苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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異世界旅行

221 引き返すべからず

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戻ってきた受付のお姉さんにダンジョンに入るための書類を渡され書類を片手に意気揚々とダンジョンに向かい、中に入ると光景が一変した。

「空?」

 洞窟が入り口だったはずなのに上空には岩肌ではなく、青空が広がっていた。

 出入り口には行ってすぐで、魔だ洞窟内のいるのは確実なはずなのに明らかに物理法則を無視した状態に困惑してしまう。

「どうなってるの?これ……」

 ダンジョンって、もしかして異空間だとか亜空間だとか、そんな感じの物なんだろうか?

「……よくよく考えれば、メルトポリア王国のダンジョン、大分登っていたけど見た目以上の階層があった。あれもおかしかったんだ。洞窟の中にあるはずのダンジョンに空があるのも、ある意味、変ではない」

「だからって、これは……」

「言いたいことはわかるけど……転移魔法でも使ってない限り原理の説明もつかないだろう」

 あのダンジョンに入ったときの光は転移魔法、だったのだろうか?

 いや、違う。あれはダンジョンで発生した魔獣を外に出さないための結界だからね。

「それによく見ろ。あの空は偽物だ」

「偽物?」

 目を凝らして空を見てみると、どうもうっすらと線のようなものが見えた……気がした。

「……線?」

「あぁ、大方光の反射で空があるように見せているんだろう。そこら辺はどうでもいいだろう?行くぞ」

「あ、うん。一角鷲ってどこにいるんだっけ?」

「どこにでもいると行っていたが……」

 摩訶不思議な空は置いてといて、ギルドで受けた依頼をこなさなければならない。

 はるか上空に鳥らしきものが飛んでいる影が見えるが、あれは一角鷲なのだろうか。

 眼前に広がる森の中にいるのは確実だろう。

 はるか上空にいる方に手を出すのは森を散策して出てこなかったときにするとして、ひとまずは森の中を歩き回ってみることにした。

 森を歩き回っていると蛇やら虫やらに遭遇するようになった。

 浅いどころであることもあるが、ここの強さはさほど無くとも纏まって出てくると中々厄介でしかたがない。

 虫相手に炎魔法で蹴散らそうとしても、森の中だから延焼したりしたときのことを考えれば迂闊にそんなことはできなかったし、何よりカルタに必死に止められた。

「帰りたいよ~……」

「虫は僕が対処してやるから頑張れ」

「うぅ……」

 茂みの中から飛び出てくる虫系の魔獣に怯えつつ、進んでいると一角鷲が現れた。

 一角鷲は殺さずに、捕まえて角を折ってしまえばいいらしく、私が捕縛でカルタが角を折るという感じで分担することにした。

 一角鷲はダンジョン由来の魔獣ではなく、魔獣がい溢れないようにするための結界がはられる前に迷いこんだ一角鷲達が繁殖した一角鷲達の子孫らしく、殺して角を取ると個体数が減少してしまうのだと。

 ダンジョンの中の一角鷲が絶滅してしまうと少し遠くの巣に行かなければ行けなくなり、今ほどの量が納品できなくなってしまうし少し遠くにいる一角鷲は国と国の領域の問題で手出しが難しいのだと。

