苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

文字の大きさ
216 / 234
子は鎹

214 子は鎹

しおりを挟む
ぼうっと、病院の空を見る。

 キャシーのせいで、思い出したくもない記憶を思い出してしまった。

 平和で、どこにでもある家庭だったのに父の不倫のせいで一気に崩壊した。

 幼馴染み一家の死、祖父の死、母は精神的なストレスで記憶喪失、冷たくなった母。

 不幸が連鎖した数年だった。

 それで、ふと思い出したのが“子は鎹”と言う言葉だった。

 “子は鎹”、それは子供への愛情が夫婦をなごませ、仲を取り持つと言う意味がある慣用句だ。

 もし、僕が鎹になれていたのなら、状況は好転できていたのだろうか。

 僕は、僕は……。

「カルタ?」

 いつの間にか制作途中の編み物を持った永華が隣に座っていた。

「……永華?」

「どうしたの?顔色悪いよ?」

「あ、あぁ、昔のことを思い出していてな」

 入院してから、それなりにたったことから永華の顔色は随分とましになってきていた。

「あぁ……。それで、気分が落ち込んでたの?」

「まぁ、そうだな。……子は鎹って、知ってるか?」

「え?あ~、子供が夫婦なかを取り持つってやつ?知ってるけど……」

「僕がそれになれていたら、変わっていたのかなっ、て……」

 あぁ、前に風邪を引いていたときと同じだ。

 気が落ち込んでしまっているせいで、らしくもないことをしてしまっている。

 本来、永華に聞くべきことでもないのに……。

「鎹になれてたら、アイツが……お父さんが不倫することはなかったんじゃないかって、思って……」

「……ふーん?」

 僕の話を聞く永華はどこか不満そうだ。

 こんな話を聞かされるんだから不満そうになるのもおかしなことではない。

 こんなこと、話すべきじゃなかったんだ。

「自責の念にかられてるところ、キツいことを言うようだけどさ。無理だと思うよ?」

「え?」

「そもそも、子は鎹って夫婦仲が冷めてるのを子供が繋ぎ止めてる状態だもん。遅かれ早かれって話しだよ。“子を鎹にしたら夫婦は終わり”とも言うじゃん?」

 そ、れは……。

「そう、だが……」

「親父さんの不倫が原因なんでしょ?んなら親父さんは元から鎹が有ろうが無かろうが無理矢理にでも離れる気だったんでしょ。カルタが鎹になろうとしようが、無理だったと思うよ」

「……」

「だって、繋ぐ先のお母さんをを必要として無くて、別の人を元々お母さんのいたところに据え置こうとしてるんだからさ。家を出ていって相手のところに行くような不倫ってそんなもんでしょ?」

 ……手厳しいな。

「遅かれ早かれって、今の状態にはなってたよ。どうにかする方法なんて、親父さんが不倫しないこと以外に無いんだから」

「……どうすれば、お母さんは苦しくなくなると思う?」

「さあ?私は本人じゃないからわかんないよ。でもまあ、カルタが味方でいることじゃない?」

 僕が味方に?嫌われているのに……。

「……」

「あとはね、親父さんの股の間に有るものを使い物になら無いようにするために蹴りあげるとか?」

 永華の口から恐ろしい言葉が飛び出した。

「……」

「え?なにその反応?」

 静かに怯えていると永華が不思議そうな表情で僕の顔を覗き込んでくる。

「い、いや、なかなかに恐ろしいことをいうものだなと……」

「そう?本人のやったことを考えると、割りと寛大な処置では?」

 言っていることはわからなくもないが、やろうとしていることは同じ男として末恐ろしい……。

 やっぱり、永華は敵対した者に対して容赦がない。

「まあ、次にお母さんに怒鳴っていたりしたらやろうか……」

「そうしたら~」

 随分と気楽な返事が返ってきた。

 もう、この話しは置いておこう。無しだ。

「……」

 永華は僕がお母さんの味方でいれば良いと言ったが、本当にそれがお母さんの苦しみを取り除く行為になるんだろうか。

「不安?」

 どう言葉にしていいからわからなくて、無言で頷く。

「何が不安?」

 考えてから、少しずつ言葉にしていく。

「お母さんは、僕に冷たいから……味方でいて、喜ぶのか……」

「……これは私の推測だけどさ。嫌ってはないと思うんだよね」

「え……」

 嫌ってないと言うのなら、なんで僕に対して冷たくするんだろうか?

 冷たくする理由なんて……。

「お母さんが冷たくなる前って何があったの?」

「えっと、記憶を無くしてた」

「その前は?」

「アイツと、女が来て、離婚しろって……」

 思い出したくもない……。

「その前、カルタとお母さんはどんな感じだった?」

「……たぶん、依存してた」

「それでしょ」

「それ、って?」

「依存状態から脱却しようとしたんじゃない?両極端な話だけどね」

「え?それで……?」

 いや、いやいや。

 依存状態から脱却しようとして、僕に対して冷たくなるって一体どう言うことだ?

「だって、カルタのお母さんだし?こう、不器用な生き方してそうだなって」

「それ、僕が不器用な生き方してるって言ってるのと同じなんだが……」

「親父さんの不倫が原因の夫婦不仲を自分のせい、自分がもっと何かできたらって自分を責めてる奴が不器用じゃないって?」

「……」

 客観的に言われたら、随分とこう……永華の言ってることが否定できなくなってきたな。

 そういえば、葵おばさんもそんなこと言ってた気がするな。

 そうか、お母さんは不器用なのか……。

「それが正解かはわからないだろ」

「本人じゃないしね。答えが気になるんだったら返ったら聞けばいいじゃん」

「それで、予想外の答えが返ってきたら?」

「カルタが望んでない答え?」

「……あぁ」

「その時は……まぁ、話し合うしかないんじゃない?」

「やっぱり、そうなるか」

「カルタとお母さんの納得するところ探さないと行けないじゃんか。最初っから諦めてたり、会話の選択しとらないのはダメだよ」

 永華の言うことはもっともだ。

「そうだよな。やる他無いんだ」

「まぁ、もし?駄目だったんだったら……発破かけたのは私だし、何かあれば私のできることはするよ」

「永華のできること?」

「ん~……。ハグとか?」

「子供か」

「うるさいし」

 僕が口を開かなかったことで会話が途切れてしまった。

 前の約束の時もそうだが、僕に対して随分と献身的だというか……僕のことを気にかけているというか……。

 少し、聞いてみよう。

「なあ、永華」

「なに~?」

 手持ちぶさたになっていたのか、制作途中の編み物を黙々と進めていた永華に声をかけると視線だけがこちらに向いた。

「永華はなんでそんなに僕のことを気にかけるんだ」

「……それは、ん~」

 僕の質問に、永華は少し考え込む。

「記憶を無くした後、リコスさんの魔法で記憶を取り戻したときに、思い出したんだよね」

「何を?」

「覚えてはいたけど、なかなか思い出せなかった幼馴染みの事とか、他にも色々とね」

 そういう永華の表情はどこか寂しげなものだった。

「……それと僕がどう関係するんだ?」

「え~……教えてや~らない」

「は?何だよ……」

 本当に子供みたいな奴……。

「知りたかったら思い出せば良いんじゃない?」

「え、思い出す?」

「じゃあ、私は病室に返るから」

「あ、ちょっ……」

 体調不良を微塵も感じさせない走りで永華が去っていく。

 止めようとした手のひらは虚しく空中をきった。

「……一体、何のことを言ってるんだ?」

 思い出すって、何を?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

処理中です...