ケイコとマチコ、ときどきエリコ

Tro

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#13 学ぶ風

#13.6 受け継ぐ風

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「ただいまー、おかあさーん」

自宅に帰った女の子です。玄関が閉まっていたので鍵を開けて入りましたが、それでも一応、呼んでみたようですが本当に誰も居ないようです。それで、「肝心な時に居ないなんて、大変なんだから」と呟きながら、「どうぞ、遠慮なく入って」と自分の頭上に居るケイコたちに声を掛けました。それに、

「既に入っているのじゃ。お主、アホなのか」のケイコ、
「性格悪いわねー。これだから『お婆ちゃん』は苦手なのよ」と呟く女の子です。

そうして家中を歩き回り、「本当に居ないんだ、困ったなー」と呟き続けた女の子は、諦めてリビングのテーブルに自分の荷物を置きました。そして、「適当に座って、待っててくれる?」と言ったものの、その時には既に女の子の頭上からヒラヒラと飛び立っていたケイコたちです。そうして部屋から出て行く女の子、ソファーの上でピョンピョンと飛び跳ね始めたケイコたちです。

そこに、女の子と入れ違いに子犬が浮かれながらケイコたち近寄って参りました。早速、臨戦態勢に入ったケイコ、シャーっです。ですが、ケイコの制止も聞かず、マイペースの子犬はケイコたちの居るソファーによじ登り、ドテッと寛ぎ始めたのでした。

「こら、犬さんよ。私らの邪魔をするでないぞ」とケイコが注意しても動じない子犬です。そこに、またプルプルになっているエリコが、

「ちょっとぉ、邪魔なのよ、ねぇ」と震えながら言うと、ピクッとしてソファーの端に移動した子犬、それでエヘンのエリコです。

その威力に驚くケイコ、そう、(これではまるで『マチコ』そっくりではないか。いつの間にそんな技を会得したのじゃ。もしかして、本当に女王様なのかい?)と、ここには居ないマチコにヤキモチを焼き、一気に位が下がったケイコ、瀬戸際です。

そこに、小さな人形を持った女の子が部屋に入ってきました。その手に持つ人形は、ちょうどケイコと同じくらいの大きさでしょうか。でも、かなり古そうです。そしてそれをポンっとテーブルに置くと、どかっとソファーに座り、ケイコたちのことは見ずに話し始めるのでした。

「お婆ちゃんがね、言ってたのよ、妖精さんを見かけたら家に招待しなさいってね。あっ、でもそれって、お婆ちゃんじゃなくてね、そのお母さん? そのまたお母さんだったかな。
とにかく、昔に妖精と出会って、その妖精さんを家に招待したらしいのよ。
それでね、なんでも、もし妖精さんが家に来たらね、それでね、もし、お友達と一緒だったらね、これを渡す約束をしたとかなんとか。だからね、それがね、代々受け継がれてきたって訳なのよ」

一気に話した女の子はこれで全部、言いたいことは言い切った、という感じで一息つくのでした。もちろん、(何か言ったかのう)のケイコ、子犬に睨みを利かせるエリコです。

そんなケイコたちの態度に、「ねえ、聞いてる?」と大きな声で注目を集める女の子です。それに、

「もちろんじゃ、聞いておるぞ」のケイコ、サッとケイコの後ろに隠れるエリコです。

「だったら、ほら、ここに来てよ」とテーブルをトントンと叩く女の子、(仕方ないのう)とテーブルにブーンと飛び乗るケイコでしたが、

「そっちの、ちっちゃい女王様も一緒に」と追加注文する女の子です。それに、
「ほう、一度に言わんか」と、またソファーに戻り、エリコの手を引いて戻って来たケイコです。

そうして、テーブルの上に立つケイコとエリコの前に、ケイコと等身大の人形をスッと滑らせた女の子です。

「これをね、あげることになってるのよ、うちでは」の女の子に、
「ほう、これかね」と、ジロジロと観察するケイコです。そして、「うむ、ちと持ち帰るには大きすぎるようじゃ。すまんが家に届けてくれんかのう」と配達を要求しました。しかし、

