら大なり小なり驚くだろう。

「永華さんが記憶を失くし、篠野部さんが暴走気味であることも、不安に思い、恐怖することも無理はないでしょう」

 コトリ……と紅茶の入ったカップを置いたカリヤは真剣な、真っ直ぐとした目で、それぞれの顔を見る。

「ですが!本人は、あなた達以上にとてつもない不安と恐怖に襲われているでしょう。だからこそ、友人である貴方達がしっかりしないのでどうするのですか!」

 カリヤの芯のある声が響く。

「不安に思うな、とは言いませんわ。ですが、あなた達が不安に思えば思うほど、永華さんの不安揉ますと言うもの。ここは一つ、ドンっと構え、友を支える。それが友人と言うものではありませんか!」

 皆が目を見開き、カリヤの言葉に耳を傾ける。

 そうだ、そうなんだ。

 確かに自分達には余裕がなかったかもしれないが、それを理由に友人達を放置して、不安に思っているのを放置していい理由にはならない。

 自分達が、あの二人を止めるなり、支えるなりしなけらばならない。

 カリヤの激励にローレス達はシャキッとする。

「と……。まぁ、ほとんど事情を知らない私が申してみました」

 したり顔のカリヤ。

 招待された面々は覚悟を決めていた。

「首を突っ込んでしまったこと、謝罪いたしますわ」

 少しの沈黙の後、レーピオが口を開いた。

「いいえ、こちらこそ背を叩いてもらったこと、感謝します」

 皆立ち上がり、席を立つ。

「カリヤ先輩、すみませんけど俺たちは退席させてもらいますわ」

「座っている暇なんてありませんわ」

「わりいな」

「友達を不安なまま、これ以上放置なんてしてられないし」

「アタシ、友達って始めてだったから助かりました」

 カリヤはローレス達の表情をみて満足げに頷き、六人を見送った。



 間が悪いと言うのだろうか、それともタイミングが悪いと言う方がわかりやすいか。

 六人が立ち上がるのは、あと数分早ければ。

 カルタが決断するのが、あと数分遅ければ。

 何か、タラレバがあれば、未来はいくらか変わったのかもしれない。

 今更、そんなことを考えても意味はないのだけれども。



 ローレス達はカルタを見つけられなかったことから、一先ずは永華の不安を多少でも解消する方針で行く事になった。

 一人とぼとぼと歩いている永華を捕まえて購買に誘う。

 やや永華を引きずりつつも購買でお菓子と飲み物を吟味して、大量に購入、その足で誰にも使われていない教室を見つけ、机を並べる。

 六人が企画したのはお菓子パーティーというものだ。

 特に深い考えがあるわけでもない、とりあえず美味しいものを食べて友人達とのお喋りを楽しみ不安を忘れさせようといった感じだ。

 最初は何が何だかわかっていような表情をしていたが、お菓子を食べて喋っているうちに、頭から抜けてしまったのか特に気にする様子もない。

 お菓子を食べてワイワイと、永華が記憶を失くす前にもあったような、カルタが暴走しだす前にもあったような光景に自然と不安は消えていく。

 仮に一過性のものだとしても、その都度励ましていけばいいのだ。

 金銭的に辛いわけでもないし、ローレス達も楽しいのでやめる理由もない。

 そう思い、六人は現状を楽しむことにした。

 これが終わって、カルタを見つけたら休憩は必要だと言って無理矢理にでも参加させよう。

 そう考えたりするのはベイノットだったりする。

 だが__










 __カルタが寮に帰ってこないことで、状況は一変する。
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