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序章

手の中にあるモノ

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 もうどのくらい歩いただろうか…。
 月の光に照らされた美しい竹林をひたすら歩き続ける。

「ここどこなんだろう?というか私そもそもなんでここに来たんだっけ?」

 竹林の道は気が遠のくほど長い。

「あっ!鳥居?」

 鳥居をくぐってみると小さな池があった。月の光が反射し水面がとても美しく輝いていた。
 すると水面から水の羽衣を纏った巫女が現れ、こちらを見て笑みを浮かべては水面を舞い踊っている。美しい円を描きながら、巫女が私に近づいてくる。

「え…?こっちに来いってこと?」

 巫女に案内をされ、小さな橋を渡るとハープの美しい音色が響く。
 そこには複数の巫女が舞い踊り、私の手を取り社へ導いてくれる。

「こんなところに神社が?お参りしてってことなのかな…」

 心地いいハープの音色を聴きながら、手を合わせると、突然手が光り出す。

「な…何?!まっ、眩しいい!」


??「…ヨー、……なさい!…さよ!」

ミヨ「はっ!」

 私が飛び起きたことと同時に、私の部屋の扉がガチャッと開く。そこには呆れた顔をした母が腕を組みながらため息を吐いていた。

ママ「もう、ミヨ!起きた?何度も起こしてるんだから!起きたなら返事をしなさい。ほら、朝ごはん食べなさい。」

ミヨ「ごめんごめん。あ~変な夢見ちゃって…へへっ。」

ママ「ご飯冷めちゃうから、早く来なさいよ?」

ミヨ「はぁ~い。」

 眠い目を擦ると、手に違和感があった。

ミヨ「これって…」

 右手を開けると小さな瓢箪に“水”の字に瓢箪6つを合せた紋章が描かれていた。

ミヨ「え!?なにこれ!?こんなの家にあったっけ?いや、ないし!まさか夢の?確か…手の中光った…よね?でもあの神社見たことあるような、ないような…って!学校遅刻する!」