「あっ、勘違いしなでよね。この人形じゃなくてね、この、これよ、こっち」と人形が肩から下げている赤いバッグを指差す女の子です。

「なんじゃ、それなら持っておるぞ、ほれ」と自分のバッグを見せびらかすケイコに、
「違うわよ、こっちの、ちっちゃい女王様の方よ」と視線をエリコに向ける女の子です。
「んん? エリコのじゃと」
「そう、あなたはもう持ってるから、いいでしょう?」
「まあ、それもそうじゃな。良かったではないか、エリコや」

注目が集まったエリコは、それでもケイコの後ろに隠れていました。そこで女の子は人形からバッグを取ると、「はい、どうぞ」とエリコに差し出しましたがモジモジのエリコです。そこで、

「ほれ、エリコや。贈り物は素直に貰っておくと良いぞ」と催促するケイコです。それで漸くバッグを受け取ったエリコです。それをエリコに掛けてあげるケイコですが、バッグの紐が長すぎて底がテーブルについてしまいました。それを見た女の子は、

「そうよね、長いよねー。どうしよう~、ちょっと待ってね」とエリコが下げているバッグをジロジロと見つめる女の子です。そうして何かを見つけたのでしょう、「うわー」と声を上げると、キュッとバッグの紐を短くしたのでした。

どうやらバッグの紐は、長さが調節できるようになっていたのでしょう。そんな器用な作り手に、(流石は、お婆ちゃんのお婆ちゃん? だわ~)と感心する女の子です。

これでピタリと決まったエリコは、しげしげと自分の物となったバッグを嬉しそうに見つめるのでした。そんなエリコに、

「エリコや。こういう時は礼を言うものじゃぞ」とさとすケイコです。そこで顔を上げたエリコは、

「気に入ったぞ。これからは、私に尽くすが良い」と女王様気分のエリコです。すると、それに合わせるようにペコりと頭を下げた女の子は、

「喜んで頂き、私も嬉しいです」と言いながら笑ってしまうのでした。

◇◇

エリコの新しいバッグで盛り上がったところで、

「では、帰るとするかのう」と、用が済んだら長居は無用のケイコ、それに慌てた女の子です。

「ちょっと待ってよね。このままじゃあ、どうしよう、お母さん、戻ってこないし……」と困り始める女の子です。それは、妖精を招待したということを母親に説明出来ないと思ったからでしょう。でも、いつ戻るか分からない母親、今すぐにでも消えてしまうかもしれないケイコたちです。そこで、「ちょっと待っててー」と言いながら部屋を出て行きました、ドタドタです。

そしてカメラを携えて戻ってきた女の子です。

「ちょっと、写真撮らせてよ」と言いながらケイコたちにカメラを構えます。そして、「大丈夫、魂は取られないから」の女の子です。そうしてファインダーを覗きながら構図を練っていきます。それに、

「こうかのう」とポーズをキメるケイコとエリコです。
「もっと寄って、そうそう。それで、バッグが見えるようにね」と注文をつけると、パシャリと写真を撮っていきます。

そうして撮った写真を確認すると——、残念ながらケイコとエリコは写っていなかったのです。それに、エリコが下げているバッグも写ってはいません。これに、「なんでよー」と大声で悔しがる女の子ですが、その後、何度パシャリとしても写らないものは写らないようです。

そこで、バッグだけをテーブルに置くと、そのバッグだけは写真に写るという、厄介な現象に悩まされる女の子です。

そんな女の子にはお構いなく、「もう帰るとするのじゃ」のケイコです。そこでバッグを手に取ったエリコは、序でにバッグを開けてみることにしました。それは、少しだけバッグが膨らんでいたからでしょう。そうして開けてみると、中は紙切れが入っているだけでした。それで少し、というか大いにがっかりしたエリコです。その紙切れを、「ふんっ」といった感じでケイコに押し付けてしまいます。それに、

