サリーの日報

中綿げにを

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サリー・ハウンドの手帳

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私には、唯一、心を許せる侍女がいた。
親しい友人の前でも、いや、家族の前でさえ本音を晒せなかった私。
そんな私がこの世でただ一人だけ、この胸の内を晒け出せる相手。

彼女の名はサリー・ハウンド。
母仕えの侍女ジリー・ハウンドの一人娘。
歳は私の4つ上。
私が生まれた時から私に使え、共に学び、遊び。
姉のようで、親友のようで、良きライバルのようでもあった私の従者。
家族よりも家族らしく、友人よりも友人足り得た。そんな彼女。
彼女もまた、私に対して心を許していると思っていた。
それは私の勘でしかなかったが、ある種確信めいたものだった。

そんな彼女が、私にも言えない秘密を抱えていると知ったのは、柔らかな陽射しが心地よい日のことだった。
彼女の秘密を知った私は、鈍器で殴られたような衝撃に眩暈めまいを覚えた。
次いで迫り上がる悲しみと落胆、そして私自身への失望。
柔らかな陽射しは西陽へと変わり、照明を灯し忘れた部屋は私の心を表すかの如く、暗がりへと向かって行った。
あれから数年が経つが、その日1日の光景や感情は今尚鮮やかだ。

その日はサリーを遣いにやっていて、私は1人だった。
特にすることもなく屋敷内を歩いていた私は、人気の無い廊下で1冊の冊子を見つけた。
木陰を彷彿ほうふつとさせる色の手触りが良い生地に、アネモネの刺繍ししゅうを施したブックカバー。高価でなくとも手触りの良いその生地は、侍女たちが好んでよく使用していた物だった。花の刺繍ししゅうが施されているが、男性が持っても違和感のないデザインのそれ。私は初めて目にするものだった。
ポケットに入りそうな大きさから判断するに、最近流行りの単行本という形の書籍か。侍女か執事が落としたのだろう、私はそう結論づけた。

後でサリーを通じて持ち主本人に返して貰おうと、冊子を片手に自室に戻った。
忘れないようにと、文机の右上に、羽根ペンを避けて置いた。
美しいブックカバーは私の机に驚くほど調和していた。

ふと、好奇心が私を刺激した。

「この冊子の中身はなんという作品であろうか」

その冊子が手帳と判ったのは、中を開いた後だった。

『この手帳は日報代わり』

1ページ目、活版印刷の「Notebook」の下。
まるで副題のように記された手書きの文字は、サリーの筆跡であった。
本来であれば、サリーの物であると判った時点で手帳を閉じるべきであったのだろう。
その日報の中身を知らなければ、私の心の拠所は消え失せることなどなかったろうに。
だがしかし、私は好奇心に負けてしまった。

そのままページをめくってしまったことが、私の全てをくつがえした。
あの日をいくら悔やんだところで、時は戻せない。
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