 慌てて朝の身支度をし、食パンにかぶりつく。

ママ「ちょっと、お行儀悪いわよ?座って食べなさい。」

ミヨ「ママ、もごもご。遅刻しちゃうからもう行くからね。もごもご。いってきまーす!」

ママ「ミヨ!お弁当…っ!もう、また忘れてちゃって…」

 急いで自転車に乗り、いつもの桜の並木道を通り学校へ向かう。
 風が優しく頬を触り空気が気持ちいい。桜の良い香りが新学期をワクワクさせる。


この春から高校2年生になった私、佐竹美世(サタケミヨ)の摩訶不思議な物語がこれから始まる。


 キーンコーンカーンコーン

ミヨ「セ…セーフ。なんとか間に合った~!焦った。8時半ジャスト!!」

サクラ「ミヨちゃん、おはよう!今日もギリギリ間に合ったね。見てるこっちがヒヤヒヤしちゃうよ~」


 彼女は、蒼井桜(アオイサクラ)。とても気さくで温和な子。ふんわりした雰囲気が癒しを与えてくれる私の大切な親友だ。


ミヨ「サクラ、おはよう!だって朝苦手なんだもん。今日いい天気だから、いつものカフェ行こーよ!あ~期間限定の桜フラペチーノ飲みたいなぁ~♡」

 サクラはため息吐く。

サクラ「ミヨちゃん、呑気すぎだよ~。もうすぐGW前にテスト、あるんだよ?いつものカフェで少しでも勉強しないと…ね?」

ミヨ「うっ…。せっかくの新学期にテストかぁ。テストより大切なことあるのに…。あ、お弁当忘れた…。今日一日やる気出ない。」

サクラ「またお弁当忘れたの?私のお弁当半分あげるから元気出して、ね?」

ミヨ「ありがとう!ほんっっっとありがとう!やる気出たよ!」

??「ふふっ…単純。」


 彼女は、三好怜奈(ミヨシレイナ)。オタク気質な上、オカルト大好きで個性的。大雑把な性格が頼りがいがあって、安心感を与えてくれる大切な親友だ。


サクラ「レイちゃん、おはよう!レイちゃんも一緒にいつものカフェ行かない?皆んなで勉強しよう、ね?」

レイナ「いつものカフェは行く。けどね、また新しいオカルト情報手に入れたんだよね~♪今回は地元の神社に纏わるは・な・し♡」

 ゾクゾクゾクッ…
 背筋が凍るような、なんとも言えないゾクゾクゾク感が身体を支配する。

ミヨ「こ…怖くないよね?夜、寝れなくなるの嫌だからさ。トイレも行けなくなる…」

サクラ「ミヨちゃん怖がりすぎだよ~。」

レイナ「サクラの言うとおり!神秘な話なんだからさ♪気楽に気楽に♪」

 キーンコーンカーンコーン

レイナ「じゃ!隣のクラスだから行くわ~!放課後ね~」

 私とサクラは手を振る。1限目から5限目まで長い時間を過ごす毎日。気候がとても気持ち良いため、うつらうつら寝てしまう。

杉本「佐竹、これは何と読むか?」


 杉本は、地理歴史教科の先生である。現在、50歳で独身。うんちくの話が長く、度々睡魔に襲われる。トレードマークは、ドーナツ化現象の頭。私が高校1年生の時はドーナツというよりバーコードに近かったが、バーコードが破壊されて、完全なドーナツとなった。生徒は杉本のことをドーナツ、もしくはストレートにハゲと呼んでいる。


 黒板に〝水無神”と書いてある。

ミヨ「み?みなしかみ?」

杉本「お、惜しいなぁ~。〝の”が抜けてるぞ。みなしのかみだ。」

ミヨ「抜けたとは思ってません。以前に比べて無くなったと思っただけです。」

杉本「へっ?抜けた?〝の”がか?」

 教室がザワザワし、みんなクスクス笑い声が聞こえてくる。

ミヨ「あっ!なんでもないです!間違えました!」

杉本「??? まぁいい。コホン。答えは、水無神(みなしのかみ)と読み、御年大神(みとしのおおかみ)とも呼ばれている。我々の故郷、飛騨高山の水無神社は由緒ある神社だ。歴史を知るにはその土地に踏み込み、実際見ること…で…」

 杉本のうんちくが始まる。

 神社…。今日見た夢、不思議な夢だった。綺麗な池があって…誰かに神社に連れて行かれて、起きたら手の中に瓢箪、紋章?のようなものが描かれていた。
 もしかしたら、オカルト好きのレイナなら夢で見た出来事を聞いてくれるかもしれない。放課後が待ち遠しい。


