苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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子は鎹

208 VS虚飾の幹部2

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その目はまるで「手出しするな」と言っているようで、カルタは思わず魔法を使おうとしていた手を止める。

「なんで魔法使えるんだって思ったけど、どうせ一時的に使えるようにしてるだけでしょ?なら時間かければ、そのうち使えなくなるから勝ちだよね?精々がんば~。さて、あいつら、学生ども捕まえれてるかな?囮に丁度いいから一人欲しいんだけどな~」

 ふらつきが見える足取りで、キャシーに向かっていく。

「は~……」

 額から頬を伝い、頬から顎を伝って、血が地面に落ちていく。

「キヒ、フラフラじゃん。そんなんじゃ死んじゃうぞ!」

「うるさ……。こんなことして許されると思ってるの?」

「当たり前だろ?僕は可愛いんだから、許されてしかるべきだ」

「自意識過剰がよ……!」

 キャシーの身につける装飾が、キャシーの動きと共に揺れる。

 繰り出される槍の猛攻に怒りによって曇った目では処理が追い付かないようだ。

 永華は致命傷を追わずとも、段々と傷を増やしている。

 増えていく裂傷、抜けていく血液。

 傷だらけの永華と、傷のないキャシー。

「キヒ。……あ?」

 冷たい風が吹いて、キャシーの頬に一筋の赤い線が浮かび上がり、血が垂れた。

 なんで?

 疑問が浮かび上がったが、すぐに答えは見つかった。

 永華の背後、いくらか後ろに魔方陣が編み上げられていた。

 あの位置なら、タイミングや向きを間違えれば自分に攻撃があたってしまうかもしれない。

 だと言うのに、一つも恐怖や戸惑いを感じさせることなく、魔法を行使した。

 よほど自信があったのか、自分にあたるのならそれはそれでいいと考えていたのか、そこまで考えていなかったのか。

 大方三つ目だろう。

 バカだな。

 見下していたはずの相手の一言が、キャシーの癪に触った。

「アクセサリー、ジャラジャラさせてっから、こんな雑な即興の作戦に引っ掛かるんじゃないの?」

「は~?頭イカれてる、お前に言われたかねえんだよ」

 睨みあい、また攻防となる。

 永華は自分の体からすぅっと、熱が引いていくのを感じていた。

 これは何か?

