リンダ

Tro

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#3 リンダ

#3.2 貴方を助けるのは私

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左右の国が喧嘩をしているのなら、ここは中立ではないのか。それとも隣に行く次いでというところだろうか。穏便で平和主義の俺としては甚だ不満だが、それをここで主張しても始まらない。窓際ということもあり何時とばっちりを受けるやもしれない。いや、既に受けているな。

ここから見える空は晴天とは言いがたく、俺の気持ちのように濁って見える。さっき迄の爽やか野郎の俺とは違ってショボイ空模様だ。晴れてはいるが煙っている。

こんな感じで空を眺めていると戦闘機が一機、兵器関連の知識に乏しい俺にはA-10・サンダーボルトの様に見えるが、多分、見間違いだろう。それが頭上に飛来し、ハードポイントから何かを投下していった。それで俺を吹き飛ばすつもりなのだろうか、飛来物はどう見てもこちらに向かって落下しているように見える。それが途中でドカーンと炸裂すれば漏れなく俺もドカーンだ。だがここから動く事は出来ない。時間的に言ってリンダの登場時間ではあるが、それはリンダ爆弾という意味だったのかしれない。どっちの爆弾をプレゼントされたいか、俺は正しい選択をしたのだろうか。

爆弾だと思われたそれは投下後、直ぐにパラシュートを開いて落ちてくる。が、パラシュートは見掛け倒しなのか、凄い勢いで落ちている。オリバーにしておけばと後悔したが後の祭りである。爆弾は俺の目の前を通過しズドーンと地上に命中。だがなんだ、爆発しない。一瞬、肝を冷やしたが、それを見守るなか爆弾だと思われたそれに手足が生え立ち上がった。

それは、フフ、笑ってしまいそうな程、不格好な代物だ。一言で言えばロボットのようなのだが、ドラム缶の胴体、角材のような長方形の手足、バケツをひっくり返したような頭部である。大きさは推定2m位の身長とでもいうのか。

さて、そのロボット。果たして俺の敵か味方か。これが保険会社の言っていたリンダなのか、どう確かめたものか。それも相手は人間ではないし俺の想像とも全然違う。それともロボットの中に人がいて、その外見は鎧のようなものかもしれないが、見ているだけでは分からない。そこで、それに声を掛けてみることにした。

「おーい、オリバー」

叫ぶとロボットがこちらを見上げた、ような気がするが、それ以上の反応はない。ツレないロボットのようだ、それとも中身の人間の問題か。

「こっちに来い、リンダー」

大きな声で呼びかけると、散歩の途中でご主人様に置いて行かれた犬のような顔をして俺を見上げている、ような気がする。どうやらリンダで間違いないようだ。そのリンダ、建物の中に入ろうとしているようだが、いかんせん図体がデカくて入り口でつっかえている。ロボットなら飛んで来れば良いものをと思うが、そこまで空想科学の賜物ではないようだ。

だがだ。リンダが入り口にアタックする度に、その振動が伝わってくるではないか。頑張っているのは認めよう。しかし建物の強度に問題があるようで、その頑張りは却って危険な行為である。気のせいか足元がミシミシと音を立てている気がするのだが。

リンダは壊れた機械のように入り口アタックを止める気はないようだ。折角呼び寄せた援軍が仇となる、まさしくそう思った時、俺を支えていた小さな床が砕け、その勢いで落下してしまった俺である。さようなら皆さん、俺は良い子でした。

俺は5階から4階に落ちただけのようだ。その証拠に見覚えのあるテレビが壊れて転がっているのが見える。地の奥底まで続く大穴かと思っていたのが、5階の床が抜けただけのようだ。その代わり4階の窓方向の壁が無く、大変風通しが良くなっている。これはまだ俺に『生きろ』との運命なのだろう。それともただの偶然か。まあ、そのことは後でゆっくりと考ることにしよう、覚えていればだが。