 そんなわけで、ダンジョンにいる一角鷲が対象になっている。

「ギョエエエエ!」

 一角鷲の鳴き声が響き渡る。

 良さそうな位置に木と木の間に細い糸をはり、私が囮になるために一角鷲から見えやすい位置に立ち、蜘蛛の巣のようになっている糸達の中に突っ込んでくるのを待つ。

 私を見つけた一角鷲は肉を得るために私目掛けて飛んでくるが、極細の糸に引っ掛かり、まるで網にでもかかったかのように一角鷲に絡み付く。

 一角鷲が糸に驚いた一瞬の隙をついて、隠れていたカルタが自己魔法の光の矢で角を折る。

「ギョエエエエ!?!?」

 一角鷲の角が落ちる瞬間、一角鷲がひときわ大きな鳴き声を上げる。

 糸をほどけば慌てたように空に飛んでいった。

 思ったよりも簡単にすみ、拍子抜けしているなか、カルタが一角鷲の角を拾い上げる。

「上手いこといけたな」

「そうだね。断面綺麗だとプラスされるんだっけ?熱で切ったから上手いこといったね」

 割れてたり、断面が綺麗じゃないと加工品にできる面積がへってしまうんだとか。

「あの角、ある程度たつと山羊とか羊みたいに成長するんだっけ?」

「あぁ、だから貿易品として成り立っているんだろうな。一点ものなら数は少ないし値は上がるだろうから恋人たち向けじゃなくて貴族向けになっていそうだし」

 カルタはそういって一角鷲の角をギルドのお姉さんに渡された袋にいれる。

 そうして一角鷲の角をなるべく大きいのを狙って集めて、次の層へ次の層へと移動していると、結構な数が集まった。

 数が集まったので、一旦帰ろうかと話しているとある人物が話しかけてきた。

「二人とも、ダンジョンに来てたんだね。」

「キノさん!これから潜るの?」

「そうだよ、もっと深いところにいってみるつもりなんだ」

 どうも昨日の私たちの言葉に一理あると思ったらしいキノさんは善は急げとばかりに、さっそくダンジョンの奥にいってみることにしたらしい。

「奥さん見つかるといいですね」

「ふふ、ありがとう」

 ダンジョンという場所に似合わない和やかなやり取りの中、異変が起こった。

 ダンジョンの浅い層に繋がっている階段がある方面の鳥形の魔獣達が一斉に飛び立ち、奥へ奥へと向かっているのだ。

 その様は、名にかに驚いて逃げるようで、生存競争の強いダンジョンの浅い層の中ではひときわ異様さが際立っていた。

「ここって、ダンジョンのボスが出るような層じゃないよね?」

「そのはずだし、ダンジョンのボスなら出入り口の方じゃなくて奥からくるだろ……」

「これは、まずいかもしれないな……」

 銭湯音が聞こえるわけもなく、鳥が一斉に飛び立つ以外の異変が特に見られない、状況が把握できない状態だ。

 そんななか、待ってくれるわけもなく、刻一刻と飛び立つ鳥の波はこちらへと近づいてくる。

 それと同時に、奥の方に見える植物が段々と枯れていっているのが見えた。

 それが見えた瞬間、全身のだけが逆立つほどの恐怖と嫌悪感を感じた。

 すぐに察する。

 アレは全うなものではないと。

「ねえ、私、嫌な予感がするんだけど……」

「奇遇だな。僕もだ」

 段々と迫ってくる、植物を枯らしてしまうような力を持つなにかの正体を確認するべきだろうか?

「二人とも、奥へ行こう!」

 私たちがどうすればいいか迷っていると、キノさんが私たちの腕を掴んで下層へと通じる階段をかけ降りていく。

 キノさんになんが起こっているのかを聞こうと思って口を開こうとしたとき、地震が__ダンジョンが揺れた。

「舌を噛みたくないんだったら、落ち着くまでしゃべらない方がいいよ!」

 キノさんの言葉に思わず黙ってしまい、引っ張られるがままにダンジョンの下層へと走る。

 階層を移れば揺れ事態はなくなったが、恐らくこちらに向かってくるだろうモノのことを考えれば、ここに留まるのもダンジョンから出ようと引き返すのも止めた方がいいだろう。

 浅いそうだからだろうか?

 けれどもダンジョンの魔獣が我先にと逃げ出すようなモノがいるのだから、下手に会わない方がいい。

「一先ず、階を移動されるまでは大丈夫かな……」

 キノさんが階段を覗き込んで言った。

「ハァ、ハァ……。キノさん、アレは何なんですか?貴方、知っているでしょう!あの何かは、本来はダンジョンに
出現しないものでしょう!出現したとしても最下層、ボスだ!」

 珍しく焦ったカルタがキノさんに詰め寄る。

「触れてもいないのに植物を枯らすような魔獣なんて、このダンジョンで出るなんて聞いていないし、あんな力を持つものが生きている者の世界にいていいわけがない!」

 カルタの言葉にキノさんはどうしたらいいのかと考えているのか、視線をさ迷わせている。

「……あれ、全うなモノじゃないでしょ」

 あの時感じた異様な感覚、恐怖と嫌悪感は黒いワイバーンと相対した時のものとよくにしていた。

 だが、感じた嫌悪感は異常なものだった。

 まるで、身体全身がアレを拒絶しているようなものではないかと錯覚するほどに。

「随分と勘が鋭いね。本当はあんまり教えたくなかったんだけど、仕方がないか……。歩きながら話そう。追い付かれたら困るからね」

 そういって歩き出すキノさんの背中を見て、私たちは顔を見合わせる。

 私たちはキノさんのことを、キャシーの仲間ではないかと、怪しいと思っているのだ。

「どうする?下がれないから前に行くしかないよ」

「行き先なんて端から一択だ。何かされそうになれば、これだ」

 そういってカルタが見せたのはスノー先輩作の弓だ。

 私は頷いて、木刀を片手にいつでも魔法を発動させられるように糸に魔力を注ぐ。

 後ろについて歩いていると、キノさんが話し出した。

「まずは大前提として、アレが狙っているのは僕と嫁のカムラだよ」

「え?」

 てっきり、キャシーのことがあったから狙われているのは私たちなんじゃないかと思っていたけれど、狙いはキノさん達?

 なんで、キノさん達が……。
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