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序章
プロローグ
しおりを挟む「ようこそ、我がアリス」
ここは、どこだろう。
淡く、優しい色合いの景色。
周りには木々が広がっていて、ここが森の中だろうということが分かる。
青い空と白い雲。その太陽の輝きから今は昼だろう。
………はて?今は夜ではなかったのだろうか。私は疲れた体を癒すため、眠っていたはずだが。
どこか、浮世離れしているような感覚に、夢か。と思う。
頬をつねってみる。
痛い
ここは夢じゃないのか?
私は一体、どこにいるというのだ?
「おはよう、アリス」
不意に後ろから声がした。
急ぐように振り返ると、白衣の、マフラーを巻いた右目を前髪で隠している、ニヨニヨとムカつく笑みを浮かべた男がいた。
ふと、男の足元を見ると足がない。黒い、影のようなものが唸っていて、その男の本来の影もない。
「いや、こんにちは…かな?」
男は、マニュアルでも読んでいるかのようにスラスラと話し始める。
「ようこそ、我がアリス。
ここは君の世界だ。君が望めばその通りになるし、君が望まぬものは消えてしまう。
ただ、ここは鏡でもあるからね。君のことは望めないよ。
…………あぁ、ボクかい?ボクは、そうだなぁ…チェシャとでもよんでくれよ。
帰りたいなら呼ぶといい。
ただ、今すぐじゃなく、もう少しこの世界を堪能してからでもいいんじゃないかい?」
喋りきると、男…チェシャはどこかに消えてしまった。
何が起こったのか、理解が追いつかない。
ただ、ひとつ気になったのは、
『この世界では望めば思いどおりになる』
ということだ。
早速試してみようと、少し考えてから望んでみる。
(飴、降ってこい)
すると、空の高くて見えないところからパステルカラーの、カラフルなものが落ちてくる。飴だ。本当に飴が降ってきたのだ。
しめた、これは使えるぞと思うが、いざ何を望もうかと考えると何も出て来ない。
はて、自分はこんなに無欲だったろうか?
まぁいい。こんな世界ならあのチェシャとやらが言った通り、この世界を見てみるのもいい。
そして私は、おもむろに歩き出した。
ちょうど木が開けている花畑から、目の前に道のようなものが見える。森の中にしては不自然に、そこだけが別の空間のように、一本すじが光へと通っているのがわかる。
歩いてみれば、意外と長かったように感じるが全く疲れを感じない。
森を抜ければ、一気に視界が開け、野原に1本の道が通っている。
本当に、何も無い景色だ。
私は歩を進める。
しばらく道なりに歩いていると、2人の少女が現れた。
カーディガンの様なものを羽織り、かぼちゃパンツをはいていて、1方は右目がなくハートのペイントをしていて、もう一方は左目がなくダイヤのペイントをしている。
その2人はおもむろに私に話しかける。
♡「やあ、おねーさん」
♢「何してるのー?」
♡「あ、もしかして」
♢「もしかしなくても」
♡♢「「アリスだ!!」」
仲がいいな。
しかし、この子達は双子なのだろうか?
顔が瓜二つだ。
それになんだ、アリスって。
不思議の国のアリスか?
まぁいい。それもこのふたりに聞けば分かることだ。
「ここはどこなの?」
2人に問うてみる。
♡「ここはねー」
♢「不思議の国だよ!」
♡「そしてそして!鏡の国だよ!」
♡♢「「アリスのためのせかいなんだよ!」」
……は?
何を言っているのか分からない。やはり夢なのだろうか。
そう考えるが一旦そこはおいといて、もう一つの疑問をぶつけてみる。
「そのアリスっていうのはなに?」
♢「アリスは」
♡「アリスだよ?」
♢「名前はアリス自身を指すから」
♡「アリスじゃないとダメなの」
何を言っているんだろうか。
やはり理解ができない。
どういうことかと問うてみようと2人の方を向けば、もう2人は居なくなっていた。
草原の一本道にただ、1人だった。
あの不思議な双子がどこかに消えてから、ずっと歩き続けておるが、一向に何も見えない。
少し道をズレてみようと、何も無い野原を横断してみる。
ずっと歩いていると湖が見えてくる。湖のちかくに大きな木が生えており、その木のそばには人がいるのが見える。
湖に近づいていく。
湖に着くと、すぐに木のそばにいる人の所へ向かう。
木のそばにいる人は和服を来ており、髪を上にくくっている。その綺麗な顔立ちと華奢な体から女かと思ったが、よく見ると胸もなく、男のようだ。
和服の男は木にもたれかかるように座り、眠っている様だ。
眠っているところ悪いかなとも思ったが、意を決して声をかけてみる。
「あの、すみません。」
和服の男はゆらゆらと顔を上げ、
「なんだ?」
と、声を紡ぐ。
綺麗なその瞳、仕草に魅了される。
すると、その男は
「あぁ、アリスか。」
と。またアリスという言葉が出てくる。私はその疑問をぶつける。
「アリスってなんですか?」
男は答える。
「お前の、此処での名前。
あと、俺は紫苑という。」
「此処、とは?」
「ここはお前の夢の中。
…一つ忠告。セーラー服の女の言葉に耳を貸すな。
他に質問は?ないなら寝る。」
セーラー服の女?
