リンダ

Tro

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#6 綺麗な夕日の果てに

#6.3 橋の向こう

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リンダを荷台に載せ、これからの行動を考えている最中の俺達である。リンダについては、まるで死後硬直したかの状態なので、とても後部座席に乗せることが来なかった次第だ。

俺達は現在、C国の南端に居るわけなので、船でも乗らない限りこれ以上、南に進むことは出来ない。その港に居ても船どころか人ひとり、猫一匹も居ない状態だ。西に向かうのは論外として東には大きな川、と考える余地が無いほど北にしか向かう方角は無さそうである。

そんな具合でジョンとあーでもない、こーでもないと話し合っていると、急に辺りが暗くなってきたようである。日没にはまだだいぶ時間があるはずなので、雨でも降り出すのかと思いきや、日食のように空が暗くなってきている。これが放射能の影響であればお陀仏である。天の気まぐれであることを祈ろう。

「ジョン、今日は日食の日なのか」

「さあ、どうだろう」

考えてみれば何かとジョンに聞いている俺である。しかし自分で調べることが出来るのならそうしている。今の俺に出来る事といえば占いぐらいのものだろうか。

それにしても不気味な空模様である。それは、まるでこの世の終わりを告げるがごとき、占いでは『凶』と出た、ようなものだ。そこで天気予報でもとテレビをつけるが、肝心な時に限ってという具合に何も映らない。そこで仕方なくラジオである。こちらの方は雑音が多いが何とか聞ける状態である。但し俺には理解不能ではあるが。

ラジオに聞き入るジョンでだが、肝心の空模様どころか暫く音楽が鳴り続けているだけである。その間に俺は車から降り、荷台に横たわるリンダにシートを被せてやる。雨模様の空ではないが、そのまま野ざらしで濡れてしまっては忍びないものだ。そしてまた座席に戻ったところで、ジョンの提案で取り敢えず北に向けて出発である。

◇◇

昼間ではあるが車のライトを点けなければならない程の暗さである。津波で荒れた道を器用に避けながら突き進むが、背後に聳え立つ光の柱は、その呼び名とは裏腹に周囲を照らしてはくれない。役立たずで厄介な代物だ。

一番近い橋に近づいただけで渋滞が発生している。待てば何時か通れると考えているのだろうが、それが何時になのかは誰にも分からない。多分、せき止めている役人も分かってはいないだろう。その渋滞を避けるために川沿いの道は避け、一本内側の道を進んでいく。

橋を通過した辺りでラジオが何かを言っているようである。特売情報だろうか。それに聞き入るジョンである。

「いい知らせか、ジョン」

「そうだな、橋が渡れるらしい」

「なら、戻ろう」

「いや、どうだろう」

「その心は?」

「心? パスポート番号の末尾一桁が7以上なら通れるらしい」

「宝くじか」

身体中のポケットというポケットからパスポートを探す俺である。無いはずはない。どこかにお隠れになっておられるはずである。そうそう、あったでござる。

「ああ、俺の番号は、ゼロだ。これは7以上だよな」

ジョンが今、鼻で笑ったような気がしたのは気のせいだろう。9の次が0ではないのか、そういう理屈は通らないのか?

「俺のは8だ」

ジョンは取り出したばかりのパスポートをサッと元に戻してしまった。さあ、どうしたものか。ジョンだけ出国させるか。それとも俺のゼロを偽造するか。だがそれがバレた場合、二人ともアウトだ。仕方あるまい。

「ジョン、お前だけ、」

「このまま先に行く」

これで最初の橋は通過である。これ以上の問答は不要だろう。ジョンの決定に従うまでである。

◇◇

次の橋までにはだいぶ距離がある。それもそうれだろう、橋の向こうは異国の地である、そうそう幾つも橋は架けられないだろうが。

二番目の橋も同様で封鎖された状態である。その付近を通り過ぎた辺りでジョンがラジオのボリュームを上げた。

「ジョン、いい知らせか」

期待に頬を膨らませる俺である。胸ではないのかと問われても俺がそこを膨らませて誰が喜ぶというのだろうか。

「良いかどうかは分からないが、暴動が起きたらしい」

暴動と聞いて良し悪しを問われれば、それは間違いなく『悪』であろう。ということは更に聞かねばならないようだ。

「それで」

「最初の橋で検問が突破され、人がなだれ込んでいるらしい」

「それで」

「うまくすれば、それに乗じて国境を越えられるかもしれない」

「それを先に言ってくれ。行こう、俺達も混ざるんだ」

「そうだな」

車をUターンさせ、最初の橋まで戻る俺達である。この不気味な空模様に平静を保っていられる者は、そうそう居ないだろう。俺でさえガタガタ震える程だ。

◇◇

最初の橋に到着である。暴動があったという割には人の数が少ないような気がする。もしかして既に鎮圧されてしまったのかしれないが、それでも橋を渡ろうと走っている人達は居る。ここは行ってみるまで分からないだろう。車道を突き進むと検問所が見えてくる。そこを塞ぐ人影は、無いようだ。ゲートも開いている。そこをゆっくりと通過、晴れて出国し隣の国に入国である。