4階の部屋の住人は、幸いなことに居なかったようだ。だが逆に考えると俺に狙いを定めて不運が襲ってきたとも言える。まあ、それも後で考えることにしよう。どうせ周りは荒れ果てた状態なので、ここで念願のドアを蹴破る、という滅多に出来ないことをして自力で階段を降る。途中、誰とも出会わなかったのは、既に避難ずみという事か。それとも俺だけが取り残されたのか。受付のカウンターにも人影はなく、せっかく宿泊料を支払う気満々だったのが削がれてしまった。

1階の入り口では相変わらずアタックを続けるリンダだ。自分の体の大きさが把握できていないせいだろう。それともセンサーらしきものが故障しているか、中の人が単に馬鹿なだけなのかもでしれない。いや、馬鹿と言ったのは言い過ぎか。正常な精神状態であれば紛争地帯にわざわざ足を運んではこないだろう。多分、恐怖心に打ち勝つために馬鹿な振りをしているだけなのかもしれない。まあ、そんな事も後で考えよう。

「リンダ、俺はここにいる。だからもう入って来なくていい」

俺の声が聞こえたのだろう、リンダのアタックは止んだようだ。だが動かなくなっただけで、デカイ図体が入り口を塞いでいる。これでは外に出ようがないではないか。それとも動作の一つ一つを指示しなければならいのか。

「リンダ、下がってくれ、俺が外に出る」

リンダが指示通りに下がっていくが、瓦礫なのだろうか、何かを踏みつけるような音がバキバキと聞こえてくる。そうして半壊したドアを通って、やっとリンダとご対面である。

「ああ」

目の前に突っ立っているのは紛れもなくロボットである。見上げる程の高さと、『ああ』としか言いようのない不細工だ。何かを期待してガッカリしている訳ではない。呼び名と実態がかけ離れている事例はいくらでもあるではないか、と自分を納得させている訳でもないぞ。

「リンダだな。お前を呼んだ圭一けいいちだ」

ロボットは無言で無動作である。俺の呼びかけに『……』と表現したいところだが、上から見た通りバケツをひっくり返したような頭に、目と鼻、そして口がマジックで描いてあるだけのように見える。これが瞬きしたりしゃべったりしたら、それはそれで気持ちが悪いだろう。もしかしてその頭はヘルメットとか何かなのだろうか。まあ、取り敢えず俺の言うことは理解できているようなので良しとしよう。

だが折角呼び寄せたものの既に用済みである。これは降って落ちて来たわけだが、返却はどうしたものだろうか。まさか打ち上げて返すわけでもあるまい。多分、自分で歩いて帰るだろう。

そんなことよりも通りには誰も人が居ないようである。どこかで避難警報を聞き漏らしたのだろうか、異国のことなのでさっぱりである。

「あ~、リンダ。来て貰って申し訳ないが危機は去ったので、もう引き取ってもらって構わないのだが」

ロボットは俺の言い分に不満なようだ。無言の無動作、序でに無表情で俺に抗議しているように思われる。これが無抵抗主義というやつか。しかし仕事は終わったのだから多少は喜んでくれても良さそうではないかと思うが、習慣が違えば考え方も違うのかもしれない。なら、受領の意味を込めてどこかにサインでもすれば気がすむのか。得体の知れない機械とコミュニケーションするにはどうしたものだろう。

「あんた、ロボットだろう? それともアレか、それは鎧とかボディースーツの類なのか?」

ダメである、全くの無反応だ。ならばとボディーランゲージを試みるが、それでも無反応。せめて首を傾げるくらいしてくれないと俺がアホのように見えるではないか、誰も居ないけれど。

但しこれで判明したことがある。これは着ぐるみのような存在ではなく確実に機械、ロボットであることだ。いくらなんでも無反応すぎるのは、もしかしてバッテリーでも切れたのかもしれない。その確認の意味も込めて一発、ガツーンと食らわしてやることにした。

早速、ドラム缶のようなボディーに俺の右ストレートを入魂、その結果、俺の完敗である。込めた力がカウンターとなって俺に跳ね返り、後悔するばかりとなった始末だ。

「痛っテー」

誰も居ないので少々大袈裟に叫んでしまったかもしれない。これで世間の冷たい視線の存在意義を改めて知った俺である。が、ロボットが急に動きだしたではないか。多分、反撃するつもりなのだろう。ロボットの両腕が上がり、俺は両脇をガッツリと掴まれてしまった。これはマズイ。このパワー、この動作、俺を生きた人間として、しっかりと認識しているのだろうか? その力で何かされたら俺はイチコロである。せめて手加減なるものを理解していることを祈ろう。

ロボットは俺を持ち上げ半回転するとバケツ頭を俺の頭に近づけてくる。これはもしかして頭突きをしようというのか? え?

