苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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子は鎹

197 動揺

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どうにも開かないアジトへの出入り口に立ち往生して数分ほど、地べたに引っ付いて床の方に何かあるのか確認し見てもなにもないし、壁を叩いてもなにもないし。

 あの時のダンジョンにあった隠し部屋のように何かしらの手順で解錠される仕組みになっているのだろうが、私にはどこをどうすれば解錠できるか皆目検討もつかない。

「どうしよう……」

 もういっそのこと、さっき向こうに走っていった黒服二人を追いかけて締め上げて解錠方法を吐かせるか?

 ……なんか、私は誘拐されてしまった友人を助けに来ただけなのに悪役やらヒットマンみたな発想になってるな。

 まぁ、別に正義の味方と言うわけでもなく、大事な人たちの味方なのだけれど……。

 だから不法侵入じみたことをしているわけだし。

 それにしてほ、ほんとにどうやったら開くんだろう……。

 ため息を一つついて、今度は壁をペタペタとさわってみる。

「ん~……んぉ?」

 今ちょっと指が引っ掛かった?

 違和感を感じた場所を少し力を混めて押してみれば、スイッチにしては重たいものの四角く凹んだ。

 ダンジョンの時ほどの音は立てず、物静かに動いてポッカリと先に進むための道が開いた。

 なるほど、今のが解除方法。

 出るときも同じなのかな?

「さて、行きますか」

 隠し扉の先の足を踏み入れれば関圧板かなにかが検知したのか、隠し扉はゆっくりと静かにしまっていった。

 先に進むための階段は、深い深い地下に繋がっているらしい。

 途中からどれ程下に降りたのかわからなくなってきた。

 壁にある蝋燭が辛うじて光源となっているが、上に比べれは薄暗い。

 やっぱり地下ってどこでも薄暗いものなのかねえ……。

 まあ、私は夜目が効くほうだからあまり関係ないのだけれどね。

 なるべく音を立てないように先に進んでいくとまさしく地下施設と行った雰囲気になった。

 一応、扉で階段と空間を区切っているのか。

 扉に耳をつけて中の音を聴いてみる。

 こちらに向かってくる音はないものの、ちょっと慌ただしいような、バタバタと行った感じの音が聞こえてきている。

 今まで私達が襲われる側だったのに、いきなり反抗をくらって動揺しているのだろうか。

 ドアノブを音を立てないようにゆっくりと捻って扉を開けて、中の様子を確かめる。

 周囲に誰もいない、人影もない、音もない、怪しい箇所も……とくにない。

 扉をさらに開けて中にはいって、そっと扉を閉める。

 無事侵入成功できたは良いけど、どこに向かえば良いものか……。

 さっきまでは皆がいたから暴れるだけでも大分どうにかなったけど、今は私だけだから暴れるなんて手段とったら即御陀仏になりかねない。

 はぁ、前途多難だなあ……。

 篠野部が声を上げてくれると手っ取り早いのだけど、そんな都合よくいくわけもないか。

 調べるところは一先ず人を閉じ込めてそうなと頃で良いよね。

 黒服達に見つからないように気を付けて進んでいく。

 途中見つかりかけて、糸で締め上げて気絶させることになったけれど私が侵入していることに気がつかれていないからセーフだ。

 絞め落とした黒服は、そこら辺にあってロープで簀巻きにして、そこら辺の人が来ていなさそうな部屋に放り投げた。

 ちょっとヒヤッとはしたものの、騒がれる前だったのが幸いだ。

 にしても、どこの部屋を覗き込んだって篠野部は見つからない。

「ふぅ……ん?あ、やっべ!」

 十字路の左側から黒服が歩いてきているのが見えて慌てて近場の人がいない部屋に隠れる。

「はぁ、上は大騒動だってのに、こんな呑気にしてて良いのかな。確かに“あの方”の指示で捕まえた子供も大事だけど……」

 ““あの方”の指示で捕まえた子供”って、もしかして篠野部のこと!?

 そうだって言うなら、あの黒服について行けばなにかわかるかな?

 黒服が十字路を通りすぎていったのを見て、こっそりと気づかれないように後ろをついていく。

「餓死されても、衰弱死されても困るから適度な調整は必要だけど、だからってこんな時ぐらいメルリスのやつらを蹴散らしに行っても言いと思うんだけどな……」

 は?衰弱死?