「ん? なんじゃ、エリコや。うん? どうやらハズレのようじゃな」と紙切れを受け取ったケイコは、それをポイっと放り投げてしまいます。そして自分のバッグからビーズ玉を取り出すと、「ほれ、これで大当たりじゃ」とエリコに手渡しました。すると、そのビーズ玉の輝きと一緒に目を輝かせるエリコです。

「大事にするのじゃぞ、エリコ」
「うん!」
「では、帰ろうかのう。娘さんや、ドアを開けてはくれんか」と、写真に写らないことを気に病んでいる女の子に声を掛けるケイコです。それに、

「はあ、もう行っちゃうの? もう少しだけ、お願い」と頼みますが、
「また、来るでの」と断るケイコ、よその家では落ち着かないのでしょう。

仕方なく玄関に向かう女の子です。そこで、エリコと手を繋いで飛んで行こうとしたケイコですが、その手を拒んだエリコです。それではまだ、ここに居たいのかと思いきや、ソファーで繕いでいる子犬に何やら合図を送ったような。すると、サッとテーブルの下に降りて来た子犬です。

その様子を見ていたケイコは、これから何が起こるのじゃ、と思っていると、

「自分で行ける」と言った途端、テーブルから子犬に向かって舞い降りるエリコです。そして子犬の背中に乗ると、スタスタと玄関に向かうのでした。置いて行かれたケイコは、「待ってよー」と後を追いかけるのでした、ブーン。

玄関でドアを開けて待つ女の子は、子犬に乗ってやってくるエリコに驚いた様子です。それは自分に余り懐いていない子犬がエリコと仲良くしていたからでしょう。自分が帰宅しても出迎えなんかしたことのない子犬なら、尚更といったところでしょうか。

玄関から外に出たケイコたちです。そこで子犬から降りたエリコと手を繋いだケイコたちは、女の子に向かって手をフリフリです。

「ねえ、また会えるかな」

しゃがんでケイコたちに手を振る女の子に、

「気が向いたら」のケイコです。そして、その手に風を掴もうとしましたが、「面倒だから、このまま帰るのじゃ」と言うと、ケイコとエリコの姿がスーッと消えていくのでした、バイバイです。それに、

「あああっ」と言いかける女の子とキャンキャンと吠える子犬がケイコたちを見送りました。それは、ついさっきまでケイコたちが、そこに居たとは思えないくらい、あっけない出来事のように感じた女の子です。



一瞬で自宅に戻ってきたケイコとエリコです。それを待っていたかのようなマチコです。

「無事に戻って来られたみたい、ねえぇ」のマチコに、
「戻ったのじゃ」とケイコは笑顔で返事をしましたが、
「大丈夫だった?」と腰を下ろしてエリコに声を掛けるマチコです。それに、
「うん」と大きく返事をするエリコ、ケイコも一緒に「うん」と言ったような、です。

「あれっ? それってぇ」

エリコの赤いバッグを見て驚いたマチコです。そしてケイコのバッグを確認すると、「ねえぇ、これ、どうしたのよぉ」とケイコに尋ねると、

「私の家礼けらいがくれたのじゃ」とエヘンのエリコが代わりに答えました。それに、
「じゃ?」と語尾を気にするマチコ、言ったことを恥ずかしく思うエリコです。

そこに、突然現れたヨシコです。そして屈み込むようにしてエリコを見ると、
「おやおや、一緒にいるうちにケイコの口癖が移ったのかね。それにしても」と言いながらケイコに視線を向け、「なんだかんだ、縁があるんだね~、あんたは」と、しみじみと感じるヨシコです。そして、「それじゃあ、ちょこっと記念撮影でもしようかね」というこ事になりました。

そうしてマチコ、エリコ、ケイコの順に並んだところで、「なんか変だけど、まあいいか」と指を合わせて構図を探るヨシコです。そして、「はい、笑顔でね~」の合図でパシャリと撮影が終わったようです。

因みにヨシコの手にカメラがあった訳ではありません。では、記念撮影したものはどうなったかというと、いつの間にか掲示板があって、そこに大きく写真が貼られていた、ということになっています。それもケイコの家に入ってすぐの場所です。そこならきっと誰もが覗いていくことでしょう。
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