リンダ

Tro

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#3 リンダ

#3.3 通り魔

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結局、車を放置して歩くこと2時間。やっと空港に辿り着いた俺達だ。リンダはどうしたかって? 勿論、連れてきた。こんなところで盗まれでもしたら大事であるが、あれを盗もうという酔狂な者はいないだろう。それよりも不格好なロボットである。その歩調に合わせたため余計に時間が掛かったというものだ。元々歩いて移動することなど考えられていなかったのだろう。こいつを作った奴に会うことがあれば、次はタイヤでも付けてくれと言いたい。

空港に着いたものの中は人だらけである。それも動きがなく、その場に立ち尽くす人達で賑わっている。原因は全便欠航という大盤振る舞いのせいだろう。これで男の言っていた『無駄』の意味を理解したところである。

リンダを連れ歩いて注目されないのかという疑問が湧くだろうか。しかし今はそれどころではない。空港内のテレビによると、正確にはそれを見た厳つい顔の男の解説によると、隣接する国同士が戦争を開始したため、当然、航空機はお休みである。それでも空港に人が集まったのは、この国からの脱出を試みようと取り敢えず来てみた、というところか。そんな訳で皆、殺気立っているので、おかしなロボットの1体や2体、気にしている余裕は無いのである。

「あれを見ろ」

男がテレビを指差しているが、その前に騒然とした人々の声で、ただならぬ状況であることが察せられる。ところでテレビを見ても音声が聞き取れる訳ではない。よって字幕が出ているのだが、いかんせん読めない文字である。そうではあるが百聞は一見に如かずである。あれは?

テレビ画面が四分割になり、それぞれ光る柱のような物が映し出されている。かなり遠くから撮影しているようだが、それが地上から遥か上空まで伸びている。それは何処かで見たような記憶のあるものだ。

「あれは何かの自然現象なのか」

男に聞いてみたが返答が無い。それどころか口を大きく開けて驚いている様子だ。ぜひ解説を頼みたいところである。

「あの柱で周囲を囲っているらしい、なんてことだ」

やっと解説らしいことを聞けたのだが、その後は堰を切ったようにベラベラと語り始めたではないか。その方が俺にとっては驚きだ。

男が言うには三国を囲むように光の柱がその四隅にあるそうだ。その一辺は2000Kmにもなるという。ここで位置関係を説明しておこう。地図上で三つの国をそれぞれ左からA、B、Cとしよう。国名は色々と支障があるので伏せておく。今、俺達がいるのがB国だ。そしてA国がC国に対して宣戦布告。真ん中のB国は俺と同様、どうしたものかと思案中だ。で、そのABCをそっくり囲むように、その四方に光の柱が急に出現し聳え立っている、という訳であ~る。

だがそれがどうした、というのが俺の感想だ。柱の一本や二本、大目に見てやれば済むこと。それとも何か特別な意味でもあるのか。もしかして異星人の仕業とも考えられる。そうなると地球侵略ではないか。そうであれば戦争なぞしている場合ではない、地球防衛軍の出番である。