そ~の時である。ロボットの背後に瓦礫のようなものがガシャンドシャンと当たり、バケツ頭が結構、凹んだようである。これはまさか俺を落下物から救ったというのか。ロボットは俺を下ろすと、また直立不動で止まっている。但しその表情は何とも言い難いものだ。もう顔の要素が皮肉れていて、どれが何んなのか判別不能である。もしここにマジックがあれが俺が芸術的に描いてやったことだろう。

「有り難う、リンダ。お陰で助かった」

礼は言ったものの相変わらず微動だにしないリンダである。その体と同様、態度も堅そうだ。

◇◇

さて、これからどうしたものかと思案していると車のクラクションをしつこく鳴らす輩がいるようだ。先程、周囲には誰も居ないと言ったが、人だけではなく路上を走る車も無い。まるで休日のビジネス街のようなのだが、そんな状況で下品なクラクションを鳴らすのは『誰じゃい』と睨んでみると、例の厳つい顔をした男がその車から手招きをしているではないか。

決して心細い思いをしていた訳ではないが、その男に吸い寄せられように、俺の体は勝手に動き出した。そう、吸引力が凄いのだ。

「乗れ」

男も相変わらず厳つい顔のままだが、今回は合言葉の照合は無いようだ。まあ、そんな場合ではなかろう。車のドアを開け乗り込もうすると「荷物は後ろに乗せるといい」と付け足してきた。はて? 荷物とは何のことだ。手ぶらを生き様とする俺に何の荷物があるというのか。その戸惑いに気づいたのか更に「あれは、あんたの『もの』だろう」とリンダを指差している。

あれを『もの』扱いしてよいものかどうか疑問だが、それよりもまず俺の『もの』ではない。強いて言えば一時預かり程度だろう。関係はあるが『もの』として所有している訳ではないのだ。だが、このまま放置したら何年でもその場に居座るような気がしてならない。オマケに男が乗ってきた車はピックアップトラックである。まるで荷台にリンダを載せるために来たと言われたら信じてしまうところだ。

「リンダ、車の荷台に乗ってくれ」

ここであーだこーだと考えている暇はないだろう。それに、俺の礼には無反応だったのに声をかけた瞬間、何故か嬉しそうな表情で動き出したと、そう見えたのだから仕方がない。

リンダは荷台に、俺は助手席に乗って車は走り出した。雑然としてはいるが、ほぼ無人の街を疾走する。因みに助手席は右側である。

「どこに行くのだ?」

移動を始めたのは良いが行き先が分からないのでは話にならない。厳つい顔の男は運転に集中しいているのか前を向いたままだ。それはそれで結構だが。

「空港に向かう。多分、無駄だとは思うが」

「無駄なのか?」

「俺の仕事は、あんたがここを出国して終わる。何時までも居て貰っては仕事が終わらない」

俺の質問には答えなかったが、男がこんなに長く話したのは初めてである。何か余裕の無さを感じたのは、ただの気のせいだろうか。

振り向けばリンダは荷台に腰を下ろしているが、何故か空をぼんやりと眺めている、ように見えたのはただの気のせいだろうか。

男の言う『無駄』の答えではないが、空港が見えるところまでは来たところで、その先から大渋滞である。思えば街を抜け開けた場所を通り過ぎた辺りから、人が、車がどっと湧いてきていた。交通ルールも何のその、我先にと割り込むものだから余計に渋滞が激しい。これでは歩いた方が早く着くかもしれないというお決まりのコースだ。

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