 ……こいつら、篠野部に何してんだ?

 糸を使って首を締め上げて色々と吐かせてやると思ったが、黒服が取り出した“ある物”で私の動きは止まった。

 チャリンと揺れたそれは鍵束だった。

 あれは……閉じ込めておくのなら手枷や足枷なんかがいるよね?

 なるほど、あれがその鍵かもしれないな。

 止まった動きを再開させる。

 糸を操って前を歩いている黒服の首を殺してしまわないように、頸動脈を押さえるようにする。

 黒服がもがき、手から鍵束が滑り落ちるが地面に頃がある前に糸を使って手元に回収する。

「あ、が……」

 黒服がもがき、首に巻き付いた糸を取ろうと首をかきむしるが簡単には引き剥がされるわけもなく、あまり音を立てないように黒服の前に回り込む。

「お、まえ……」

 私をみた瞬間、黒服は目を見開く。

「これ、貰ってくから」

「ま……」

 鍵束を見せれば苦しさが混じった焦ったような表情になったが、お前の事情など私が考慮する必要もなにもないし、する気もない。

 気絶した黒服を簀巻きにして、引きずっても篠野部を探しに歩く。

 鍵束を握り混み、部屋を覗いていくが篠野部どころか他の黒服達すらも見当たらない。

「たいがい、外にでばってるか……」

 私からすれば幸いである。

 重たい黒服を引きずりながら進んでいくと牢屋っぽい扉を見つけた。

 鉄格子のはまった覗き窓が少し高い位置にあったので背伸びしてなかを確認する。

 そこには確かに人がいたが、白髪で、紙が長くてあちこちがボロボロだった。

「?」

 最初、そこに誰がいるのか理解できなかった。

 てっきり、私達のように運悪く狙われた異世界人か、原住民が監禁されているんだろうと思っていたのだ。

 だけど、何処か見た覚えもあった。

 私が部屋の中にいるのが誰だか、よく確認してみようと思って鉄格子を掴むと、経年劣化のせいなのか揺れて音がなった。

 鉄格子を揺らしたときになった音に部屋の中にいる白髪が反応して、ゆっくりと顔を上げる。

 生気のない目が、私を見た。

「あ……篠野部?」

「戌井……?」

 かすれ気味の、効き馴染みのある声が私を呼ぶ。

 間違いない、二年近く一緒に行動して、苦手だけど良いやつで、私が忘れてしまったせいで傷つけて、二ヶ月以上も行方がわからなくなっていた私の大切な人。

 篠野部カルタだ。

「お、おま、お前!その髪どうし……。いや、待って、待ってろ、開けるから!」

 扉から離れて鍵束から扉の鍵を上げれるものを選ぼうとするが、篠野部の姿を見て出た動揺が手に出ているのか、それとも生気のない目とあったせいなのか、手が震えて鍵束を取り落としそうになる。

「あ、っ!くそっ!どれだ、どれ!」

「なんで、いるんだ?」

「助けに来たんだよ!それ以外に何があるんだ!」

「なんで……。というか、思い出しているのか?いや、それよりも早くここを__」

「そんなの今どうでも良いでしょ!」

 あぁ、くそったれ。

 只でさえ手が震えて、しかもどれを試しても扉に会わなくて焦っているのに、涙が出てきて視界が歪むし、息も荒くなる。

 ガチャン__

 鍵が、回った。

「開いた!」

 もう、音を立てて誰かがやってくるかもしれないなんてこと気にする余裕はなくて、鍵が開いた扉を勢いよく上げてなかに飛び込む。

「なんで……」

「……っ!」

 あちこちがボロボロで、シャツには古くなった血のようなものまでついている。

 慌てて転けそうになるも、篠野部に駆け寄る。

「い、今それ外すから待ってて」

 篠野部の腕には天井から延びてくる手枷がはまっていた。

 いったいどれが手枷の鍵だ。

 これは扉に使えたから違う。

 とにかく、どれでも良いから試そうと鍵を選んで篠野部の腕にはまっている手枷に手をのばした。

「触るな!」

「!?」

 決して大きい声ではないのに、どこか圧のある声に気圧されて伸ばしていた手を引っ込めた。
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