「ここで待っていてくれ」

俺の返事も聞かずに、人の群れの中に紛れ込んでいく男である。ここで俺が「嫌だ、俺も付いていく」と抗議したらどうするつもりなのだろうか。

俺の隣では、呑気に立っているリンダだ。大きな欠伸をしながら退屈している、ように見えるのは気のせいだろうか。

暫くして男が戻ってきた。言われた通り一歩も動かなかったぞ。

「船でこの国を出る。海上なら囲いを抜けられるだろう」

どうやら作戦変更のようだ。囲いとは例の柱のことか? 柱にぶつからなければ済む問題ではないのか、といろいろ考えたが此処でじっとしているよりはマシだろう。

「それと仕事の内容が変わった。あんたを国まで送り届けることになった」

この国から俺を追い出すことは諦め、同行したいらしい。まあ、良かろう。だがそうなると長旅になりそうである。何時までも男、または厳つい顔と呼んでいては面倒だ。

「ところで名前は何と言う、俺は圭一けいいちだ」

「俺は……ジョンだ、ケイ」

何となく歯切れの悪い返答だ。まるで今思い付いたような様子だが、それは良いだろう。詮索しないのもビジネスだ。ところで俺は『ケイ』ではないぞ。

「俺は圭一けいいちだ。それとこっちのロボットはリンダ」

折角訂正している最中だというのに、ジョンは既に行動を開始し歩き始めている。良いだろう、ビジネスはスピードも大切だ。ジョンの後に続く俺とリンダである。



乗ってきた車に戻るのに同じく2時間、ではなくその半分の1時間で済んだ。その理由はなんといってもリンダである。行きと違い足取りも軽く人が歩くのと然程さほど変わらなかったことだ。何故か終始ニコニコとしていたような気がしたが、多少、下り坂だったのが影響したのだろう。

車は渋滞を抜け川に沿って走っている。このまま行けばいずれは海、その港に着くだろう。そこから船となれば帰国まで相当時間が掛かりそうだ。だが急ぐ旅でもない。次の仕事が待っているかもしれないが、それは帰ってからのお楽しみだ。今は無事に帰ることだけを考えよう。

ところで、このまま行くとリンダをお持ち帰りすることになってしまう。それでは保険会社もまずかろう。そこで保険会社と今のうちに連絡を取っておこうと思い立った。

「ジョン、携帯を貸してくれないか」

「どこと連絡するつもりだ? 会社か」

何と無く俺がどこかに連絡するのを嫌がっている風にも感じるが、それはつまり、連絡を取られては『まずい』ということのなのだろうか。

「いや、保険会社だ。後ろのアレを返そうと思うのだが」

「それなら問題ない。届けるのはケイの『もの』も含まれている」

「いや、アレは俺の『もの』ではない、」

俺が言いかけたところで車が減速を始めた。それは港に通じる道が人で溢れていたからだ。恐らく飛行機がダメなら船、と考えるのは皆同じなのだろう。

「安心しろ、会社とは確認済みだ」

ジョンの言う『会社』とは俺の会社のことなのか、それとも保険会社のことを言っているのか、はたまた勘違いしているのか問い質したいところだが、人混みを避けるのに忙しそうである。仕事の邪魔をしないのが俺の信条であるが故、ここは後で確認するとしよう。

それにしても人が多いことだ。これでは難民のようではないか。これ程の人が皆、船に乗れるものなのかと心配するところでもあるが、その人の群れが急に我々の進路を開けるように散っていく。別にクラクションを鳴らしたり怒鳴り散らしている訳ではない。多分、先を急ぐ車を優先させようと、気を利かせてくれたに違いない。

そう思い感謝していると前方から戦闘機らしいのが単機で飛んでくる。それもかなりの低空飛行である。俺も間近で戦闘機を見るのは初めてだが、どうやら、それのせいで、俺達の前を開けてくれているのではなく避難している、というのが正解らしい。実にタイミングよく紛らわしいものである。

戦闘機なので、一瞬で轟音を残して俺達の前を通過しただけである。それにしても戦闘機が飛び交うなど、平和ボケした俺には理解しがたいところでもある。あんなものに狙われたらイチコロであろう。しかしである。飛び去ったはずの轟音が何時までも耳に残っているではないか。何かがおかしい。そう思っていると後方から何やらシューという空気が抜けるような音が聞こえてくる。振り返ってみると何かが飛んでくるような、それもこちらに真っ直ぐとな。

ジョンが急に車を左寄せすると、その後方、右側で爆発が起きた。直撃しなかったとはいえ凄まじい衝撃と爆風が俺達を襲う。車はヨタヨタと道を外れ、外れ、外れ、川に飛び込んでしまった。ああ、なんてことだい。
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