Alice's in wonderland

奇常

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第1章

1話

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みんな、嫌いだった。

今日も憂鬱に会社へ行く。山積みの仕事、要塞のようになった書類、私を嗤う陰口、先輩からの軽蔑した目線、知らぬふりをする上司。
あぁ、全部がイヤになる。
鉄のように沈んていく気持ちを、半ば強引に引き戻し、今日も仕事をする。

みんな、みんな、仕事も出来ないくせに、えらそうに。
この中で一番頑張ってるのは私よ?山積みの仕事も、私じゃなきゃ出来ないもの。陰口しか叩けないなんて、哀れね。
定時がすぎてもかえらせてもらえない。飛んだブラック企業ね。ケバいメイクばっかりしてないで、少しは頑張ったらどうなの。先輩も、私が優秀だからって、嫉妬してる。あぁ、なんて可哀想なんだろう、私。

そんなことを考えてるからいけないんだ。そんなこと、考えちゃいけないのに。こんな醜いこと私は考えてない。私はもっと優しいの。こんな醜い私なんて、認めたくない、見たくない。私のなんて軽いもの、私よりも辛い子なんて、沢山いる。だから、悲しんじゃいけない、つらいなんて思っちゃいけない。

ねえ、ちょっと!邪魔なんだけど!
ほんと、グズなんだから。
私達の邪魔しないでよ!

どうして。

ほんっと、ムカつく。
いみわかんないよね~。
後輩の癖に出しゃばってさ。
馬鹿みたい!

なんで。

あー、いじめ?うん、まぁ、疲れてるのはわかるけどそういう発言は控えてね。

私は、なにも、してない。
なのになんで? 


辛い。


夜遅くに家に帰る。ただいま、なんて言うけど、誰もいない虚しい部屋に、ぼうっと響くだけ。
私はなにをしてるんだろう。
疲れた、とぼやいてそのままベットに倒れる。襲ってきた睡魔に抗いようもなく私は目をつぶる。
あぁ、化粧も落としてないし、服もそのまんまだ。まぁ、いいか…。



気がつくと、そこは幻想的で、美しい場所だった。

周りには木々が広がっており、どうやらここは森の中だろうということがわかる。

「こんにちは、アリス」

後ろの方から突然声がして、振り向けば、そこには右目を前髪で隠している、ニヨニヨという言葉がぴったり当てはまるような笑みを浮かべた、不思議な男がいた。
私は、その男を見た瞬間、私の中の何かがはじけたような気がした。
私の頬は赤く染まり、目は輝きを取り戻す。世界は、色を持って、表情も笑顔になる。
私は、この男に、
一目惚れしたのだ。




光を持つようになった世界で、私は彼になにか語りかけようとした。
彼が今すぐにでもどこかに行ってしまいそうで、私は必死に質問や、話題を探した。やっと出てきた言葉は

あ、あなたの、名前、は、なんですか!

失敗した。それはもう、盛大に。
彼は少し目を丸くさせたあと、ふっと笑って応えた。

「ボクは…そうだなぁ、チェシャとでも呼んでくれよ」

チェシャさん…、不思議の国のアリスを思い出す名前だ。
どう考えても偽名だよね。いや、ここは夢の中のようだし、案外普通なのかもしれない。
と、ここでやっと思考が冴えてきた。よくよく考えれば、ここは夢の中で、しかも私の自由に動ける。明晰夢というやつだろうか。今思ったけれど、夢の中の人に恋をしているんだな、私は。
そんなことを考えていると、ふいにチェシャさんが話し始める。

「ようこそ、我がアリス。
ここは君の世界だ。君が望めばその通りになるし、君が望まぬものは消えてしまう。
ただ、ここは鏡でもあるからね。君のことは望めないよ。
帰りたいなら呼ぶといい。
ただ、今すぐじゃなく、もう少しこの世界を堪能してからでもいいんじゃないかい?」

話し終えたあと、チェシャさんはどこかにテレポートしたかのように消えてしまった。
チェシャさんの話し方は、人間味はあるもののただただ台本を読んでいるだけかのようで、例えるなら、そう、ゲームのNPCのような話し方だった。

チェシャさんがどこかに行ってしまったことで、私のテンションは目に見えるほど下がった。だが、何もしないわけにもいくまいと、ぐ、と握りこぶしを作り、前を向いて

よし!

と声に出した。

とりあえず、この森から出よう。道は探すまでもなく目の前にあった。
なんだか、その道だけが他と違うように見えて、導かれるかのように私は歩を進めた。



森を抜ければ、そこは広い、広い、草原だった。私が通ってきたあの不思議な道が、まだ目の前にまっすぐ続いている。
今までの導かれるような、使命感にも似たあの不思議な感覚はどこかに消え、それでも私は道なりに進んだ。
結構な時間が過ぎたように思うけれど、空はまだ明るい。視点を上にあげれば、目いっぱいに青が映る、けれど、太陽は見えない。少しの雲が、悠々と流れている。
チェシャさんにまた会えるのはいつだろうか。
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