 キーンコーンカーンコーン


ミヨ「やーーっと終わったー!!今日も一日長かった。よく頑張ったわたし!」

 サクラが手で口を押さえながらクスクス笑う。

サクラ「ふふ。ミヨちゃん、杉本先生に抜けたとか、無くなったとか言ってたよね。ふふっ。先生気づかなかったから良いけど…ふふっ。また寝てたんでしょう?」

ミヨ「だって杉本のうんちく眠くなるんだもん。しかもドーナツだしさ!」

サクラ「ドーナツ!?ふふふっ。眠くなる言い訳がドーナツ?完全な悪口だね。」

 サクラと話をしながら教室を出ると、レイナが両手を振りながら小走りで駆け寄る。

レイナ「2人とも、早速カフェいこう!都市伝説級のネタを話したくてウズウズしてたのだよ!あぁ夢が溢れる!私のロマン!」

 レイナの小走を見たのか、杉本が怖い目つきでこちらを睨んでいた。

杉本「みーよーしー!廊下は走らない。ポスターを見なさい!」

 確かに〝廊下は左側通行。走らない。”とポスターが掲示されている。レイナはキッと杉本を睨みながら立ち止まった。

レイナ「今後気をつけます!…ザビエルもどきめ!ドーナツ男爵にかまってられるか!!」

杉本「………」

 レイナは全力で廊下を走った。杉本はフリーズしたかのように固まって動かない。私たちは急ぎ足で下駄箱へ向かった。

ミヨ・サクラ「レイちゃん!」

レイナ「2人ともごめん。杉本に叱られた?私のせいでごめんよ~」

サクラ「ふふっ。杉本先生はフリーズしてたよ。レイちゃんの声大きかったから、皆んなクスクス笑ってたよ…ふふっ。」

ミヨ「今回のレイちゃんの発言で、杉本、自分がハゲってこと自覚したかもしれない。ドーナツ男爵ってヤバくない?」

サクラ「ミヨちゃんはレイちゃんのこと言えないよ、ふふっ。杉本先生に抜けたとか無いとか言ってたじゃない?」

レイナ「ミヨ、そんなこと言ったの?ストレートすぎ!!杉本傷付くわ~!」

 いつものカフェに向かう道中、杉本の話題で持ちきりとなった。 


 いつものカフェに到着し、散々迷った挙句、三人とも期間限定の桜フラペチーノをオーダーし、一口、また一口と味わいながら口に運んでいく。

ミヨ「うん。とっても美味しい。幸せ~♡」

 飲むたびに桜の香りが鼻に抜け、春を感じさせる。三人とも自然と笑顔になる。

レイナ「フラペチーノを味わったところで、次は私の待ちに待ったオカルト話行きますよー!」

ミヨ「レイちゃん、ちょっと待って!サクラも聞いて欲しいんだけどね…その、ちょっと変な話だけど…」

サクラ・レイナ「変な話?」

ミヨ「う、うん。私の夢の話なんだけどね…」

レイナ「うんうん!!!さぁさぁ話して!」

サクラ「どんな話でも受け入れるから安心して、ね?」

 二人の優しさを感じながら、夢の中の出来事を話した。


サクラ「手の中に瓢箪って。夢みたいだけど、夢のモノを持ち帰ってきたことは現実的に証明すること出来ないもんね。不思議…」

 驚いた表情のサクラとは裏腹に、レイナは冷静な態度で分析をする。

レイナ「う~~ん。なるほどね。丁度今日、地元の神社の都市伝説を話そうと思ってたところでのミヨの話。瓢箪に“水”の字に瓢箪6つを合せた紋章と水に関わる神社…。もしかして水無神社のことかも…。」

ミヨ・サクラ「え!?」

サクラ「私たちのクラス4限目が杉本先生の授業だったんだ!丁度その時に〝水無神社”の話をしてた。確か…水無神は(みなしのかみ)と読み、御年大神は(みとしのおおかみ)とも呼ばれていて、私たちの故郷、飛騨高山の水無神社は由緒ある神社だって話だった。」

レイナ「おお!そんな偶然ある?!いや、これは偶然ではなく必然な気がするわ。私の勘がそう告げている!!」

 レイナは興奮状態の自分を落ち着かせ、ゆっくり口を開く。

レイナ「水無神社はね、飛騨の山そのものと言われていて、神々が最初に降り立った場所と伝えられているんだ。水無神、みなしの神、つまり川の神のこと。本当は〝水が成る”という意味なのに、水が無いにされてしまった。つまり言霊封印、言霊の力がすごいから封印してるってワケ。」

ミヨ「言霊…。なんで封印する必要があるんだろう。水成神でいいじゃん?」

サクラ「言霊にチカラがあると仮定すると、封印を施さなければならない理由があった。嘘か本当かは私もわからないけれど、戦争で日本が負ける度に歴史が都合のいいように書き換えられてるって話は祖母から聞いたことあるよ。」

レイナ「さすがサクラ!そうなのですよ!歴史は時代の都合によって書き換えられてる。私が知ってる中では、江戸幕末、明治維新、第二次世界大戦…かな?更には古事記や日本書紀も書き換えられているから、真実には辿り着けないのだよ。」

ミヨ「えっ!?書き換えてる奴サイテーじゃん。じゃあ何?私たちが習ってきた歴史って大半ウソってこと?」

サクラ「残念ながら…そういうことだね。大半かどうかは分からないけど、都合の良い歴史になっているのは間違いないと思う。現に教育方針だって時代によって違うでしょ?」

ミヨ「まるで戦争に負けた国は家畜と一緒みたいに聞こえちゃうよ!」

レイナ「家畜か…奴隷、まぁ植民地みたいなものかな。だからこそ私は真実の歴史に辿り着きたいのだよ!真実の先には私の知らない何かがあると信じているからね!そこに辿り着くには水無神社を攻略する必要があるのさ!ミヨの夢には必ずヒントがある気がするのさー♪」

ミヨ「私の夢にヒントが…。」

レイナ「そうなのだよ。では早速…コホン。瓢箪を見せてくれたまえ。」

ミヨ「レイちゃんごめん。家に置いてきちゃった。ははっ…」

レイナ「えーー!?残念すぎる。見たかった見たかった見たかった見たかったぁ。」

サクラ「だったら今週の土曜日、水無神社へ行くっていうのはどうかな?授業でも水無神社の話出てきたってことは勉強にもなるし、それまでに各自で水無神社の情報収集しよう?ミヨは当日瓢箪を必ず持参すること。」

レイナ「サクラあったまいい~♪勉強にもなるしい~、ミヨの夢の謎も解けるしい~、私のオカルトも捗るしい~♡最高なのだよ~♡」

ミヨ「そうだね!私は瓢箪忘れずに持って行くよ!」

サクラ「今の季節、気候最高だから、桜見ながらご飯食べたいなぁ。皆んなのお弁当作るからね。楽しみにしてて~。」

ミヨ・レイナ「サクラのお弁当最高♡」


 私たちは今週の土曜日、水無神社へ行くこととなった。XDAYの土曜日を迎える期間、できる限り水無神社のことを調べることにした。

 ーそして迎えたXDAY当日ー

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