誰だろうか。
そしてアリスというのは偽名のようなものなのか。
此処は私の夢の中であるのか。
色々なことが分かるようになり、少し安心する。と、同時に、少し不安もつのる。
もう少し人と話していたいと思い、言葉を紡ぐ。
「あなたは、何故ここに?」
「さぁ?」
「…他に人はいますか?」
「居る。
双子のダイヤとハート、案内人のチェシャ、想像や願いを具現化するタルパ、赤の王イバラ、管理人のピエロ、そして俺。
…あと、たまに来る咲。」
「そうですか。ありがとうございます。それで、イバラさんという方はどんな方ですか?」
「オカマ」
「え」
「オカマ。以上。
どうしても会いたいなら、チェシャを呼べ。案内してくれるはずだ。」
「わ…かりました。あと、ピエロさんってどんな方ですか?」
「ゲス。以上。あいつは狂ってるから耳を貸すな。めんどくさい。……眠いんだが。」
「あ、ハイ。すみません…あともう一つ、もう二つ?ほど質問があるんですけど。あの…タルパさんってどんな方ですか?」
「あー、そうか。……。何考えてるかわからんやつだ。あと、やつは変な力を持っていて、簡単に言うと願いを叶えてくれる。」
「そうなんですか。すごい人ですね。最後に、咲さんってどんな方ですか?」
「こいつも何考えてるかわからん。そしてこいつは唯一この世界と現実を自由に行き来できる。まぁ、たまにしか来ないがな。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「…疲れたらここに来い。休むくらいはさせてやれる。じゃあ、俺はねる。」
「あ、はい…ありがとうございます。」
寝てしまった。不思議な人だ。いやしかし、言い方は刺があるが、眠いと言いつつも答えてくれるあたり、いい人なのだろうか。
まあ、私があってきた人以外に人が居る、ということがわかった。
ならば次は誰に会いに行こうか…
私は、イバラという人のところへ行く事にした。
とは言っても、行き方が分からない。紫苑さんが言っていたように、チェシャさんをよぼうか。
…呼ぶと言ってもどうしたらいいのだろうか。普通に声を出して?少し恥ずかしいな。
と、思案していると、背後から声が聞こえた。
「やぁ、アリス?」
はっと振り返ると、そこにはセーラー服を来た女がいた。
その女は、頭にかける部分が割れているヘッドホンをしていた。髪型はショートカットで、前髪を緩く右に流している。
顔は美人と言われる範囲にあり、目に光がない。
どことなく不思議なふいんきを纏った女だ。
そこで私はふと思い出す。
「セーラー服の女に気をつけろ」
この女のことか?
私が思考の波に溺れようとしているところを女が制す。
「この世界はどうだい?
綺麗だろう?君がいつもいるところよりも。他人に振り回されて、自分の領域に土足で踏み込んで来るような、理不尽なところよりも。ずっと綺麗だ。
だろう?」
たしかに。まったくもってその通りだ。
ここでは自分の欲しいものが手に入るし、ふしぎと、倦怠感も疲労感もない。
……まてよ。どうして自分はこんなにもここの人達に心を許してしまっているのだ?
どうしてこんなに素直に言葉を受け入れているのだ?
なにかがおかしい…気がする。
「どうしたんだい?アリス。
何も気に病むことは無い。ただ、君はこの世界を満喫したらいいだけさ。大丈夫。大丈夫。
ここは君のための世界なんだ。
あんなところ、そして、今君が抱いている疑問。全部忘れて、ただ、この君のための世界をキミのために使ってあげたらいいのさ。」
あぁ、わからない。だけど、わかってしまう。そうだ、ここはぜんぶ、おもいどおりになるんだ。おかしいくらい。わたしのためにあるんだ。
「……もっと、ここに、いたい…。」
女が、怪しく笑みを浮かべた。
アリスと呼ばれたその人は、
狂っているかのように、その女を信じ、受け入れていた。
「アリス。ここにいたいなら一つ、ある事をしなくてはいけないんだ。
きけるかい?」
「どうすればいいの。」
「君の名を、教えて。そうしたら、君はキミの力でここにいることが出来る。」
「わかった。
わたしのなまえは」
アリスが名を口にした途端、アリスは光の粒となった。綺麗で、怪しく、醜いそれになったアリスは自らここに縛られることを選んだ。
女は、満たされたような顔をした。
「素晴らしい選択だ。」
アリスによく似た形になった女はくすっと笑った。
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