じーさんず & We are

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#1 剣士で章

#1.4 乾杯

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老人達が無事、旅から戻ってまいりました。もしかしたらもう戻っては来れないかと大変心配しましが、それは残念な結果となったようです。

日も暮れ、やることも無くなった私は夕食にすることにしました。ついでに老人達も同席です。これは、もしかして最後の晩餐、というものでしょうか。それにしてもアッ君はいつまで居座るつもりなのでしょう。昼といい夜といい、これでは食費を請求したくなります。何と言っても、その食べっぷりが尋常ではありません。もっと大魔王を見習って水だけ飲んでいれば良いものを。

心優しい私は、はるばる遠方から転がり込んできた客人を持て成すべく、質より量を重視して食卓を飾りました。一等席には私が、その他の人達はその辺に座ります。

客人がいるからのでしょうか、今夜の大魔王は張り切っています。席を立ち乾杯の音頭をとるようです。私は座ったままです。

「今夜は旧友との再会を祝して、皆様の健康と、その笑顔に、……乾杯」

大魔王とアッ君が一気に飲み干します。勿体無い飲みっぷりです。何故か二人とも、飲み終えても椅子に座りません。どうやら私がグラスに口を付けるのを待っているようです。日頃の教育の賜物です。良く出来ました、二重丸を差し上げましょう。さあ、私も心の中で静かに『乾杯』。

ブハーーーーー。

これは、私が飲んだものを吐き出した時の効果音です。失礼致しました。さて、犯人を探さなければなりません。私の飲み物にお酒を注いだ者、万死に値します。私はお酒が飲めません。飲む気もありません。ですが、つい雰囲気で口を付けてしまいました。

大魔王が醜い顔をアッ君に差し向けて何やら怒鳴っているようです。勿論、そんなことは知らんと老人特有のボケをかますアッ君です。

「おい、アッ君。あれほど酒はダメだと言っただろう」
「まさか、本当に飲めないとは。冗談だと思ったぞ」

まず、お口を拭きましょう。それから、ああ、もう分かりました。犯人はこの中にいるようです。それも直ぐ近くに。私の勘は鋭いのです。

「おい、アッ君。1、2、3で逃げるぞ」
「謝れば良いではないか。ちょっとした悪戯じゃないか」
「それが通じれば苦労は、無い」

成る程。悪戯も過ぎると、それは不快でしかありません。せっかくの私のもてなしを、この様な形でお礼をされるとは思いもつきませんでした。これは、もしかして愉快? なことなのでしょうね。

「おい、アッ君。俺の合図で別々の方向に逃げるんだ」
「どうやら、そうした方が良さそうだな。でも、もし魔法を使うんなら多少の猶予があるだろう、詠唱とかのさ」
「そんなもんは、無い。あれは特別なんだ」
「ああ? もともと、ただの町娘だったんだろう」
「そんなの知るか。とにかくだ、1、2」

どうやら極悪人達がこの場を逃げる算段をしているようです。この『正義』という名の私の眼の前から逃げ切れるおつもりのようです。これは、とてもおかしく、愉快でもあります。ただ一言、謝って下されば良いものを、その非も認めずバックれるなど、笑止千万。もう、謝っても許しませんよ。

「アッ君、今だー」
「おう!」

アッ君が右方向に、大魔王が左方向に走っていきます。それは食後の運動なのでしょうか。まだお食事の前ですよ。もうボケてしまわれたのですか。では、テーブルマナーをお教えしなくてはなりませんね。私は小さく指を曲げて着席を命じました。

「体が勝手に」
「俺もだ」

マナー違反の二人は静かに席に座ってくれました。とても良いことです。子供でも出来ますよ。

「俺がやったんじゃない。アッ君が勝手にやったことだ」
「おい! お前も同罪じゃないか、この裏切り者め」

ご意見はお聞きしました。それでは行儀良く、お食事にしましょう。でもその前に笑顔を添えておきましょう、ニコリ。そしてお食事前の言葉を添えて。

「死んで詫びよ!」

マナー違反の二人は改心し、その場を吹き飛んで行かれました。これで『正義』が正されたようです。しかし、一人での食事はなんとも味気ないものを感じます。できれば皆さんと食卓を囲んで楽しい食事をしたかったと思っています。せめてもの救いとして、あの二人の罪を許しましょう。罪を憎んで人を憎まず、ですね。まあ、生きて再会できれば、の話ですけど。
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