「イヤッホー」

冷静沈着な俺であるが思わず奇声を発してしまったようだ。それと同時にジョンの口元も緩んでいるように見えるではないか。そう、ジョンの分も俺が叫んでやったのだ。

車はそのまま直進し、ビル街を抜けると直ぐに道の左右が開けてきた。その先は俺達を迎え入れるように真っ直ぐな道が続いている。暗くて周囲はよくは見えないが、俺にとっては異国情緒たっぷりの風景のはずだ。やっと自由な、そして安全な国に辿り着いた俺達である。

「ジョン、あとは」

よく見えもしない風景に見とれていた俺がジョンに振り向くと、ナンテコッタイ。そのジョンが『居ない』。

「ジョン!」

驚いてばかりではいられない。車のハンドルを握り、なんとか運転席に移動、脱輪寸前で車を止めることに成功。

まず、後部座席を見たがジョンの姿はない。それに運転席のシートベルトは閉められたまま、窓も閉じている。ドアのロックも橋を渡る前に確認したばかりだ。まさに走行中に忽然と姿を消したことになる。これは、これが神隠しなのか。

急いで車を降り、荷台のリンダを確認する。シートを退けて、とその前に手と体の震えが止まらない。もしそこにリンダも居なかったらと思うだけで、それ以上は考えられない。呼吸を整え、せいのーでシートを引っ張ると、リンダが居た。

車に戻り、Uターン、今来た道をゆっくりと戻る。どこかでジョンが落ちていないか注意深く探す。幸いなことに車は一台も走って来ないので、目を凝らすことが出来たが、それも無駄に思えてきた。それは走行中に転落したとは思えないからだ。

くだらない事だがパスポート番号の話が頭にこびり付いて離れない。ジョンだけ何処かを通過でき、ゼロ番の俺と番号を持たないリンダが取り残された。そんな馬鹿な、と思いたいが、現にジョンは居ない。これはとても説明できる出来事ではないだろう。

そのまま暫く車を走らせたが、何故か渡ってきた橋にたどり着かない。もう十分な距離を走ったはずである。そこでナビを見ると、まあ、海の上を走っていることになっている。どうやらナビもイカレてしまったようだ。

ジョンが居なくなってしまったのは、どうすることも出来ない。ここで嘆いても仕方がないだろう。取り敢えず、また車をUターンさせ、元の進路に戻る事とする。ジョンがどこに向かおうと考えていたのかは聞きそびれてしまったが、とにかく北に向かえば良いだろう。南に行けば多分、また海に出るだけだ。このまま進み、どこかで左折すれば北に向かうだろう。頑張れ、挫けるな俺! である。

車を走らせ十字路のある場所を左折、そのまま直進。時間的には真夜中になる頃である。昼間の暗さとは違い、正真正銘の闇である。本当の夜に安堵する日が来るとは夢にも思わない大冒険である。

その道の左側が草原のように開けていたので、そこに入り込み休憩である。そろそろ心と体を休める必要があるが、その前に明日のことを考えなくては落ち着いて寝ることも出来ない、しっかり者の俺だ。

ジョンが見ていた地図を広げると、空港はまだ先である。そこから一気に高飛び出来れば御の字である。リンダは適当に箱に詰めれば送れるだろう。もし中身を見られたら大事とか、騒がれることに成るかもしれないが。

ということで計画は出来た。あとはゆっくりと休み、明日に備えるだけである。おっと、その前に空腹である。何か食べておこう。

一人では寂しいので、荷台に乗り込み、リンダの顔でも拝みながら食べることにする。見上げる夜空には星が、星が一つも見えないが、まあ良いだろう。

ジョンの事はもう考えないようにしている。どうにも出来ない事を悩むのは、相当に疲れる事である。多分、ジョンも分かってくれることだろう。闇雲に探して見つかるものではないはずだ。なにしろ神隠し級の問題である。俺の占いでも探し当てるのは不可能だろう。

さて、食後の後は早めに寝るとしよう。隣のリンダは鼻息をしていないが、どこか上の空の顔をしている気がする。

なあ、リンダ。俺を襲ったりしないでくれよ、潰されたら息が出来なくなりそうだからな。では、お休み。
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