 きっと、頭の怪我や体のあちこちの怪我が原因で血が流れているからだろう。

 怒りで沸騰した血が抜けていって、頭に上った血が抜けていって、段々と体がさめいてく。

 怒りは残っているものの、だいぶん冷静さを取り戻していた。

「泣いて跪けば許してやるのによ!」

「それは、そっちがするべき事じゃない?」

 段々と冷静さを取り戻してきた永華は意趣返しとばかりキャシーを煽り、魔方陣を編む。

「てか、そもそもさ。似合ってないんだよ」

「あ?」

「それ、似合ってないって言ってんだよ。飾り立てるだけ飾り立てて、中身が伴ってないから残念だよね。もう、ちょっと頑張れないわけ?不相応すぎで頭バグりそう」

 永華の発言にキャシーは固まる。

 今までこんなこと言われたことがなかったからだ。

 見た目には気を遣っているし、本当に必要なら猫を被っている。

 だから、今まで言われたことなかったし、自信もプライドもあった。

 可愛いんだから許される。

 可愛いんだから、強くあれる。

 なのに、否定された。

 そう、信じているのに。

 信じていたのに。

 信じなければいけないのに。

 キャシーの怒りのボルテージは駆け上がる。

「……達磨にして遊んでやる」

「怒るの早くない?達磨起こしで赤ちゃんあやせたっけ?」

 状態は逆転した。

 煽ることに慣れていても煽られることに慣れていない、しかも普段は止めてくれて取り成してくれるモカノフがいない。

 キャシーが火球を放つ。

 永華が怯むことなく、火球を斬り伏せる。

 斬られた火球は軌道を変えて、永華を挟みうつように動く。

 間一髪で後方に動いたため、もろに焼けることにはならなかったが、触れてしまえば焼け焦げてしまうとわかる熱気に触れた。

「あっぶねっ……!」

 あと少しでも遅れていたら、顔が黒こげになって誰かわからないような状態になっていただろう。

 全くもって容赦のないことだが、キャシーは狙ってやっている。

 生きてさえいればいいと、考えているのだ。

 魔法の打ち合い、刀と槍やりとり。

 動き一つ間違えば、死にかねない状況。

 永華がキャシーに向かって小さな球体を投げる。

 苛立ち、視界が狭くなったキャシーは目の前の無礼者を倒すことに集中しており、他のことに気がつかない。

 永華は何かを握りこみ、ニヤリと笑った永華にも気がつかない。

「後悔しても知らないからな」

「こっちの台詞、時間稼ぎバッチリ」

「は?」

 永華が握りこんでいた物をキャシーに投げつける。

 それは縁が白く、中心が火色、小さな球体だった。

 反射的に、それを槍で突く。

 膜のようなものが壊れたと思えば、周囲に熱気がキャシーの頬と撫でる。

「悪いけど、手加減する余裕なんてないから」

 次の瞬間、キャシーの目の前には口を大きくあげた炎の体を持つ龍が現れていた。

 自分が壊した物と比べると、大きさがおかしい。

 それに、壊すまで魔力探知で探知ができなかった。

 最初からわかるようにしていたはずなのに……。

 確かに不得手ではあるし、範囲もそこまでの物じゃない。

 だけど、自らの獲物の間合いはカバーできているはずなのに……。

 キャシーの思考は瞬きの間であった。

 炎の体を持つ龍が、キャシーの上半身を喰らった。

「……流石に、沈むよな?」

 些かやり過ぎた気がしないでもないが、こうでもしないとリーチの差は埋められないだろうし、魔法だって相殺されたままだろう。

 炎の龍の胴体がキャシーを焼く。

 グラリと揺れて傾いて、地面に転がった。

 褐色の肌が更に色濃くなっており、髪はチリチリになっているし、装飾品も槍も焦げている。

 永華が何を行ったのか。

 炎魔法と防衛魔法を組み合わせた、言ってしまえば手榴弾のようなものだ。

 炎魔法を閉じ込めた防衛魔法と共に魔力遮断の魔法ヘズは脆く、触れただけでも崩れてしまう。

 崩れて溢れた炎魔法は見た目ほどの威力のないものであり、その代わり迫力の攻撃を行ってくれる。

 相手がこれで戦意喪失すれば一興。

 溢れ出た炎魔法は見かけ倒しであり、指定された龍の形になって対象者を腹の中にいれようとする。

 見た目どおりの威力を出そうとするなら、防衛魔法の内側に収まりきらなくなってしまう。

 炎は仕事を追えると消えてしまうが、まあこれはいいだろう。

「にしても、威力調節ミスったかもな。本当ならもっと威力でたって可笑しくないんだよな……」

 焼かれたキャシーはピクリとも起き上がらない。

 そりゃあ、燃やされれば簡単に起きられないわな。

「ローシュテールがおかしかっただけだな。うん」

 はやく篠野部を回収してみんなと合流しないといけない。

 いつ起きて何をされるのか全くもってわからない。

 永華は一人で納得して、キャシーの側から離れようとした。

 だが、誰かに足をつかまれたかのように、その場から動けない。

 いや、動かない。 

 まるで、まだ戦いは終わっていないと言いたげに、体が言うことを聞かない。

 じいっと、キャシーを見つめる。

「……まさか、魔族でした。火が効きませんってことないよな?」

 なんて、あり得そうなことを考える。

 瓦礫が崩れて、一瞬のキャシーから目を離した。

 次の瞬間、鈍い音があたりに響いた。
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